設計思想
1. 「Global Time Sync」がMT-Gへ届いた年
カシオは2014年、GPS衛星電波と標準電波の双方を受信する時計を「Global Time Sync」の開発コンセプトの下に複数ブランドへ展開した。G-SHOCKとOCEANUS、そしてスマートフォンと時刻を同期するEDIFICEである。世界のどこにいても現在地の時刻へ合わせられることを、アナログ時計の新しい前提に据える試みであった。
翌2015年、この技術は最上位のMRG-G1000を経てMT-Gへ降りてくる。MTG-G1000D-1A2は、その到達点として黒リング仕様のMTG-G1000D-1Aと同時に発表された一本である。先端技術をまずMR-Gが受け取り、生産規模の大きいMT-Gが続く。G1000系の登場は、カシオの上位ラインが踏んできたこの順序の中にある。
2. 前任MTG-S1000が残した宿題
直接の前任は2013年のMTG-S1000である。ベゼルと裏蓋をパイプで連結するコアガード構造と、総アナログの顔をMT-Gに定着させたモデルだが、時刻補正は世界6局の標準電波受信にとどまっていた。電波の届かない地域では手動での調整が要る。G1000系は、ここへGPS衛星からの時刻・位置情報の受信を足した世代にあたる。
代償もあった。ケースは前任より横にも厚みにも寸法を増し、手首の上での存在感は一段と強くなった。パワーセービング状態での駆動時間も、S1000の約27か月に対し本機は約19か月と短い。受信機を収める容積と、それを動かす電力。G1000系は、この負担を引き受けたうえで成立した世代である。
3. 青いリングという差分
発表時のラインアップは、都市コードリングの色だけが異なる2機種であった。カシオのニュースリリースは機種名の隣に「都市コードリングカラー」という欄を設け、本機にブルー、MTG-G1000D-1Aにブラックとだけ記している。差分をここまで単純化して示した点に、2本の関係が表れている。
ただし、そのリリースの冒頭で製品を代表していたのは本機であった。都市名を並べたリングにだけ色を与える選択は、GPSとワールドタイムを主題とするこの世代の性格と重なる。装飾として置かれた青ではなく、機能の所在を指す青と読める。
4. G1000系というひとつの区切り
本機と-1Aが開いたG1000系は、翌2016年にかけて黒金、エイジド、ブラスト仕上げ、そして本数を絞った限定へと枝を伸ばしていく。表面処理を変えることで性格を描き分ける手法が、この系統の定石となった。
一方で2018年、MT-GはMTG-B1000でBluetooth連携と小型化へ舵を切り、GPS受信からは離れる。世界のどこでも時刻を自動で合わせるという課題に、MT-Gが衛星電波で答えたのはG1000系だけであった。本機は、その始まりに立った2本のうちの一方にあたる。
意匠分析
本機とMTG-G1000D-1Aを分けるのは、文字盤外周に置かれた都市コードリングの色である。世界27都市の略号を刻んだこのリングに青を与え、インダイアル周辺の目盛やアクセントにも同じ色を差す。黒で統一された-1Aに比べ、ワールドタイムを担う部分だけが視覚的に浮き上がる構成となる。
外装はIP処理を施さないステンレスの地色で構成される。斜面には熟練を要するザラツ研磨、面にはヘアラインと仕上げを使い分け、金属の陰影で立体感を出す。同系のMTG-G1000GB-1Aやブラスト仕上げのR系が表面処理そのもので性格を変えているのに対し、本機は素材の色をそのまま見せる側に立つ。青は、その無彩色の地に対して置かれた唯一の色でもある。
寸法は58.8×54.7×16.9mm、質量は約198g。前任のMTG-S1000より横で1.2mm、厚さで1.4mm増えており、この差はGPS受信機を収めた分と見てよい。バンドはステンレスとファインレジンを重ねたレイヤーコンポジットバンドで、金属の見え方を保ちながら重量を抑える。
コアガード構造も更新された。板バネの役割を果たすファインレジン製の緩衝材を新たに加え、フレームを構成するパイプを軸に配置することで、時計前面から加わる衝撃への耐性を高めている。骨格に組み合わされる裏蓋とベゼルは鍛造成型で、ソリッドな見えとタフネスを両立させる狙いがある。
文字盤は3針に6時位置のインダイアルを組み合わせ、2都市の時刻を同時に示す。この小径ダイヤルはデュアルコイルモーターで駆動され、針が緩急をつけて動く。GPSアンテナを内蔵しながら文字板の全域で受光する遮光分散型ソーラーパネルを用いる点も、この世代を支える要素である。風防は無反射コーティングを施したサファイアガラス、暗所での視認には高輝度LEDのスーパーイルミネーターが対応する。
系譜と歴史
MTG-G1000系は2015年9月9日、カシオ計算機のニュースリリースで発表された。同時に案内されたのは、都市コードリングにブルーを配した本機MTG-G1000D-1A2と、ブラックのMTG-G1000D-1Aの2機種である。発売は同年9月18日、日本での希望小売価格は160,000円(税別)で、発売日も価格も-1Aと共通であった。国内向けの型番はMTG-G1000D-1A2JFである。搭載モジュールはCal.5455である。北米へは同年10月に投入されたと伝わる。
続く同年12月には黒金のMTG-G1000GB-1Aが加わり、翌2016年にはエイジド仕上げのMTG-G1000BS-1A、粗いブラスト加工を全身に施したMTG-G1000RS-1AとMTG-G1000RS-2A、限定のMTG-G1000RB-1AおよびMTG-G1000RG-1Aが順次投入された。2017年にはMTG-G1000SG-1A系も加わっている。派生が増える一方で、本機自体は発表時の構成を保ったまま流通し、生産期間中の文字盤や機構の大きな仕様変更は確認できていない。
2018年、MT-GはMTG-B1000へ世代交代する。ラインの主軸はBluetoothによるスマートフォン連携と小型化へ移り、GPS受信は外された。これに伴いG1000系は役目を終え、本機も現行カタログには残っていない。