設計思想
1. 復刻が求められた文脈
ブルヘッドの原型は、1969年に登場したST 146.011である。リューズを12時位置に置き、その左右にクロノグラフのプッシャーを配した。牛の頭と角に見立てた愛称は、この配置に由来する。ラリードライバーのラップ計測を想定した意匠だったとされる。
搭載機は手巻きのCal.930で、スピードマスターと同系統のCal.861にデイトを加えた派生機である。ただし発売当時の販売は限られていたと伝わる。評価が高まったのは後年のことで、収集家の間で独特の造形が見直されていった。
オメガは2013年の復刻について、愛好家からの長年の要望に応えたものだと説明している。原型の登場から44年を経ての再登場である。
2. ST 146.011から受け継いだもの、改めたもの
継承されたのは、縦横が同寸の盾形ケースと、上端に集約された操作系である。12時と6時に置いた2つのサブダイヤル、3時のデイト窓、回転式インナーベゼルも原型の構成をなぞる。
一方で中身と実用性能は刷新された。自動巻きのCal.3113への換装により、12時位置のリューズを頻繁に巻き上げる必要はなくなった。風防はプラスチックからサファイアへ、防水は60mから150mへ引き上げられたとされる。細く丸かったプッシャーも、指のかかりやすい幅広の形状に改められた。
3. 3兄弟における黒の位置
2013年の復刻は3種の文字盤で構成され、いずれも669本の限定とされた。白文字盤の225.12.43.50.04.001は24時間表示のインナーベゼルを持ち、原型に最も近い姿である。シルバーの225.12.43.50.02.001は、オメガが「ラリー」と呼ぶペルラージュ装飾の文字盤に60分目盛を合わせた。
これに対して本機は、黒文字盤と12時間目盛の組み合わせを選んだ。原型の再現よりも、復刻をいかに現代の意匠へ翻訳するかに重心を置いた1本と読める。
4. その後の系譜
3兄弟の後、2015年にリオデジャネイロ五輪を記念した522.12.43.50.04.001が316本限定で加わった。白文字盤を基に、インナーベゼルとストラップを五輪の色で彩った仕様である。4種の合計は2,323本となる。以降、ブルヘッドの名を持つ新たなRefは現時点で確認できない。
意匠分析
ケースは縦横ともに43mmの盾形で、正面には放射状のヘアライン、外周には鏡面の面取りが施される。側面はサテン仕上げの平坦な壁となり、公称14.85mmの厚み以上に量感を与える。外装式の回転ベゼルを持たないため、ケースの輪郭は面取りの細い光だけで縁取られる。
操作系は上下に分かれる。12時側のリューズは巻き上げと時刻合わせを担い、その左右に幅広のプッシャーが並ぶ。6時側にはもう1つのリューズがあり、風防下のインナーベゼルを回す。上側は引き出しやすい襟付きのローレット、下側は全周ローレットのテーパー形状と、2つのリューズは形状を作り分けている。
本機を兄弟から分けるのは文字盤である。オメガが「スポーツシック」と呼ぶ黒文字盤には、クル・ド・パリ(ピラミッド状の格子模様)を反転させた凹型のパターンが刻まれる。革の穿孔にも似た質感で、光の角度によって陰影が変わる。インナーベゼルも黒で揃え、12時位置に夜光の三角を置いた12時間目盛を刻む。30分積算計を超える長時間の経過や、第2時間帯の読み取りに使える選択である。
針とインデックスは兄弟と共通のバトン型で、夜光を充填したアプライドインデックスが並ぶ。黒一色の中で、クロノグラフ秒針と12時の積算計針だけが赤く塗られ、計測中の針を瞬時に識別させる。赤は黒のカーフストラップのステッチにも繰り返され、フォールディングクラスプで留める。ねじ込み式の裏蓋にはシーマスターの象徴であるシーホースが刻まれる。
ムーブメントはコラムホイールと垂直クラッチを備えたCal.3113である。3層構造のコーアクシャル脱進機(摩擦を抑えて注油への依存を減らす脱進機)と、フリースプラング式テンプを組み合わせる。スピードマスター等に用いられたCal.3313と同系統の設計とされる。
系譜と歴史
2013年4月、オメガはスイス・バーゼルで開かれたバーゼルワールド2013において、シーマスター ブルヘッドの復刻を発表した。黒文字盤の本機225.12.43.50.01.001は、白の225.12.43.50.04.001、シルバーの225.12.43.50.02.001とともに3種同時の発表で、それぞれ669本の限定とされた。
実機が各国の販売店に届いたのは、同年後半のことと伝わる。2013年11月以降、専門メディアによる実機レビューが相次いで掲載された。
限定生産品であり、生産期間中の文字盤の刷り変更やムーブメント世代の交代といった仕様変更は、公式・専門メディアのいずれにも記録が見当たらない。ストラップは全期間を通じて黒のカーフに赤ステッチの組み合わせで、ブレスレット仕様は用意されなかった。
2015年、オメガは2016年五輪を記念する522.12.43.50.04.001を加え、同年8月にはリオデジャネイロの催しでも披露した。316本限定で、この数字は2016年と、五輪で3度目となるゴルフ競技の実施にちなむと説明された。白文字盤を基にした派生で、本機の黒文字盤や12時間ベゼルは引き継がれていない。
本機は現在、オメガの公式サイト上で販売終了の扱いとなっている。669本の割り当てを終えた時期について、公式の発表は確認できない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Seamaster Bullhead "Rio 2016" Limited Edition 522.12.43.50.04.001
- 02 専門メディア Omega Celebrates the Olympic Games With the Seamaster Bullhead Rio 2016
- 03 専門メディア BaselWorld 2015 Omega – some relatively silent releases
- 04 専門メディア Omega 225.12.43.50.01.001 : Seamaster Bullhead Co-Axial Chronograph Black
- 05 専門メディア Introducing the Omega Seamaster Bullhead Chronograph Rio 2016 Limited Edition (with Specs & Price)
- 06 ブログ Insider: Omega Seamaster Bullhead. The Rebirth of an Iconic Chronograph.