設計思想
1. 2021年、Speedmasterの間を埋める径
2021年はSpeedmasterが大きく動いた年だった。年初にはMoonwatchがCo-Axial Master Chronometer仕様へ刷新された。9月23日には、新しい系統としてChronoscopeが加わる。Moonwatchの42mmと、Racingなど自動巻き系の44.25mm。そのあいだに43mmという中間の径を置き、新しい手巻きキャリバーを収めたのがChronoscopeである。1940年代の計測尺を載せた文字盤は、刷新されたばかりのMoonwatchとは別の方向へSpeedmasterを広げる試みでもあった。
2. 前任を持たないRef
本機には直接の前任Refが存在しない。Chronoscopeという名自体は、Omegaにとって新しいものではない。2007年には、Cal. 3313を積んだDe Ville Co-Axial Chronoscopeが登場している。ただしそれはDe Villeの系譜に属するクロノグラフで、ケースも機構も本機とは連続しない。本機が受け継いだのは名前と、1940年代の多目的クロノグラフに由来する計測尺の発想である。ケースの輪郭と固定ベゼルのタキメーターはSpeedmasterから、文字盤の構成はヴィンテージから借り、ムーブメントは新たに用意した。連続性はRefの世代交代ではなく、意匠の引用として成り立っている。
3. 銀と青が担う役割
発表時のスチールは3種の文字盤で構成された。銀の小文字盤を持つ青文字盤、黒の小文字盤とベゼルを合わせたパンダ、そして本機の銀文字盤である。このうち青を差し色として使うのは本機だけで、銀の地に青の針と数字が浮かぶ。計測尺が密に刷られた盤面でも、時刻を読むための要素が色で切り分けられる。情報量の多い文字盤を、配色で整理する役割を青が担っている。
4. 手巻きという選択と、その先
Omegaは本機に自動巻きのCal. 9900ではなく、その手巻き版であるCal. 9908を与えた。自動巻き機構を外したのは、厚みを抑え、より伝統的な操作感を持たせるためと解説されている。手巻きのMoonwatchが根強く支持されてきた事実も、この判断の背景にあったとみられる。9900系の手巻き化はこのCal. 9908が最初とされる。翌2022年3月には、Speedmaster '57が手巻きのCal. 9906で同じ道をたどった。コレクション内では、同じ文字盤を青い革ストラップに合わせた329.33.43.51.02.001が兄弟Refとして並ぶ。2024年に加わったParis 2024エディションも、この構成を下敷きにしている。
意匠分析
43mmのケースは、ねじれたライアー型のラグにSpeedmasterの語彙をそのまま引き継ぐ。一方でラグからラグまでは約48mmに収まり、径の数字ほど腕の上で間延びしない。厚みは12.8mmとされ、手巻き化の恩恵でMoonwatchをわずかに下回ると評される。風防は両面に無反射処理を施したボックス型サファイアで、裏蓋もサファイアの透視式とした。
ベゼルは固定式のスチールに、青く陽極酸化したアルミニウムのリングを載せる。刻まれたタキメーターは500から60まで。それより遅い速度は文字盤中央の渦巻き状の尺が引き受け、3分までの計測に応じる。速度計測を外周と中心で分担する構成は、Chronoscope固有の工夫である。
文字盤は段差をつけた銀色で、立体のアラビア数字を植字し、その下に渦を描くトラック模様を走らせる。3時と9時の小文字盤は一段沈め、同心円の模様を入れて地と同じ銀でそろえた。9時が小秒、3時が60分と12時間を一つにまとめた積算計で、日付表示は持たない。針は磨き上げたリーフ型で、アラビア数字とともにベゼルと同じ青で仕上げた。青文字盤の329.30.43.51.03.001が針と数字を銀にするのとは、色の関係が反転している。
ブレスレットは、2021年初頭に刷新されたMoonwatchと共通の意匠である。センターリンクをポリッシュで仕上げ、ラグ側の21mmからクラスプ側の16mmへ絞り込む。短いエンドリンクがケースに沿って落ちるため、革ストラップ版より小ぶりに着けられるとの評がある。クラスプには押してスライドさせる微調整機構を備え、約5mmの範囲で長さを変えられるとされる。
ムーブメントは自社製のCal. 9908。コラムホイールと垂直クラッチ、直列に配した2つの香箱はCal. 9900から継承した。裏蓋越しに見える大きな3/4プレートは本機のために設計されたとされ、テンプを起点に放射するアラベスク状のコート・ド・ジュネーブで飾られる。コーアクシャル脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイを備える。前者はGeorge Danielsが考案し、Omegaが実用化した摩擦の少ない脱進機構である。完成品はスイス連邦計量・認定局(METAS)の基準で検査され、マスター クロノメーターの認定を受ける。
系譜と歴史
Omegaは2021年9月23日、Speedmaster Chronoscopeコレクションを発表した。329.30.43.51.02.001は、その1型として登場した。同日に公開されたのはステンレススチール6型とBronze Gold 1型の計7型である。本機はそのうち、銀文字盤に青のアクセントを配した仕様のブレスレット版にあたる。同じ文字盤を青い革ストラップに合わせた329.33.43.51.02.001も、同時に発表された。
スチールの6型は、発表と同時に正規販路での取り扱いが始まったとされる。一方、Bronze Goldの329.92.43.51.10.001は2021年11月からの販売と伝えられ、スチールより遅れて店頭に並んだ。搭載する手巻きのCal. 9908も、このコレクションとともに公開された新しいキャリバーである。
2024年4月には、同じ43mmのChronoscopeケースを用いたParis 2024エディション4型が加わった。スチールのブレスレット仕様である522.30.43.51.02.001は、本機と同じCal. 9908を載せる。ただし文字盤は銀白のオパーリンに黒の小文字盤を組み合わせ、裏蓋もParis 2024のメダリオンを刻んだ金属製に替わる。構成を共有しながら、透視式の裏蓋を持つ本機とは性格を分けた記念仕様である。
発表から現在まで、文字盤の刷りやブレスレットに関して公表された仕様変更は確認できない。2026年9月時点でも、本機はOmegaの日本と米国の公式サイトに現行品として掲載されている。発表から5年を経た現在も、カタログに残る1型である。
出典
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