系譜と歴史
1. 「時計師の時計師」が築いた薄型自動巻の系譜
ジャガー・ルクルトは、20世紀を通じて自社モデルを手がける一方、パテック・フィリップ、オーディマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンといった名門にエボーシュ(半完成ムーブメント)を供給してきた。「時計師の時計師」と呼ばれるゆえんである。なかでも1967年のCal.920、そして1984年に登場したCal.889は、薄型自動巻の基準を築いた。889はオーディマ・ピゲの要請を契機に開発されたと伝わり、より多くの複雑機構を安定して載せられる汎用性を備えていた。結果として889は、AP、ヴァシュロン、IWC、ブレゲ、カルティエなど多くのブランドに採用される長寿キャリバーとなった。
2. 889から899、そして898系へ
Cal.899は、この889を土台に大幅な改良を加えた世代である。巻き上げ方式や調速機構を見直し、信頼性と量産性を両立させた。2013年、この899を基に、より薄いモデル向けの派生として898系が整えられた。898系は基本型で時・分のみを表示し、デイ&ナイト表示を加えた898A、中央秒針を備えた898E/1といった構成違いが用意された。いずれも厚さ3.30mmという薄さを共有する。898系は、汎用性の高い基幹機を必要に応じて仕立て直すという、JLCの設計思想を素直に映した系列といえる。
3. ポラリス・オートマティックという居場所
898E/1が広く知られるのは、2018年に発表されたポラリス・オートマティックの基幹ムーブメントとしてである。1968年のメモボックス・ポラリスを源流とするこのスポーツウォッチは、ケース径41mmに薄型の898E/1を収めた。日付を持たず時・分・中央秒に徹する構成は、文字盤の見通しを優先したものである。なお、その後のポラリス・オートマティックには日付付きの899A/1が、Cal.899系の現行世代にはシリコン製脱進機を採る899ACが用いられるなど、この系譜は現在も枝分かれを続けている。898E/1は、その大きな家系のなかで、薄さと中央秒針表示を担う一枝として位置づけられる。