設計思想
1. グレーで始まったチタンのマリーン
マリーンは、Breguetが2017年のマリーン エクアシオン マルシャント 5887で示した新しい意匠言語のもとに再構築されたシリーズである。その三針デイトの基幹モデルが、翌2018年にバーゼルワールドで発表された5517だった。
5517は当初、ホワイトゴールド、ローズゴールド、そしてチタンの3素材で登場した。Breguetがチタンを採用したのはこのときが初めてで、塩気や腐食への耐性というマリーンの主題に適う選択だった。ただし発表時のチタン版は、文字盤がスレートグレーの一種類のみ(スレートグレーの代表例が5517TI/G2)。サンレイ仕上げのグレーは硬質で工業的な印象を与え、貴金属版のギヨシェ文字盤とは対照的な、素っ気ないほど現代的な顔つきだった。
2. 2021年、チタンにブルーが加わった文脈
本仕様5517TI/Y1/9ZUが世に出たのは、その3年後の2021年である。この年Breguetは、チタンの5517・5527・5547の3型へ一斉にブルー文字盤を追加した。2018年のグレーに続く、2色目の選択肢だった。
Breguetにとってブルー文字盤は、本来ホワイトゴールドのために用意される色である。それをあえて最も廉価なチタンに与えた点に、この追加の意図が読める。サンレイ仕上げはグレーよりもブルーで陰影が立ち、光の角度で表情を変える。工業的だった初期チタン版に、海を思わせる色気を与え、マリーンという名にふさわしい情緒を取り戻す——そうした配色の調整が、この一本の存在理由といえる。
3. 5817からの世代交代と、5517の居場所
2018年の5517は、前世代マリーンの三針モデルRef. 5817を引き継いでいる。5817の径39mmに対し、5517は40mmへとわずかに拡大され、フルーテッドケースバンドやラグの造形も刷新された。本仕様はその新世代の枠組みの上に立つ。
シリーズの中で、5517はクロノグラフ5527やアラーム付き5547より下に位置する入口の一本である。そのなかでも本仕様は、同じチタン・ブルーの頭部を持つ兄弟が3種の装着方式で展開される。ブルーアリゲーター(本仕様9ZU)、ブルーラバー(5ZU)、チタンブレスレット(TZ0)である。革を選んだ9ZUは、スポーティな素材と古典的なブルーを最も穏当に橋渡しする構成といえる。
意匠分析
本仕様の核は、金無垢の地板に施されたブルーのサンレイ文字盤にある。貴金属版がギヨシェの波模様を刻むのに対し、チタン版は手仕上げのサンレイ装飾を選ぶ。Breguetの銘を囲む枠から外周へ向け、細い線が放射状に伸びる仕上げで、グレー版より陰影が深く、見る角度でブルーの濃淡が動く。
時字はアプライドのローマ数字で、夜光が充填される。針はBreguet特有の、先端を月形に抜いた金製のもので、こちらにも夜光が入る。秒針の尾には、Breguetの頭文字Bを示す海上信号旗をかたどった錘が付く。潜水計器ではなくドレッシーなスポーツウォッチであり、ベゼルは回転せず、ブラッシュとポリッシュで仕上げた固定式である。
ケースは径40mm、厚さ11.5mm。フルーテッド(縦溝)のケースバンドはBreguetの常套だが、新世代では溝が広く、稜線が鋭くなった。ストラップは中央のラグ1点で留める方式をとり、ねじ込み式のリューズは波形の意匠で守られる。22mm幅のブルーアリゲーターストラップがフォールディングバックルで組み合わされる。
ムーブメントは自社製自動巻Cal.777A。シリコン製のヒゲゼンマイと、シリコンの爪を持つ倒立型直進式脱進機を備え、毎時28,800振動 (4Hz)で55時間を駆動する。サファイアの裏蓋越しに見えるのは、舵を思わせる金無垢ローターと、ボートのデッキを連想させるコート・ド・ジュネーブ装飾である。100m防水 (10気圧)。
系譜と歴史
本仕様の母体となったマリーン 5517は、2017年のマリーン エクアシオン マルシャント 5887で示された意匠を受け、2018年3月のバーゼルワールドで発表された。このときチタン版の文字盤はスレートグレーの一種類で、装着はラバーまたは革に限られていた。2019年、チタンの3型にチタンブレスレットが加わり、スポーツウォッチとしての性格が強まる。2020年にはホワイトゴールドとローズゴールドにも金無垢ブレスレットが用意された。
ブルー文字盤のチタン版が登場したのは2021年である。Breguetはこの年、チタンの5517・5527・5547へ一斉にブルーのサンレイ文字盤を追加し、本仕様5517TI/Y1/9ZUもそのひとつとして加わった。同年Breguetはローズゴールド版にスレートグレー文字盤も追加しており、本仕様のブルー化は2021年の配色拡充の一環だった。頭部を共有する兄弟として、ブルーラバーの5517TI/Y1/5ZU、チタンブレスレットの5517TI/Y1/TZ0が同時に用意され、本仕様はブルーアリゲーターを合わせる。
発表以降、文字盤の刷りやムーブメント世代に関する公表された変更は確認できない。本仕様は現行カタログに掲載が続く一本である。