本文へ
CALIBER · CARTIER

1917 MC

手巻 Handwound Analog

丸い機械を異形のケースに収める。カルティエが自社で開発したトノー型の手巻ムーブメント

1917 MC
movement · 1917 MC
図: ムーブメント — WatchBase
OVERVIEW · 概要

Cal. 1917 MCは、カルティエが自社で設計したトノー型の手巻ムーブメントである。円形の機械では生じる左右の余白を排し、タンクやクラッシュといった異形ケースへ無駄なく収めるために開発された。振動数は21,600vph (3Hz)、パワーリザーブは38時間、石数は19石で、機能は時分の二針に絞られる。横16.4mm、厚さ3mm未満という小型設計が特徴で、ケースに組み込まれた常磁性合金のシールドが耐磁性を担う。タンク ルイ カルティエの手巻仕様やタンク アシメトリック、クロッシュ ドゥ カルティエなどに搭載される。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerCartier
Reference1917 MC
TypeHandwound
DisplayAnalog
Jewels19 石
Power reserve38 h
Movement ⌀12.9 mm
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

1. 異形ケースという宿題

カルティエの時計史は、ケース形状の探求と不可分である。1917年のタンク、トノー、クラッシュなど、丸形を離れた意匠が数多く生まれてきた。だが機械式ムーブメントの多くは円形を基本とする。円い機械を細長いケースに納めれば左右に余白が残り、文字盤やケースの設計が制約を受ける。Cal. 1917 MCは、この古くからの課題に正面から答えるために生まれた手巻キャリバーである。型番の「1917」は、ルイ・カルティエがタンクを世に出した年に由来する。

外形はトノー(樽)型で、寸法は16.4×12.9mm、厚さは3mm未満に収まる。この細長い輪郭により、タンク ルイ カルティエやクラッシュのような幅の狭いケースへ、余白を抑えて据えることができる。カルティエ自身、この機構を通常は円形の機械をより狭いケースへ適合させる挑戦と位置づけている。

2. ラ・ショー・ド・フォンの自社開発

Cal. 1917 MCは、カルティエがスイス・ラ・ショー・ド・フォンに構える自社マニュファクチュールで設計・製造される。同社は2001年に同地へ拠点を開き、自社ムーブメントの開発を本格化させた。2005年から2020年にかけて開発部門を率いたカロル・フォレスティエ=カサピの下で、複雑機構や異形キャリバーの設計力を蓄えてきた経緯がある。

このキャリバーは、当初は小型のレディースモデルを中心に展開されたと伝わる。2018年頃にタンク系の小型モデルへ初めて載り、2019年のトノー復刻で広く知られるようになった。振動数を21,600vph (3Hz)に抑えた設計は、現代の4Hz機が主流の中ではゆとりある拍動といえる。小径ゆえにパワーリザーブは38時間と長くはないが、毎日の巻き上げを前提とするドレスウォッチには無理のない設定である。

3. 搭載モデルと異形キャリバーの系譜

Cal. 1917 MCは、タンク ルイ カルティエの手巻仕様を中心に、ソリッド文字盤のタンク アシメトリック、カルティエ プリヴェのトノー、クロッシュ ドゥ カルティエなど、形の異なる複数のモデルへ供給されてきた。搭載モデルの幅広さは、ひとつの異形キャリバーが複数の意匠を横断するという、カルティエらしい運用を示している。

この手巻キャリバーには、自動巻の兄弟機も存在する。2023年に登場した異形の自社製自動巻 Cal. 1899 MCは、タンク アメリカンやタンク ルイ カルティエの自動巻仕様に用いられ、狭いケースへ機械を収める思想を共有する。スケルトン仕様のタンク アシメトリックには別系統の透かし彫りキャリバーが充てられるなど、カルティエは形ごとに最適な機械を割り当てる体制を整えている。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

トノー型という設計思想

Cal. 1917 MCの核心は、地板そのものがトノー(樽)型に成形されている点にある。一般的な手巻ムーブメントは円形の地板を持つが、本機は輪列や香箱の配置を細長い輪郭へ沿わせて組み直している。これにより、幅の狭い異形ケースにも余白を残さず収まる。寸法は16.4×12.9mm、厚さは3mm未満で、石数は19石である。石(ルビー製の軸受)は歯車の軸が受けや地板と擦れる箇所へ据えられ、摩擦と摩耗を抑える役割を担う。自動巻のローターを持たない手巻専用機であることも、3mm未満という薄さを支える要因である。

振動数とテンプ

調速を担うテンプ(往復回転する調速輪)は、毎時21,600回、すなわち3Hzで振動する。これは現代の主流である4Hz(28,800vph)より遅い拍動で、1970年代以前の設計に近い数値である。振動数が低いほど一振りあたりの消費エネルギーは小さく、限られた香箱容量でも実用的な持続時間を引き出しやすい。耐震機構にはインカブロック式、緩急の調整にはエタクロン式の調速機構が用いられるとされる。エタクロン式は、ヒゲゼンマイ(渦巻き状の調速ばね)の有効長を微調整して歩度を整える方式である。

香箱とパワーリザーブ

動力源である香箱(ぜんまいを収める円筒)は単一構成で、満巻きからおよそ38時間の駆動を可能にする。二つの香箱を連ねて長時間化を図る設計とは対照的に、本機は小径という制約の中で動力機構を簡潔にまとめている。日々手で巻くことを前提とするドレスウォッチでは、この持続時間でも運用上の不足は生じにくい。

耐磁とケース側の工夫

Cal. 1917 MC自体は、シリコン製ヒゲゼンマイのような非磁性部品を前面に出した設計ではない。代わりにカルティエは、ケース側へ常磁性(パラマグネティック)合金のシールドを組み込み、外部磁界からムーブメントを保護すると説明している。覆いでムーブメントを囲い磁束を迂回させるという発想は、軟鉄インナーケースに通じる古典的な耐磁手法の系譜にある。

仕上げと位置づけ

装飾面では、受け板にコート・ド・ジュネーブ(平行な波状の筋目)が引かれ、限られた面積の中で光の表情をつくる。Cal. 1917 MCは、高振動と長大なパワーリザーブを追う高耐久型の機械ではなく、薄さと形、そして仕上げの繊細さに価値を置くドレス用キャリバーである。時分のみという簡潔な機能構成も、薄型を保ちつつ文字盤の意匠を引き立てるための選択といえる。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 1 本のリファレンス

This caliber appears in 1 references