759
2020年、クロノグラフと完全カレンダーを初めて統合した、ジャガー・ルクルト自社製の自動巻クロノグラフ
Cal.759は、ジャガー・ルクルトが2020年に発表した自社製の自動巻クロノグラフキャリバーである。同社が個別に手がけてきたクロノグラフと完全カレンダー(曜日・日付・月)、ムーンフェイズを一つのムーブメントに統合した初の機構で、マスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダーに初搭載された。コラムホイールと垂直クラッチによる積算機構を核とし、毎時28,800振動 (4Hz)、ツインバレル(二つの香箱)によりパワーリザーブは65時間に達する。文字盤外周にはパルスメーター目盛を備え、自社初の自動巻クロノグラフであるCal.751系の構造を出発点として開発されている。
| Maker | Jaeger-LeCoultre |
|---|---|
| Reference | 759 |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 41 石 |
| Power reserve | 65 h |
| Movement ⌀ | 25.6 mm |
| Hands | Hours, Minutes |
| Date | Date, Day, Month |
| Chronograph | Chronograph, Column wheel |
| Astronomical | Moonphase |
系譜と歴史
1. 自社製クロノグラフの系譜
ジャガー・ルクルトは、長く他ブランドへエボーシュやコンプリケーションを供給してきた歴史から「時計師の時計師」と呼ばれる。だが自社初の自動巻クロノグラフが完成したのは2004年と、比較的近年のことである。この年に登場したCal.751と姉妹機Cal.752は、コラムホイールと垂直クラッチを組み合わせた一体型クロノグラフで、以後マスター・コンプレッサー・クロノグラフやポラリス・クロノグラフなど、同社の主力クロノグラフの基盤となった。Cal.759は、この751系を出発点として開発されたキャリバーである。
2. 二つの複雑機構の統合
Cal.759が担った課題は明快であった。ジャガー・ルクルトはクロノグラフと完全カレンダー、ムーンフェイズをそれぞれ単独では長く手がけてきたが、両者を一つのムーブメントに同居させた例はなかった。2020年、マスター・コントロール・コレクションの刷新に際し、その空白を埋める技術的フラグシップとして本機が投入された。751系の積算機構の上にカレンダーとムーンフェイズのモジュールを重ね、毎時28,800振動・65時間という現代的なスペックでまとめている。同じ刷新では、時刻・日付表示を担うCal.899系にシリコン製脱進機や香箱の再設計が導入され、コレクション全体の効率が底上げされた。一部の資料はこのシリコン脱進機を759にも帰しているが、実機を観察したレビューはフリースプラング(緩急針を持たない)テンプとして記述しており、759への適用については情報が一致していない。
3. 一体型クロノグラフの設計潮流
垂直クラッチとコラムホイールを核とする薄型の一体型クロノグラフは、現代の上級クロノグラフが共有する設計思想である。専門メディアは759系の構造を、コンパクトな一体型クロノの定番とされるフレデリック・ピゲ1185と連想的に結びつけ、同じグループに属するパネライやカルティエが用いるクロノグラフとの構造的な近縁性も指摘する。これは優劣ではなく、産業全体で共有された設計の系譜を示すものである。仕上げの面では、コート・ド・ジュネーブと「JL」モチーフを刻む金無垢ローターによって、ジャガー・ルクルトはこの実用的な機構に同社らしい性格を与えている。
技術解説
積算と調速の機構
Cal.759の積算機構は、コラムホイールと垂直クラッチという、現代の上級クロノグラフを特徴づける二つの要素で構成される。コラムホイールは円柱状の歯を持つ制御車で、プッシュボタンの操作をクロノグラフの始動・停止・復針へと順序立てて振り分ける。カム式に比べて部品同士の当たりが滑らかで、操作感の質を左右する部品とされる。垂直クラッチは、計時用の車を上下方向の摩擦で接続する伝達方式である。水平クラッチで生じがちな始動時の秒針の微小な飛びを抑え、クロノグラフ秒針が静止状態から滑らかに走り出す。衝撃を受けても時刻に誤差を生じにくい点も、垂直方式の利点とされる。
調速はフリースプラング・テンプが担う。緩急針を用いず、テンプ外周に配したマス(おもり)を回して慣性モーメントを調整する方式で、緩急針付きに比べて姿勢差や衝撃に対して安定しやすい。毎時28,800振動 (4Hz) は1秒間に8回テンプが往復する速さを意味し、外乱への復元力と耐久性のバランスが取りやすい振動数である。香箱はツインバレル(二つの香箱)構成で、二本のゼンマイを連結することで65時間のパワーリザーブを確保する。二本のゼンマイを並列に働かせる構成は、放出されるトルクの変動をならし、テンプへ届く力を平坦に保つことで精度の安定にも寄与するとされる。自動巻はマジックレバーと呼ばれる爪式の両方向巻き上げ機構で、ローターの正逆どちらの回転も効率よく巻き上げに変換する。復針レバーを一体部品としてまとめるなど、部品点数を抑えた合理的な設計も指摘されている。
表示・仕上げ・認定
文字盤側にはクロノグラフに加え、曜日・日付・月を示す完全カレンダーとムーンフェイズが載る。外周のパルスメーター目盛は、一定の脈拍(通常15拍)を計測してクロノグラフを止めると、1分間あたりの脈拍数を直読できる医療由来の目盛である。仕上げの面でも、ジャガー・ルクルトはこの実用機構に手をかけている。地板やブリッジにはコート・ド・ジュネーブが施され、ロジウム調の地に焼き入れねじが差し色を添える。自動巻ローターは透かし彫りの金無垢で、「JL」モチーフを刻む。完成した時計は、ケーシング後の状態で測定する同社独自の「1000時間コントロール」を受ける。これはムーブメント単体ではなく、ケースに収めた実使用に近い状態で1000時間にわたり精度・防水・耐久を検証する社内基準で、マスター・コントロール・コレクションの名の由来でもある。749系から受け継いだ堅実な輪列構成は、長期の運用と保守を見据えた設計でもある。ムーブメント径は約25.6mm、部品点数はおよそ356個と報じられている(石数は資料により36〜41石と幅がある)。