ムーンウォッチを補完するという発想
1965年にNASAの飛行認定を受けて以来、機械式のスピードマスター・プロフェッショナルは有人宇宙計画の標準装備であり続けた。だが1990年代、国際宇宙ステーション (ISS) の運用が視野に入ると、求められる時計の性格は変わっていく。
地球を周回するISSでは、乗員は1日に16回の日の出と日の入りを見る。基準時はUTCに統一され、地上管制との連携には複数のタイムゾーンの同時把握が要る。ミッションの経過時間管理、目覚まし、24時間表示——これらを針だけで扱うのは煩雑である。
この更新を推し進めたのが、当時オメガの取締役を務めていた元宇宙飛行士トーマス・スタッフォードだったと伝わる。彼はアポロ計画とアポロ・ソユーズの経験から、新世代の宇宙飛行士に必要な機能を見据えていた。1990年代において、その答えはクォーツだった。極端な温度変化でも精度を保つ温度補正クォーツと、デジタル表示の情報量。機械式の置き換えではなく、用途から導かれた選択である。