手首に沿う時計という思想
1930年代から1940年代のアメリカでは、アール・デコの幾何学的な意匠が時計のケースにも及んでいた。円形が当然ではなく、矩形やトノー型(樽型)が紳士の正装に選ばれた時代である。ランカスターに拠点を置いたアメリカの製造者ハミルトンは、この潮流のなかで矩形ケースの完成度を磨いていった。
その土台となったのが、矩形ケースに収まる14/0サイズの手巻ムーブメント、Cal. 980と982であったとされる。ケースを長手方向に湾曲させ、手首の丸みに添わせる——ボルトンの出発点は、この発想にある。ブランドの軍用時計や鉄道時計の系譜とは別に、ハミルトンには上質な矩形ドレスウォッチの伝統が確かに存在した。