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COMPLICATION · DEAD BEAT SECONDS

デッドビート秒

Dead Beat Seconds

機械式でありながら秒針を1秒ごとに刻み送り、秒の精確な読み取りを支えてきた表示機構

発明者
ジャン=モイーズ・プーゾ(独立式デッドビート秒)
inventor
発明年
1776
patented
分類
時間表示拡張
classification
01
Overview · 概要

デッドビート秒(dead beat seconds)は、秒針を1秒ごとの刻みで運針させる表示機構である。フランス語のセコンド・モルト(seconde morte)、ジャンピング・セコンドの名でも知られる。通常の機械式時計では秒針が微小な歩みで滑らかに掃くように見えるが、デッドビート秒はその連続的な運動を一度蓄え、1秒ごとに解放して、秒針を正確に1目盛りずつ進める。独立した秒表示の試みは18世紀に遡り、1776年にジャン=モイーズ・プーゾが二つの輪列を備えた懐中時計を製作したことが知られる。精度を高める機構ではなく、秒を読みやすくする表示機構であり、現代では希少な複雑機構に数えられる。

02
Principle · 仕組み・原理

仕組み・原理

1. 滑る秒針と跳ぶ秒針

機械式時計の秒針は、滑らかに掃くように動いて見える。しかしこれは厳密には連続運動ではない。秒針を駆動するテンプは1秒間に数回振動しており、その回数だけ秒針も微小な歩みを刻む。たとえば毎時28,800振動(4Hz)のムーブメントなら、秒針は1秒間に8回進む。歩みが細かいため、肉眼には連続した運針と映る。

デッドビート秒は、この細かな歩みを一度せき止め、1秒分をまとめて解放する機構である。秒針は1秒間まったく動かず、次の瞬間に1目盛りだけ跳ぶ。フランス語の「セコンド・モルト」(死んだ秒)という呼称は、跳躍と跳躍のあいだ秒針が静止する様子に由来する。クォーツ時計の運針と外観は似るが、その動きは電子回路ではなく純粋に機械で生み出される。

2. 蓄積と解放

跳ぶ秒針を実現する鍵は、エネルギーの蓄積と瞬間的な解放にある。輪列の連続回転をそのまま秒針に伝えるのではなく、1秒間その回転を押しとどめ、力を小さなバネに溜める。1秒が経過した瞬間、ロックが外れてバネが一気にほどけ、秒針を次の目盛りへ運ぶ。

この制御を担う代表的な部品が、星型の歯車(スターホイール)と、フリルト(flirt)あるいはウィップ(whip、鞭)と呼ばれるバネ仕掛けのレバーである。スターホイールは輪列の回転の速い軸に固定され、その先端がフリルトを受け止めてバネを張った状態で保持する。1秒ごとにスターホイールの先端がフリルトを解放すると、フリルトは勢いよく回転し、中間の歯車を介して秒針を6度——1秒分——進める。直後にスターホイールの次の先端がフリルトを再びとらえ、次の1秒に備える。秒針は1分間に60回、1日に86,400回、この跳躍を繰り返す。

3. 三つの方式

デッドビート秒の実装には決まった一つの正解はなく、設計者によって複数の方式が選ばれてきた。

一つは、時刻表示とは別に独立した輪列を設ける方式である。場合によっては1Hzで振動する専用のテンプや脱進機を持たせ、秒の表示を主ムーブメントから切り離す。二つめは、秒針を駆動する4番車から二次的な脱進機を引き出し、連続回転を1秒ごとの刻みへと分解する方式で、1954年のロレックス・トゥルービートがこれに近い構造を採った。三つめが、前章で述べたスターホイールとフリルトの組み合わせである。現代の多くの実装はこの方式、またはその変形を採用している。

4. 効果と限界

デッドビート秒について、しばしば「時計を正確にする機構」と説明されることがある。これは正しくない。時計の精度を司るのはあくまでテンプとヒゲゼンマイであり、秒針の運び方を変えても歩度そのものは改善しない。

デッドビート秒の本来の意義は、秒の読み取りやすさにある。秒針が目盛りの上で静止するため、ある瞬間の秒数を一目で正確に読める。歴史的には天文観測や航海、医師の脈拍計測でこの明瞭さが求められた。ただし機構の追加は摩擦とエネルギー消費を伴うため、パワーリザーブの確保や安定した動作には入念な設計を要する。なお、跳躍の駆動に用いるバネを動力経路上に組み込み、定力(コンスタントフォース)機構を兼ねさせた設計も存在するが、これは限られた実装に見られる工夫であり、デッドビート秒それ自体が精度を高めるわけではない。

03
History · 歴史

歴史

1. レギュレーターの刻みと、その模倣

精密な振り子時計、いわゆるレギュレーター時計では、秒針が1秒ごとに刻むのが古くからの姿であった。1秒で半往復する振り子の周期に合わせ、秒針が一歩ずつ進む。観測者や時計師は、この一定の刻みを精度の証として見慣れていた。

ここで混同を避けたい用語がある。「デッドビート脱進機」と「デッドビート秒」は別物である。デッドビート脱進機は、1675年にリチャード・タウンリーが考案し、18世紀初頭にジョージ・グラハムが改良・普及させた脱進機で、ガンギ車の逆戻り(反動)をなくすことを目的とする。一方、本稿で扱うデッドビート秒は、秒針を1秒ごとに跳ばせる「表示」の機構である。両者は名称に同じ語を含むが、解決しようとする課題が異なる。

2. 18世紀の独立秒

腕や懐中で携帯する時計のテンプは振り子より速く振動するため、秒針は振り子時計のようには刻まない。そこで時計師たちは、同じ視覚効果を小さな時計で得る工夫に取り組んだ。

時計史家ドミニク・フレションは『時の支配』のなかで、最初の死んだ秒を備えた時計を、ジュネーヴ生まれでパリで活躍したジャン・ロミリーが1754年に手がけたものとしている。この時計の秒針は計測のために止められたが、その際にはムーブメント全体も止まった。1776年、ジャン=モイーズ・プーゾはこの課題に取り組み、二つの輪列を備えた独立式の死んだ秒の時計を考案する。時刻表示を止めずに秒の表示だけを操作できるこの構造は、ゼロ復帰機能を欠いてはいたものの、後のクロノグラフへとつながる発想であった。プーゾは1786年に独自の脱進機(プーゾ脱進機)も設計している。

3. 20世紀の小型化

デッドビート秒は20世紀半ばに腕時計へと小型化された。オメガはCal.372「シンクロビート」を、ロレックスは1954年にRef.6556「トゥルービート」(Cal.1040)を世に出した。トゥルービートは脈拍を数えやすい時計として医師に向けて売り出されたとされる。

しかし、機械式でありながらクォーツのように刻むという性格は当時の市場に十分には受け入れられず、トゥルービートはおよそ5年で生産を終えた。修理の難しさもあり、現存数は少ない。

4. 現代の復興

20世紀末以降、デッドビート秒は複雑機構を愛でる文化のなかで再び注目された。オーストリアのハーブリング²は2000年代半ばから跳ぶ秒に取り組み、2007年に現代的な量産ムーブメントを発表、後に自社キャリバーA11を用いた「アーウィン」へと発展させた。2014年にはアーノルド&サンが機構を文字盤側に見せる「DSTB」を、2015年にはジャガー・ルクルトが1958年の地球物理観測用クロノメーターに着想した「ジオフィジック・トゥルーセコンド」(Cal.770)を発表した。F.P.ジュルンやA.ランゲ&ゾーネのように、跳ぶ秒を定力機構と組み合わせる実装も現れている。

04
Implementations · 代表的な実装

代表的な実装

デッドビート秒は単一のブランドの専売ではなく、量産時計から独立時計師の作品まで幅広い実装が存在する。

ロレックスRef.6556「トゥルービート」は、この機構を腕時計で広く知らしめた歴史的な一本である。Cal.1040は標準ムーブメントにデッドビート用の機構を加えた構成で、跳ぶ秒の腕時計が一度は商業の場に登場したことを示す記録として重要だ。

現代の量産機での代表例が、ジャガー・ルクルトのジオフィジック・トゥルーセコンドである。自動巻きのCal.770はスターホイールとバネ仕掛けのレバーで秒針を運び、観測機器としての読み取りやすさという機構本来の目的を現代に引き継いでいる。

独立時計師の領域では、オーストリアのハーブリング²が際立つ。同社の「アーウィン」は自社キャリバーをもとにデッドビート秒を比較的小型・薄型にまとめ、この機構を身近な存在へと近づけた。一方、ティムとバートのグロネフェルト兄弟による「ワン・ハーツ」は、時刻用と秒用に二つの輪列を独立させる構成を採り、機構の別解を示している。

機構の見せ方に踏み込んだのがアーノルド&サンの「DSTB」(Dial Side True Beat)である。デッドビート秒の機構を文字盤側に配置し、跳躍を生む動きそのものを鑑賞の対象とした。

A.ランゲ&ゾーネのリヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンド(Cal.L094.1)は、跳ぶ秒を定力機構およびゼロリセットと組み合わせた実装である。秒を駆動するバネが動力経路上で定力の役割も担い、複数の機構が一つの目的のもとに連携する設計思想を示している。

05
References · 搭載モデル