898E/1
薄型自動巻Cal.899系から派生し、中央秒針を備えた一本。2018年発表のポラリス・オートマティックを駆動する基幹ムーブメントである
898E/1は、ジャガー・ルクルトが自社で開発・製造する薄型自動巻キャリバーである。1980年代の名機Cal.889にさかのぼる系譜を持ち、その改良版Cal.899から2013年に派生した898系の一員にあたる。898系の基本型が時・分のみを表示するのに対し、898E/1は中央秒針を加えた構成を採る。28,800vph (4Hz)で時を刻み、約40時間のパワーリザーブを備える。フリースプラング・テンプや一方向巻き上げローターなど、Cal.899系の機構を受け継ぐ。2018年発表のポラリス・オートマティックに搭載され、JLC独自の品質試験「1000時間コントロール」を経て出荷される。
| Maker | Jaeger-LeCoultre |
|---|---|
| Reference | 898E/1 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 30 石 |
| Power reserve | 38 h |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds |
系譜と歴史
1. 「時計師の時計師」が築いた薄型自動巻の系譜
ジャガー・ルクルトは、20世紀を通じて自社モデルを手がける一方、パテック・フィリップ、オーディマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンといった名門にエボーシュ(半完成ムーブメント)を供給してきた。「時計師の時計師」と呼ばれるゆえんである。なかでも1967年のCal.920、そして1984年に登場したCal.889は、薄型自動巻の基準を築いた。889はオーディマ・ピゲの要請を契機に開発されたと伝わり、より多くの複雑機構を安定して載せられる汎用性を備えていた。結果として889は、AP、ヴァシュロン、IWC、ブレゲ、カルティエなど多くのブランドに採用される長寿キャリバーとなった。
2. 889から899、そして898系へ
Cal.899は、この889を土台に大幅な改良を加えた世代である。巻き上げ方式や調速機構を見直し、信頼性と量産性を両立させた。2013年、この899を基に、より薄いモデル向けの派生として898系が整えられた。898系は基本型で時・分のみを表示し、デイ&ナイト表示を加えた898A、中央秒針を備えた898E/1といった構成違いが用意された。いずれも厚さ3.30mmという薄さを共有する。898系は、汎用性の高い基幹機を必要に応じて仕立て直すという、JLCの設計思想を素直に映した系列といえる。
3. ポラリス・オートマティックという居場所
898E/1が広く知られるのは、2018年に発表されたポラリス・オートマティックの基幹ムーブメントとしてである。1968年のメモボックス・ポラリスを源流とするこのスポーツウォッチは、ケース径41mmに薄型の898E/1を収めた。日付を持たず時・分・中央秒に徹する構成は、文字盤の見通しを優先したものである。なお、その後のポラリス・オートマティックには日付付きの899A/1が、Cal.899系の現行世代にはシリコン製脱進機を採る899ACが用いられるなど、この系譜は現在も枝分かれを続けている。898E/1は、その大きな家系のなかで、薄さと中央秒針表示を担う一枝として位置づけられる。
技術解説
基本構成
898E/1は、28,800vph (4Hz)で振動する自動巻キャリバーである。4Hzとは1秒あたり8回の半振動を指し、テンプが速く往復するほど外乱の影響を受けにくく、安定した歩度を得やすい。表示は時・分・中央秒のみで、日付機構を持たない。ベースとなる898系は厚さ3.30mmと薄く、薄型ケースへの収まりを重視した設計である。基幹となるCal.899系は、JLCが他ブランド向けにも供給してきた量産規模の大きい系列であり、その蓄積が個々の派生キャリバーの完成度を支えている。
調速と巻き上げ
調速機構の核は、Cal.899系から受け継いだフリースプラング・テンプである。歩度を微調整する緩急針を用いず、テンプ周縁に配したネジの位置で慣性モーメントを変えて精度を整える方式で、外乱に強いとされる。ヒゲゼンマイ(テンプの往復を司るぜんまい)は固定式とされ、姿勢差や衝撃時のずれを抑える狙いがある。巻き上げは一方向式で、ローターはセラミック製のボールベアリングで支持される。前身の889が用いた双方向切替の機構に比べ、部品点数と摩擦を抑えた構成といえる。香箱(ぜんまいを収める部品)は889から拡大・最適化され、約40時間のパワーリザーブを確保している(資料により38時間とする記載もある)。
中央秒針という構成
898系は本来、時・分のみ、あるいはデイ&ナイト表示を備える時分時計向けに設計されている。898E/1の「E」は、ここに中央秒針を加えた構成を指すと考えられる。秒を中央に集約することで、スポーツウォッチであるポラリス・オートマティックの視認性に寄与する。日付を持たないぶん、文字盤側の見通しと薄さが保たれている。石数は30石とされる。
仕上げと品質試験
仕上げは、ブリッジとローターにコート・ド・ジュネーブ(ジュネーブ縞)、地板にサーキュラーグレイン(円状の擦り目)を施す。ローターはJLCロゴを象った透かし彫りで、サファイアクリスタルの裏蓋越しに鑑賞できる。ケーシング後の個体は、ジャガー・ルクルトが1992年に導入した独自試験「1000時間コントロール」にかけられる。6週間にわたり、6姿勢での歩度、温度変化、衝撃、防水、パワーリザーブなどを検査する内容で、その期間はCOSC(スイス公認クロノメーター検定協会)の検定のおよそ2倍に及ぶとされる。クロノメーター認定とは別に、ブランド自らが完成状態の時計に課す品質基準である。