系譜と歴史
1. Master Chronometerという文脈
Cal. 8806を語るには、まず2015年にオメガが新設したMaster Chronometer認証を押さえる必要がある。COSC認定を前提に、ケーシング後の完成品で精度・耐磁性・パワーリザーブ・防水性能を10日間8項目で検査する独自規格で、日差0/+5秒以内、15,000ガウスまでの耐磁を保証する。軟鉄インナーケースに依存せず非磁性素材で耐磁を実現する点が、それまでの業界水準と画した。
この認証を担う新世代キャリバー群として、Cal. 8500系を刷新したCal. 8900系(2015年Globemasterで初搭載)と、それより小径のCal. 8800系が整備された。Cal. 8806は、後者すなわち11.5ライン(約26mm径)のCal. 8800ファミリーの一員である。
2. Railmasterのための無垢裏蓋
Cal. 8806が初めて世に出たのは、2017年Baselworldで発表された「1957 Trilogy」、すなわちSpeedmaster、Railmaster、Seamaster 300の60周年復刻三部作のうち、RailmasterおよびSeamaster 300である(Speedmaster は手巻のCal. 1861を積む)。同じBaselworldでは、40mmのSeamaster Aqua Terra Railmaster にもCal. 8806が搭載された。とりわけRailmasterは1957年に登場した耐磁プロフェッショナル時計で、当初から軟鉄インナーケースによる磁気シールドを採用していた歴史を持つ。
新生Railmasterは、ムーブメント自体が15,000ガウスの耐磁性を備えることで、軟鉄インナーケースに頼らずに耐磁時計の系譜を引き継いだ。ダイヤルは1950年代意匠を踏襲し、日付窓を持たない三針構成が望まれた。この要請に応える、Cal. 8800ファミリーの日付なし三針版がCal. 8806である。日付付きの「本家」Cal. 8800が新型Seamaster Diver 300Mに搭載されBaselworldを賑わせたのは翌2018年であり、ファミリーの公式デビュー順としてはむしろ8806が先行した。
3. 8800ファミリーの系譜
Cal. 8806は、Cal. 8800を基盤とする一連のバリエーションの一角を占め、日付表示を持たない三針構成を担う。日付機構を持たないことで、ダイヤル意匠の自由度が広がった格好である。