系譜と歴史
単一プッシュボタンという系譜
ロンジンとクロノグラフの関わりは深い。同社初のクロノグラフ機構とされるCal.20Hは1878年に遡り、これも始動・停止・復針をひとつのボタンで担う単一プッシュピース式であったと伝わる。1913年には腕時計用のモノプッシャー・クロノグラフCal.13.33Zを発表し、続く1936年のCal.13ZNは、20世紀を代表するクロノグラフのひとつとして今日まで語られる。L788.2が受け継ぐのは、この一世紀を超える単一ボタンの伝統である。リューズと一体化したボタンだけで全機能を操る簡潔さは、懐中時計時代の作法を現代の腕時計へ翻訳したものといえる。
コラムホイール化という選択
2000年代後半、ロンジンは中庸な価格帯にコラムホイール・クロノグラフをもたらすことを構想した。土台に選ばれたのは、ETAが2006年に立ち上げたヴァルグランジュ系列で、これはカム切替式のヴァルジュー7753系を発展させた設計にあたる。ここに、より伝統的とされるコラムホイール(柱状の制御車)を据えたものがA08.L01であった。2010年、この機構は2プッシャーのL688として結実し、サンティミエ・コレクション等に搭載される。2012年には単一プッシュピース版のL788が登場し、2015年前後に改良版のL788.2へと移行した。L688系がA08.L01を基番とするのに対し、単一ボタンのL788系はA08.L11を基番とする。
「ND」が指すもの
L788.2 NDは、独立した別機構ではない。「ND」はNo Date(無日付)の略で、本来L788.2が備える日付表示を用いない仕様を、データベース上で区別するための呼称である。その代表が、2019年のアビエーション ウォッチ タイプ A-7 1935 ブロンズ「ザ・アワーグラス」だ。40度傾いた文字盤で知られるパイロット・クロノグラフから日付窓を省き、二つのインダイヤルのみとした構成は、本機構の無日付運用を端的に示す。近年のロンジンがシリコン製ヒゲゼンマイと長時間駆動へ向かうなかで、L788.2は単一ボタンの古典的な味わいを保ち続ける存在である。