L788.2 ND
2012年、単一プッシュボタンの伝統をコラムホイールで現代化した、ロンジン専用の自動巻クロノグラフ機構
L788.2は、ロンジンがETAと共同開発した自社専用の自動巻コラムホイール・クロノグラフであり、ベースはETA A08.L11である。28,800vph (4Hz)で駆動し、27石、パワーリザーブ54時間を備える。クロノグラフの始動・停止・復針を、リューズに組み込んだ単一のプッシュボタンで操る単一プッシュピース機構を核とする。「ND」はNo Date(無日付)を意味する呼称で、機構そのものはL788.2と同一ながら、日付表示を用いない仕様を指す。アビエーション ウォッチ タイプ A-7 1935のブロンズ「ザ・アワーグラス」などに搭載される。
| Maker | Longines |
|---|---|
| Reference | L788.2 ND |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 27 石 |
| Power reserve | 54 h |
| Movement ⌀ | 30 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel, Monopoussoir |
系譜と歴史
単一プッシュボタンという系譜
ロンジンとクロノグラフの関わりは深い。同社初のクロノグラフ機構とされるCal.20Hは1878年に遡り、これも始動・停止・復針をひとつのボタンで担う単一プッシュピース式であったと伝わる。1913年には腕時計用のモノプッシャー・クロノグラフCal.13.33Zを発表し、続く1936年のCal.13ZNは、20世紀を代表するクロノグラフのひとつとして今日まで語られる。L788.2が受け継ぐのは、この一世紀を超える単一ボタンの伝統である。リューズと一体化したボタンだけで全機能を操る簡潔さは、懐中時計時代の作法を現代の腕時計へ翻訳したものといえる。
コラムホイール化という選択
2000年代後半、ロンジンは中庸な価格帯にコラムホイール・クロノグラフをもたらすことを構想した。土台に選ばれたのは、ETAが2006年に立ち上げたヴァルグランジュ系列で、これはカム切替式のヴァルジュー7753系を発展させた設計にあたる。ここに、より伝統的とされるコラムホイール(柱状の制御車)を据えたものがA08.L01であった。2010年、この機構は2プッシャーのL688として結実し、サンティミエ・コレクション等に搭載される。2012年には単一プッシュピース版のL788が登場し、2015年前後に改良版のL788.2へと移行した。L688系がA08.L01を基番とするのに対し、単一ボタンのL788系はA08.L11を基番とする。
「ND」が指すもの
L788.2 NDは、独立した別機構ではない。「ND」はNo Date(無日付)の略で、本来L788.2が備える日付表示を用いない仕様を、データベース上で区別するための呼称である。その代表が、2019年のアビエーション ウォッチ タイプ A-7 1935 ブロンズ「ザ・アワーグラス」だ。40度傾いた文字盤で知られるパイロット・クロノグラフから日付窓を省き、二つのインダイヤルのみとした構成は、本機構の無日付運用を端的に示す。近年のロンジンがシリコン製ヒゲゼンマイと長時間駆動へ向かうなかで、L788.2は単一ボタンの古典的な味わいを保ち続ける存在である。
技術解説
基本設計
L788.2の土台は、ETA A08.L11である。これはヴァルジュー7753——3時・6時・9時配置のカム切替式クロノグラフ——のアーキテクチャを引き継ぎつつ、クロノグラフ部を全面的に再設計した機構にあたる。寸法は13¼リーニュ(径約30mm)、石数は27石、調速はスイス製アンクル脱進機(ガンギ車とアンクルで脱進を司る機構)による。テンプ(往復回転で時を刻む調速輪)は28,800vph (4Hz)で振動し、1秒を8分割する分解能を持つ。緩急の微調整はエタクロン式のヒゲ持ちで行う。輪列は単一の香箱から脱進機へ動力を伝え、クロノグラフ作動の有無にかかわらず時刻表示の精度を保つ。
コラムホイールと垂直クラッチ
本機構の核心は、カムに代わるコラムホイールである。歯と柱を交互に備えたこの制御車が回転するたび、各レバーが順に作動し、始動・停止・復針の指令を伝える。作動の節度が明確で、押下時のクリック感へ直結する点が、古くからコラムホイールが重んじられてきた背景である。動力の断続には、テンプ側の輪列とクロノグラフ輪列をつなぐ垂直クラッチを採り、これにオシレーティングピニオン(振動ピニオン)を組み合わせる。二つの計測を断続する際の針飛びを抑える設計で、7750系の水平クラッチとは異なる挙動を示す。復針は、自己調整式の二腕ハンマーが二つの計測軸を同時に零へ戻すことで行われる。
単一プッシュピースの操作
L788.2を特徴づけるのは、リューズに統合された単一のプッシュボタンである。一度押せば始動、再度で停止、三度目で復針という循環を、ひとつのボタンが受け持つ。二つの押しボタンを左右に配する一般的なクロノグラフに対し、操作部を一点へ集約した構成は、視覚的な簡潔さと懐中時計的な趣を併せ持つ。
巻き上げと仕上げ
自動巻はボールベアリング軸の単方向ローターが担い、巻き上げ時の振動を抑えた設計とされる。香箱はひとつで、54時間のパワーリザーブを供給する。仕上げは、ローターにコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ・ストライプ)、地板にペルラージュ(真珠状の円形装飾)を施し、コラムホイールはブルーに彩られる。クロノメーター認定は受けないものの、コラムホイールと垂直クラッチを備えた機構を、開かれた裏蓋越しに鑑賞できる点に本機の性格が表れる。なお、L788.2 NDはこの機構から日付表示を省いたのみで、調速・脱進・クロノグラフ部の構造に差異はない。