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BREGUET · SERIES

Marine

マリーン

1815年の海軍時計師の称号を起点に、ブレゲの伝統美をスポーツウォッチへ翻案した系譜。

40 mm
01 — 概要 / SUMMARY

マリーン (Marine) は、1990年にブレゲが発表したスポーツウォッチの系譜である。創業者アブラアム=ルイ・ブレゲが1815年に与えられた「海軍時計師」の称号と、船舶用クロノメーターの遺産を出発点とする。フルーテッドケースバンドと保護されたリューズを軸に、波模様のギヨシェ文字盤など海事の記号を意匠へ織り込んだ。現行は三針の5517、クロノグラフの5527、アラームの5547、走行式均時差を備える旗艦5887へと枝分かれする。ドレスウォッチの名門が手がける、抑制の効いたスポーツ・シックという立ち位置を保つ。

02 — STORY · 物語

Marine(マリーン)、これまでの軌跡

The story of this series
01

海軍時計師の称号

18世紀から19世紀の航海において、船の現在地を知ることは生死に関わる課題であった。緯度は六分儀で測れたが、経度の決定には正確な時計が欠かせない。出航地の時刻を狂いなく刻む船舶用クロノメーターは、六分儀と並ぶ最重要の航海装置だった。

アブラアム=ルイ・ブレゲは1814年にパリの経度局 (Bureau des Longitudes) の一員となり、翌1815年、ルイ18世から「海軍時計師 (Horloger de la Marine)」の称号を授けられる。当時この称号を同時に名乗れる者は一人だけで、時計師に与えられる最高位の名誉とされた。ブレゲはフランス艦隊へ高精度の船舶時計を供給し、二条香箱やデテント脱進機を組み込んで精度を高めたと伝わる。マリーンの名は、この海事との結びつきに由来する。

02

1990年、称号を腕に移す

現代のマリーンが登場するのは1990年である。デザインを手がけたのはヨルグ・イゼックで、ヴァシュロン・コンスタンタン222 (後のオーバーシーズの原型) などラグジュアリースポーツの分野で知られる人物である。

初代はRef. 3400 (メンズ) やRef. 8400 (レディース)、そしてRef. 5800「オルロジュ・ド・ラ・マリーン」を中心に構成された。コインエッジ仕上げのケース、ブレゲ伝統の指針、ローマ数字を残しつつ、他のブレゲにはない大ぶりのリューズとリューズガードを与えた点が特徴である。基幹ムーブメントはジャガー・ルクルト889系を土台とする調達キャリバーを自社で仕上げたものだった。ドレスウォッチの名門による初のスポーツウォッチは、まだ装飾的な色合いを残していた。

03

マリーンIIと硬派化

2004年、シリーズは大きく姿を変える。Ref. 5817「マリーンII」は、ケース径を39mmへ広げ、初めてステンレススチールを採用した。6時位置の大型日付、波模様のギヨシェ文字盤、100m防水。基幹ムーブメントはフレデリック・ピゲ1150を土台とするCal. 517で、二つの香箱から約65時間の駆動を得て、毎時28,800振動 (4Hz) で動く。

この世代で、マリーンは複雑機構へと枝を広げた。フライバック・クロノグラフのRef. 5827、ダイバー由来のアラームを備えるマリーン・ロワイヤル5847、第二時間帯やワールドタイムが順次加わる。「ドレス時計屋が考えたスポーツ時計」から、独自の硬派な顔へと輪郭を強めた時期である。

04

5887が告げた新世代

2017年のバーゼルワールドで、ブレゲはマリーン・トゥールビヨン・エクアシオン・マルシャント5887を発表する。トゥールビヨン、永久カレンダー、視太陽時と平均時の差を示す走行式均時差を一つの自動巻Cal. 581DPEに収めた最上位機だが、これは同時に新しいデザイン言語の宣言でもあった。

従来のコインエッジに代わり、ケースと一体化した中央ラグ、平坦に整えられたフルーテッドケースバンド、より単純で力強い文字盤。翌2018年、この語法は三針のRef. 5517とクロノグラフのRef. 5527へ展開され、ブレゲとして初めてチタンケースが採用された。5517の基幹Cal. 777Aはシリコン製ひげぜんまいと倒立式インラインレバー脱進機を備え、約55時間の駆動を持つ。意匠の刷新は当初戸惑いをもって迎えられたが、シリーズの現在形を決定づけた。

05

海への帰属と現在地

近年のマリーンは、海事との結びつきを意匠の隅々で語る。秒針の先端は手旗信号の「B (Bravo)」を象り、ケースのねじ頭は航路標識を思わせる。5887のローターは船の舵を、ケースバックには1752年就役の軍艦「ロワイヤル・ルイ」の彫刻を配する。ブレゲは海洋保護団体レース・フォー・ウォーターとも協働してきた。

2024年にはダイヤモンドを配したクロノグラフ5529とレディースの9518が加わり、2025年、創業250周年にあわせてワールドタイムのオラ・ムンディ5555/5557がマリーンへ移された。ノーチラスやロイヤルオーク、オーバーシーズが主役を演じるラグジュアリースポーツの文脈で、マリーンはやや控えめに語られてきた。だが海軍時計師の遺産という出自は、この分野で他に代えがたい固有の背景である。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

マリーンの設計思想は、「ブレゲの古典的な記号を、海事の実用へ翻案する」という一点に集約できる。

ケースバンドのフルーティング (縦溝) は、アブラアム=ルイ・ブレゲが多くの懐中時計に施した装飾であり、手から滑り落ちにくくする実用も兼ねていた。マリーンはこの溝を全世代で受け継ぐ。加えて、初代から与えられた大ぶりのリューズと波形のリューズガードがシリーズの顔をつくる。リューズの保護は防水性と堅牢性の表明であり、ドレス時計には不要な要素を、あえてマリーンに与えた判断がここにある。

意匠の細部は、徹底して海の記号で構成される。秒針の先端は手旗信号で「B」を表す形を象り、文字盤の波模様ギヨシェは海面を、ケースのねじ頭は航路標識を連想させる。アラームのRef. 5547では、鳴動時に船の鐘 (マリーンベル) が小窓へ現れる。いずれも装飾過多に陥らず、機能と物語を同居させる節度を保っている。

変わらないのは、ブレゲ共通の先端を抜いた指針 (ポム)、ローマ数字、そして視認性を最優先する姿勢である。一方で大きく変わったのはラグの構造だ。初代から続いたコインエッジのケースは、2017年以降、ケースと一体化した中央ラグへ刷新され、より現代的なスポーツの輪郭を得た。

ダイバーズウォッチを範とするオメガ・シーマスターやブランパン・フィフティ ファゾムスが「潜水具」を出発点とするのに対し、マリーンの出自は船舶用クロノメーターにある。防水性能も5517の100mから、複雑機構や宝飾モデルの50m・30mまでと幅があり、深海への到達を主眼としない。深く潜るための道具ではなく、航海の精度という遺産を腕へ翻案したスポーツ・シック。この差異が、発表から三十年余を経ても認識可能な「マリーンの顔」を支えている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1990-2004
Cal. 549 系 (JLC 889ベース)
調達ベースを自社で仕上げた三針自動巻の時代。
2004-2017
Cal. 517 系 (FP 1150ベース)
二条香箱65時間、毎時28,800振動の量産機。
2017-現在
Cal. 777A / 582 / 581DPE 系
シリコンひげぜんまいと倒立レバー脱進機を採用。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1990-2003

コインエッジ仕上げの初代

3400 5800
海軍時計の系譜を腕時計化、コインエッジケースの第一世代。
2004-2016

ステンレス採用のマリーンII

5817
ステンレス採用、39mmと6時位置の大型日付でより硬派に。
2017

新デザイン言語の宣言

5887
走行式均時差の旗艦で新デザイン言語を提示した転換点。
2018-現在

現行の三針とクロノグラフ

5517 5527
中央一体ラグの40mm、ブレゲ初のチタンケースを採用。
2024-現在

宝飾とワールドタイムの拡張

5529 9518 5555
宝飾モデルとワールドタイムがマリーンへ加わる。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive