設計思想
筏の名を継ぐということ
1947年、ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールは、バルサ材の筏コンチキ号で太平洋を横断した。乗組員の腕にはエテルナの時計があり、過酷な航海に耐えたこの実績が、1958年に誕生する防水時計「コンチキ」の名の由来となった。文字盤の3・6・9・12時に置かれた夜光の三角形は、以後この系譜を示す紋章として機能し続ける。
2011年、エテルナはコンチキ・コレクションを原点回帰の方針で刷新した。1958年の意匠コードを再確認しつつ、KonTiki Date、KonTiki Four-Hands、機械式のKonTiki Chronographなどを揃え、ブランドの中核に冒険の記憶を据え直した。本Refを含む1250系のクォーツクロノグラフは、この再編されたラインの一角を占める存在である。
クォーツという選択
刷新後のコンチキは機械式が主軸であった。KonTiki DateはSellita SW 200を、1241系のクロノグラフは自動巻ムーブメントを積む。そのなかで1250系は、あえてETA 251.262というクォーツクロノグラフを選んだ。電池駆動ゆえの精度と保守の容易さ、そして価格面での到達しやすさ。200m防水や42mmケースといった骨格を機械式の兄弟機と共有しながら、道具としての気軽さで系譜への入口を広げる——それが1250系に与えられた役割だったと読み取れる。
この構成は、コンチキが本来「実用に耐える時計」として生まれた事実とも矛盾しない。筏の上で求められたのは複雑機構ではなく、確実に動き続けることだった。クォーツの採用は系譜の精神からの逸脱ではなく、むしろ実用主義の延長線上にある。
青文字盤の位置と、その後
1250系には銀・黒文字盤のブレスレット仕様、PVDのフルブラック、カーキなどの兄弟機が存在し、本Ref 1250.41.81.1303は青文字盤にレザーインサート付きラバーストラップを組み合わせた仕様である。太平洋横断という物語を持つ系譜において、海の色をまとう本機は、コレクションの由来を最も素直に視覚化した一本といえる。
2011年からエテルナはChina Haidianグループの傘下にあり、2013年以降はアントニオ・カルチェの指揮下でコレクション全体の見直しが進んだ。ブランドは自社製キャリバー39系を軸とした上級路線へ傾斜し、Royal KonTikiやSuper KonTikiが前面に立つにつれ、クォーツのコンチキは静かに後景へ退いていく。本Refは、再出発期のエテルナが間口の広さをまだ大切にしていた時期の証人である。
意匠分析
ケースは42mmのステンレススチール。風防はサファイアガラス、裏蓋はクローズドで、200m防水を確保する。クォーツ搭載機としては堂々たる体躯だが、これは意匠上の見栄ではなく、KonTiki Dateなど機械式の兄弟機とケース骨格を揃えた結果である。ダイバーズ由来の系譜らしく、防水性能で妥協しない姿勢が寸法に表れている。
文字盤はマット仕上げのブルー。光を抑えた面に、夜光処理されたインデックスとドーフィン針が浮かぶ構成である。クロノグラフ化に伴い、面はスモールセコンドを含む複数のインダイヤルで分割されるが、マットな地色がカウンターの輪郭を沈め、情報量の多さを騒がしさに変えない。日付表示は4時側に寄せて置かれ、12時側の対称性を保つ処理がなされている。
ムーブメントのETA 251.262は、27石仕様のクォーツクロノグラフとして広く実績を持つキャリバーである。1/10秒単位の計測に対応し、機械式クロノグラフでは得がたい精度の計時を可能にする。エテルナはこれを外装で包み込む側に回り、ムーブメント自体を誇示しない。裏蓋がクローズドである点も、この道具的な割り切りと整合する。
ストラップは本Ref固有の見どころである。ベースはラバーで、表面にレザーのインサートを重ねた二層構成を取り、尾錠で留める。水辺を想定したラバーの実用性と、レザーの表情を両立させる折衷であり、青文字盤との色調の呼応も含めて、ブレスレット仕様の兄弟機(1250.41.11.0217など)とは明確に性格を分ける。日常では革の質感を、いざという場面ではラバーの耐候性を——この二面性こそ、街と海を往復するコンチキの設計思想の縮図といえる。
系譜と歴史
1250系のKonTiki Quartz Chronographは、コンチキ・コレクションが原点回帰の刷新を受けた2011年前後に整えられたとされる。市場の取引記録も同系各Refの生産期を2011年以降と記しており、銀文字盤・黒文字盤のブレスレット仕様(1250.41.11.0217、1250.41.41.0217)と並んで、青文字盤の本Ref 1250.41.81.1303がラインを構成した。なお、正確な発表月や発表の場をブランド公式資料で確認することはできていない。
同じ1250系には、PVD加工のフルブラック仕様1250.43.41.1308や、カーキ文字盤の1250.41.50.1360も存在する。これらの追加時期は公表されていないが、刷新後のコンチキが文字盤色と外装処理で選択肢を広げていった流れのなかに位置づけられる。
2011年にエテルナがChina Haidianグループ傘下へ入り、2013年以降はアントニオ・カルチェの下でコレクションの再評価が進んだ。ブランドの軸足が自社製キャリバー39系を積むRoyal KonTikiやSuper KonTikiへ移るにつれ、クォーツのコンチキはカタログ上の存在感を減じていく。本Refは2010年代後半まで小売流通で確認できるが、生産終了の時期は公表されておらず、現在のエテルナのカタログには見当たらない。事実上の終売と見られるが、公式な記録を欠くため断定は避ける。