設計思想
日付付きネオマティックのための新しい器
1302が世に出た2018年、Nomos Glashütteには発表すべき機構があった。自社製自動巻き「ネオマティック」系で初めて日付機構を組み込んだCal.DUW 6101である。同社のキャリバーは日付リングをムーブメント外周に置く設計を伝統とするが、DUW 6101ではそのリングを一段と大径化し、厚さ3.6mmのまま日付表示を実現した。この新キャリバーを収める専用シリーズとして構想されたのがアウトバーンであり、1302はその初代三部作のミッドナイトブルー仕様にあたる。つまり本機は既存シリーズへの追加色ではなく、ムーブメントとケースとダイヤルが同時に設計された、ゼロからの新作の一角である。
アイスリンガーとの4年間
アウトバーンのデザインは、ベルリンのスタジオ・アイスリンガーを率いるヴェルナー・アイスリンガーと、パートナーのティナ・ブンヤプラジットが手がけた。家具やインテリアで知られる工業デザイナーとNomosの開発部門が4年をかけた協業であり、速度無制限区間を持つドイツの高速道路「アウトバーン」が名の由来となった。アイスリンガー本人は「スポーツウォッチの新しいアーキタイプを作る」ことを目標に掲げたと伝わる。湾曲しながら立ち上がるダイヤル外周、旧車の速度計を思わせる夜光ブロックの弧、3日分を見せる長窓デイト。いずれも従来のバウハウス的なNomos像から踏み出した造形である。
三部作の中の「夜」
初代アウトバーンは、ホワイトシルバーの1301、ミッドナイトブルーの1302、スポーツグレーの1303の3色で同時に登場した。1301が最もクラシック寄り、1303がオレンジの針を持つレーシング志向とされる中で、1302に与えられた主題は夜である。濃紺の文字盤に白い夜光リングを組み合わせ、ブランド自身も月や星、街灯の光とスーパールミノバの輝きを重ねて本機を紹介した。発表年にはシリーズとしてレッドドット賞を受賞しており、1302はその造形的評価を夜間の表情で体現する一本といえる。
その後の系譜
シリーズはその後も基本3色を軸に展開され、2021年10月にはアイスリンガー監修の限定版「ディレクターズカット」3種(1301.S1、1301.S2、1301.S3)が各175本で加わった。一方、通常ラインの1302は2026年時点で公式ラインアップから姿を消したとみられ、ミッドナイトブルーは初代三部作の中で先に幕を引いた仕様となりつつある。
意匠分析
1302の設計を特徴づけるのは、ベゼルを持たないケースとダイヤルの曲面である。41.0mm径、厚さ10.5mmの2ピース構造のステンレスケースは、風防のドーム型サファイアクリスタルが縁まで広がり、正面からは金属の枠がほとんど見えない。ラグはケースと一体的に成形され、下方へ強く湾曲する。ラグ間の実測は49.6mmとされるが、この絞り込みにより数値ほどの大きさを感じさせない装着感が意図されている。
ダイヤルは外周に向かって立ち上がる深い湾曲を持ち、6時位置のスモールセコンドも同じ曲率で窪む。Nomosが「3車線」と呼ぶ6時の長窓デイトは、当日を中心に前後3日分の日付を見せる表示で、ムーブメント外周に日付リングを置くDUW 6101の構造があってはじめて成立する意匠である。8時から4時にかけては白いスーパールミノバのブロックが弧を描き、暗所では青く発光する。時針には夜光インレイが入る一方、分針には夜光がなく、夜間の分の読み取りはこの弧との対比に委ねられる。速度計の針を思わせる見た目を優先した割り切りといえる。
ムーブメントのCal.DUW 6101は直径35.2mm、厚さ3.6mmの自動巻きで、毎時21,600振動 (3Hz)、パワーリザーブ約42時間。自社製脱進機「Nomosスウィングシステム」を備え、日付は前後どちらにも早送りできる。シースルーバックからはテンプの青焼きヒゲゼンマイとグラスヒュッテ装飾が覗く。ストラップはフランスで織られた紺黒のテキスタイルで、ラグ幅は20mm。耐水性を持ち、100m防水のケースと合わせて水辺での使用を想定した構成である。
系譜と歴史
1302は2018年3月のバーゼルワールドで、1301、1303とともにアウトバーン初代三部作として発表された。発売は同年3月22日からと案内され、ヴェルナー・アイスリンガーとの4年に及ぶ協業の成果として披露された。同2018年には、アウトバーンのデザインがレッドドット賞を受賞している。
発表時の仕様は、紺黒のテキスタイルストラップにピンバックルまたはウィング型クラスプを組み合わせるものだった。のちに同シリーズにはステンレスのスポーツブレスレット仕様(1302では1302-5786.Mの型番)が加わったとされるが、追加の正確な時期は公表資料からは確認しづらい。生産期間を通じて、文字盤やケースの仕様に大きな変更は確認されていない。
2021年10月には、グラスヒュッテの時計製造175周年にちなみ、各175本限定の「ディレクターズカット」3種が登場した。リファレンスは1301.S1、1301.S2、1301.S3で、専用のスチールブレスレットを備えるが、いずれも1301系の番号を持ち、1302の直接の派生ではない。
その後、ミッドナイトブルーは公式サイトの製品一覧から外れ、2026年時点でアウトバーンの通常ラインはホワイトシルバーの1301とスポーツグレーの1303の2本とみられる。Nomosは生産終了を明示的に告知しない場合が多く、正式なディスコン時期は不明だが、1302は初代三部作のうち最初にカタログを離れた仕様となった。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 DUW 6101 - NOMOS Glashütte
- 02 専門メディア Nomos DUW 6101 Calibre