設計思想
ブロードウェイという街の名を負って
ブロードウェイ・コレクションは、2016年のバーゼルワールドで発表された。ニューヨークのシアター街を貫く大通りと、その両側にそびえる摩天楼を主題とする。文字盤を縦に貫く一本のラインは、島を南北に走るブロードウェイそのものを表す。針はビルの輪郭を思わせる直線的な造形を採る。アメリカ由来の意匠を、現代の都市感覚へ翻案する試みであった。ハミルトンの資料では、1890年代の懐中時計に「ブロードウェイ・リミテッド」の名があったと伝わる。
発表時のコレクションは三つの構成で出発した。40mmのデイデイト・クォーツ、42mmのデイデイト・オート、43mmのオート・クロノである。本Ref H43515141は、このうち中核となる42mmの自動巻きデイデイトに属する。位置づけとしては、ミリタリー色の強いカーキと、ドレッシーなジャズマスターの中間を埋める存在であった。
80時間という選択
本Refの心臓部はCal.H-30である。スウォッチ・グループのパワーマティック80系に連なる自動巻きで、ETA 2836-2を出自とする。最大の特徴は80時間のパワーリザーブにある。週末に時計を外しても、月曜の朝に再び動いているだけの余力を持つ。
この長時間化は、毎時21,600振動 (3Hz) という歩度と引き換えに得られた。一般的な毎時28,800振動 (4Hz) より遅い歩度を採り、香箱とゼンマイを最適化することで持続を稼いでいる。速さよりも持続を選んだ設計であり、日常の道具として理にかなう。曜日と日付を扱う本Refには、同系のうちデイデイト機構を備えるH-30が割り当てられた。
青と緑をまとう一本
本Refの個性は、その配色にある。青い文字盤の中央を、より暗い緑のラインが縦に貫く。灰文字盤のH43515135、黒文字盤のH43515175といった兄弟Refと並べたとき、本Refはこの二色の対比で識別される。さらに本Refはステンレススティールのブレスレットを合わせた仕様であり、革ストラップ版のH43515641とは装着の質感が異なる。文字盤の縦ラインは共有しつつ、ブレスの落ち着いた光沢が街の主題を別の角度から支える。
意匠分析
本Refの文字盤は、ブロードウェイの意匠言語を青と緑で表現する。地となる青の上に、12時から6時へ向けて一本の暗緑色のラインが縦に走る。その左右には細い縦の筋が刻まれ、ビルの間を抜ける街路を思わせる。外周にはわずかに立ち上がったリングが巡り、通りを縁取る歩道のように文字盤を囲む。
時針と分針は、摩天楼の輪郭を写した直線的な造形を採る。針にはスーパールミノヴァが塗られ、暗所での視認を助ける。インデックスは植字式で、12時にのみアラビア数字の12が置かれる。夜光の主役は針に集約され、面の構成は端正に保たれる。6時位置には、曜日と日付が縦に積まれた二つの窓として現れる。12時のロゴ枠と上下で釣り合い、縦の構図を締めくくる。
ケースは42mm径、厚さ10.85mmのステンレススティール製である。ポリッシュとサテンを面ごとに切り分け、光を受ける向きで表情が変わる。ベゼルは磨き上げられ、リューズには細かな刻みが入る。風防はサファイアで、無反射加工により斜めからの視認も損なわれない。防水は50mで、日常の水濡れには応じるが、潜水を想定した設計ではない。裏蓋はシースルーとされ、ハミルトン銘のローターが回る様子を見せる。
ブレスレットはステンレススティールの三列構成で、バタフライ式のクラスプで留める。ラグ幅は22mm、尾錠側は20mmへと絞られる。革ストラップ版に見られる縦ラインの演出はブレスにはなく、街の主題は文字盤に託される。10.85mmという薄さと下向きに抑えたラグにより、42mmという数字以上に手首へ素直に沿う。
系譜と歴史
ブロードウェイ・コレクションは、2016年のバーゼルワールドで初めて公開された。発表時の構成は、40mmのデイデイト・クォーツ、42mmのデイデイト・オート、43mmのオート・クロノの三本立てであった。本Ref H43515141が属する42mmの自動巻きデイデイトは、この中核を担う一本である。
発表当初、デイデイト・オートの文字盤は黒や灰が中心であった。灰文字盤はH43515135(ブレス)とH43515735(革)、黒文字盤はH43515175(ブレス)とH43515875(革)として展開された。青文字盤に緑の縦ラインを組み合わせた本Refは、このラインアップに後から加わった配色とされる。本Refはブレスレット仕様であり、同じ青文字盤でも革ストラップ版はH43515641として区別される。
ムーブメントには、一貫してパワーマティック80系のCal.H-30が搭載される。生産期間を通じて、機構上の大きな変更は確認されていない。
ハミルトンの公式情報では、本Refは現在「過去のコレクション」として扱われ、すでにカタログから外れている。直接置き換わる後継Refは設けられていない。発表から生産終了に至る正確な年月については、公式の確定情報が乏しく、二次資料の間でも記載に幅がある。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。