T600
ETA 2824-2 と Sellita SW200-1 を束ねる、2020年に整理されたチューダーの自動巻リファレンス番号
Cal. T600は、チューダーが2020年前後に整理した自動巻きムーブメントの内部リファレンス番号で、ETA 2824-2 または Sellita SW200-1 のいずれかをベースとする三針日付なし機構を指す。振動数は28,800vph (4Hz)、石数25石または26石、パワーリザーブ約38時間。日付機能を備えた姉妹キャリバーがT601として並走する。チューダー公式は「クロノメーター水準の性能」と表現するが、COSC認定は受けていない。自社製マニュファクチュール・キャリバーMT5xxx系を採用しないブラックベイ32/36/41などのエントリー〜中位機種を中心に搭載される。
| Maker | Tudor |
|---|---|
| Reference | T600 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 25 石 |
| Movement ⌀ | 25.6 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
系譜と歴史
命名の背景:2020年前後の整理
T600の起源は、チューダーが長年使用してきたETA 2824-2にある。1950年代以来、チューダーは姉妹ブランドであるロレックスの自社ムーブメントを共有せず、外部から調達したスイス汎用ムーブメントを内部呼称で搭載モデルに記載してきた。2010年代までは、入手したETA 2824-2を「Cal. 2824」と表記する運用が続いていた。
状況が変わったのは2020年前後である。スウォッチグループは、傘下のETA SAから外部ブランドへのムーブメント供給を段階的に絞り込む方針を進めており、独立系の汎用ムーブメント供給元としてセリタが台頭した。チューダーもこの流れの中で、ETA一辺倒の調達からセリタ併用へと舵を切る。複数の調達元を一つの内部呼称で束ねるため、チューダーは日付なしの三針自動巻を「T600」、日付付きを「T601」と命名する新リファレンス体系を導入したと伝わる。
二つのベース:ETA 2824-2 と Sellita SW200-1
ベースとなる2系統は、いずれも長い実績を持つスイスの業界標準ムーブメントである。ETA 2824-2は1972年に初代2824として登場し、1982年に改良型2824-2へと更新された自動巻キャリバーで、直径25.6mm、振動数28,800vph (4Hz)、石数25石、パワーリザーブ約38時間という基本仕様を持つ。Sellita SW200-1は2003年にETAの代替候補として登場し、2008年に現行型へ更新された。寸法と取り付け規格を2824-2と揃えつつ、香箱裏に1石を追加した計26石の構成を採る。
両者は外形寸法と取り付け規格が共通で、ケースやダイヤルを変更せずに置換可能な設計である。チューダー公式はT600として供給される個体にETAとセリタのどちらが搭載されているかを明示しておらず、コレクター層では「個体ごとにベースが異なる」という認識が定着している。
自社製MT5xxx系との分業
T600の存在意義は、チューダーの自社製ムーブメント体系であるMT5xxxシリーズとの分業関係に位置づけられる。2015年のMT5621(ノースフラッグ)、MT5612(ペラゴス)を皮切りに展開を始めたMT系列は、姉妹会社Kenissiが製造する70時間パワーリザーブ・シリコンヒゲゼンマイ・COSC認定取得の中核キャリバー群で、ブラックベイ58やペラゴスなどの主力モデルを支える。
一方T600は、入門価格帯のブラックベイ32/36/41(2021年〜)、ロイヤル、1926シリーズなどに搭載される。チューダーは自社製MT系を「マニュファクチュール・キャリバー」として大きく訴求する一方、T600の機構詳細は公式マーケティングで多くを語らない構成を取っている。汎用ムーブメントを基盤とするT600は、堅実な実績と価格適合性を持って同社のエントリー〜中位機種を支えており、自社製旗艦群とは異なる位置から製品ラインの裾野を形成している。
技術解説
基本仕様と構成
T600のベースとなるETA 2824-2 および Sellita SW200-1 は、いずれも直径25.6mmのスイス標準サイズに収まる三針日付なし自動巻機構である(T600は日付なし版、日付付きはT601)。香箱・輪列・スイスレバー脱進機・テンプを順に配置する古典的レイアウトを採り、機能は時・分・秒のみで、秒針には停止機能(ハック)を備える。
石数はベースがETA 2824-2 の場合25石、Sellita SW200-1 の場合26石となる。セリタは香箱裏のバレルアーバー部分に1石追加した構造で、自動巻機構の摩擦低減を意図したとされる。両者は外形と取り付け互換性を保ちつつ、内部の部品設計や仕上げで細部の差異を持つ。
振動数と精度
テンプは28,800vph (4Hz) で振動する。4Hz設計は1秒あたり8振動を刻み、秒針が滑らかに進行して見えるほか、3Hzに比べて衝撃や姿勢変化による外乱を吸収しやすいとされる。現代の汎用ムーブメントで広く採用される業界標準値であり、T600もこれを継承する。
精度等級については、ETA 2824-2 がスタンダード、エラボレ(Élaboré)、トップ、クロノメーターの4階梯で供給され、調整姿勢数とヒゲゼンマイ素材、耐震装置が階梯ごとに異なる。スタンダードはNivaroxヒゲと2姿勢調整で±12〜30秒/日、エラボレは3姿勢調整で±7〜20秒/日、トップは5姿勢調整・AnachronヒゲとIncabloc耐震で±4〜15秒/日が公称される。Sellita SW200-1も対応する4階梯(Standard、Special、Premium、Chronometer)を備える。
T600として供給される個体がどの階梯に相当するかは、チューダーの公式マーケティングでは明示されていない。チューダー側は「クロノメーター水準の性能」と表現する一方、COSC認定そのものは受けておらず、自社製MT系統のCOSC認定およびマスタークロノメーター認定とは明確に区別された運用が取られている。
自動巻機構
ローターはボールベアリング支持の双方向巻き上げ方式で、左右どちらの回転でも香箱にゼンマイ張力を蓄積する。これにより装着者の腕の動きに対する巻上効率が向上し、片方向方式に比べてゼンマイへの負荷分散も均一化される。ETA系・セリタ系のいずれも、ベース設計はEterna 1427に遡る自動巻機構の発展型である。
香箱は1ゼンマイで、約38時間のパワーリザーブを実現する。これは2824-2/SW200-1の公称値であり、チューダーもT600として同等値を公開している。70時間級の長時間パワーリザーブを持つ自社製MT5xxx系と比較すると短いが、香箱容量・テンプ・脱進機の比例関係を保った古典的な設計の帰結である。
仕上げと外観
T600搭載モデルの大半はソリッドバックを採用し、ローターや受けの装飾は外部から視認できない設計となる。これは汎用ムーブメントを基盤とするエントリー〜中位機種に共通する仕様であり、シースルーバックと装飾仕上げを伴って自社製を誇示するMT5xxx系上位モデルとは対照的な構成となっている。