系譜と歴史
1. 異形ケースという宿題
カルティエの時計史は、ケース形状の探求と不可分である。1917年のタンク、トノー、クラッシュなど、丸形を離れた意匠が数多く生まれてきた。だが機械式ムーブメントの多くは円形を基本とする。円い機械を細長いケースに納めれば左右に余白が残り、文字盤やケースの設計が制約を受ける。Cal. 1917 MCは、この古くからの課題に正面から答えるために生まれた手巻キャリバーである。型番の「1917」は、ルイ・カルティエがタンクを世に出した年に由来する。
外形はトノー(樽)型で、寸法は16.4×12.9mm、厚さは3mm未満に収まる。この細長い輪郭により、タンク ルイ カルティエやクラッシュのような幅の狭いケースへ、余白を抑えて据えることができる。カルティエ自身、この機構を通常は円形の機械をより狭いケースへ適合させる挑戦と位置づけている。
2. ラ・ショー・ド・フォンの自社開発
Cal. 1917 MCは、カルティエがスイス・ラ・ショー・ド・フォンに構える自社マニュファクチュールで設計・製造される。同社は2001年に同地へ拠点を開き、自社ムーブメントの開発を本格化させた。2005年から2020年にかけて開発部門を率いたキャロル・フォレスティエ=カサピの下で、複雑機構や異形キャリバーの設計力を蓄えてきた経緯がある。
このキャリバーは、当初は小型のレディースモデルを中心に展開されたと伝わる。2018年頃にタンク系の小型モデルへ初めて載り、2019年のトノー復刻で広く知られるようになった。振動数を21,600vph (3Hz)に抑えた設計は、現代の4Hz機が主流の中ではゆとりある拍動といえる。小径ゆえにパワーリザーブは38時間と長くはないが、毎日の巻き上げを前提とするドレスウォッチには無理のない設定である。
3. 搭載モデルと異形キャリバーの系譜
Cal. 1917 MCは、タンク ルイ カルティエの手巻仕様を中心に、ソリッド文字盤のタンク アシメトリック、カルティエ プリヴェのトノー、クロッシュ ドゥ カルティエなど、形の異なる複数のモデルへ供給されてきた。搭載モデルの幅広さは、ひとつの異形キャリバーが複数の意匠を横断するという、カルティエらしい運用を示している。
この手巻キャリバーには、自動巻の兄弟機も存在する。2023年に登場した異形の自社製自動巻 Cal. 1899 MCは、タンク アメリカンやタンク ルイ カルティエの自動巻仕様に用いられ、狭いケースへ機械を収める思想を共有する。スケルトン仕様のタンク アシメトリックには別系統の透かし彫りキャリバーが充てられるなど、カルティエは形ごとに最適な機械を割り当てる体制を整えている。