設計思想
チタンという回答
Sinnのダイバーには長く、ドイツの潜水艦建造に用いられる鋼材を使ったU系列という主役がいた。密度の高い鋼は堅牢だが、相応に重い。その対極として2013年のバーゼルワールドで発表されたのが、総チタン製のT1とT2である。狙いは明快で、堅牢さを保ちつつ重量を大きく削ることにあった。対となるT1が直径45mmで1000m防水なのに対し、小径のT2はむしろ深い2000m防水を与えられている。T2は直径41mm・約59gという軽さでありながら、過剰なほどの水深性能を薄型ケースに収めた。大きさではなく構造と精度で深度を稼ぐという、このシリーズの思想がよく表れている。
2015年に加わった青
1015.011は、そのT2に2015年加わった青文字盤仕様(T2 B)である。先行する黒文字盤のT2(1015.010)が2013年発表だったのに対し、本Refは姉妹機のT1 B(EZM 14)と同時に、マットブルーのダイヤルをまとって登場した。機構や寸法は黒文字盤と共有し、変わったのは主に文字盤の色である。鋼の重さを避けたい層に向けた軽量ダイバーへ、工具的な黒とは異なる落ち着いた選択肢を加えた一本といえる。
EZMの系譜のなかで
T2はSinnのEZM(Einsatzzeitmesser=実務用計時器)シリーズの15番目にあたり、T1はEZM 14を名乗る。EZM群は職務に特化した道具という性格が強く、意匠も硬質なものが多い。そのなかでT2 Bは、丸みを帯びたケースと丸いインデックスにより、EZMにしては穏やかな表情を持つ。実務性能はそのままに、装着感と見やすさを優先した設計といえる。
派生と後続
同時発表のT1 B(EZM 14)は直径45mm・防水1000mで、より大きな手首に向く姉妹機にあたる。Sinnはのちにチタンではなく潜水艦用鋼を用いた小径ダイバーU50を投入し、軽量路線とは別の系統を広げた。T2 Bはその後カタログから外れ、現在は生産を終えている。
意匠分析
文字盤と針
本Ref最大の識別点は、マットブルーの文字盤である。黒文字盤の1015.010に対し、白い丸型(ピル形)のインデックスが青地に浮かび、視認性と落ち着きを両立させる。針は独特で、分針に矢印形を採用する——Sinnのダイバーでは初の試みとされる。時針はあえて短く抑えられ、大ぶりの矢印分針が読み取りの主役になる。潜水時に重要な経過分の把握を、針の形状そのもので助ける設計である。夜光は色を分け、分針・秒針・ベゼル基点という最も重要な三点を、他と異なる発光で際立たせる。3時位置には黒地のデイト窓を持つ。
キャプティブ・セーフティ・ベゼル
機構面の核は、テギメント加工を施したチタン製の逆回転防止ベゼルである。「キャプティブ」とは、四本の小ねじでベゼル本体をケースに固定し、脱落を防ぐ構造を指す。さらに「セーフティ」として、回転させるにはベゼルを一度押し下げる必要があり、手を離すと元の高さに戻って固定される。薬瓶のチャイルドロックに近い発想で、不用意な接触でベゼルがずれることを防ぐ。テギメント加工により表面硬度は高く、傷が付きにくい。
チタンケースと装着感
ケースは総チタン製でビーズブラスト仕上げ。クッション型の輪郭と短いラグにより、41mmという数字以上に手首へ収まる。8時側のケース側面には、Ar除湿技術の硫酸銅カプセルが淡い青の点として覗く。これは内部に侵入した微量の水分を吸収し、年月とともに濃く変色して役割を示す。純正にはチタン製のHリンクブレスとシリコンストラップが用意され、後者のクラスプは削り出しチタンの堅牢な造りである。
系譜と歴史
1015.011の母体となるT2は、2013年のバーゼルワールドで、姉妹機のT1とともに黒文字盤で発表された。総チタン・2000m防水という新しいダイバーの登場であった。本Refにあたる青文字盤のT2 B(EZM 15)は、2015年に追加投入される。同時にT1 B(EZM 14)も青文字盤化され、青いラバーストラップの選択肢も用意された。文字盤はマットブルーで、白い丸型インデックスとの対比で視認性を確保している。ケース寸法は黒文字盤と同じ直径41mm・厚さ13.3mmを踏襲し、純正はチタン製Hリンクブレスとシリコンストラップから選べた。
防水性能と機能性は、第三者認証機関であるDNV GLの試験を経て確認されたと伝わる。ムーブメントは生産時期によって異なり、初期はSoprod A10-2を搭載したが、後年はETA 2892-A2へ置き換えられた個体が存在するとされる。いずれもスイス製の自動巻きで、機構面の性格に大きな差はない。
その後、T2 Bはカタログから外れ、現在は生産を終えている。Sinnのチタン製ダイバーとして、軽量かつ高防水という独特の立ち位置を占めたモデルであった。なお同社はのちに、潜水艦用鋼を用いた小径ダイバーU50を別系統として展開している。