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CARTIER · SERIES

Tank

タンク

第一次世界大戦の戦車に着想を得て、丸型が主流の時代に角型ウォッチの規範を築いたカルティエの代表作

25.5 mm – 34.3 mm
01 — 概要 / SUMMARY

Tankは、1917年にルイ・カルティエが考案した角型ウォッチの系譜である。第一次世界大戦で用いられた戦車(ルノーFT)の俯瞰図に着想を得たとされ、ケースの両脇を縦に貫くブランカールが特徴をなす。1919年の販売開始以降、Tank Louis Cartier、Américaine、Française、Mustなど多数の派生を生み、丸型が主流だった腕時計に角型という様式を持ち込んだ。ローマ数字、鉄道分目盛、剣型針という意匠は世代を超えて受け継がれ、芸術家や王室の手元を飾る20世紀の文化的アイコンともなった。

02 — STORY · 物語

Tank(タンク)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1917年、戦車から生まれた時計

第一次世界大戦のさなか、ルイ・カルティエは西部戦線で用いられたルノーの戦車に目を留めた。装甲車両を上から見たとき、車体が文字盤に、左右の履帯がケースを縦に貫く帯に重なる。その輪郭を腕時計へ移したのがTankである。考案は1917年とされる。当時の腕時計は丸型が主流であり、直線で構成された角型ケースは異例だった。

試作機は1918年ごろ、米国遠征軍を率いたジョン・パーシング将軍に贈られたと伝わる。市販が始まったのは1919年で、最初に納められたのはわずか6本だった。カルティエはすでに1904年にサントスを世に出していたため、Tankは同社初の腕時計ではない。しかし角型という造形を一個の様式として確立した点に、その後の影響力の源がある。

02

戦間期の造形実験

1920年代から1930年代は、Tankが最も多彩に枝分かれした時期である。1921年のTank Cintréeは、ケースを縦に伸ばし手首に沿わせるよう湾曲させた。1922年にはルイ・カルティエ自身が愛用したTank Louis Cartierが登場し、角を丸めた均整のとれた輪郭で「標準形」と見なされるようになった。同じ年のTank Chinoiseは、中国の寺院建築を思わせる段状のブランカールを備えた。

造形の探求はさらに進む。1928年のTank à Guichetsは文字盤を廃し、地板に開けた二つの窓から時と分を読ませる機械式のデジタル表示だった。1932年ごろのTank Basculanteは、ケースを反転させて文字盤を保護する機構を持つ。1936年には、ケースと文字盤を斜めに振ったTank Asymétriqueが現れた。これらには当初Tankとは別の名で呼ばれたものもある。1942年のルイ・カルティエの死は、この実験期の一つの区切りとなった。

03

文化のアイコンへ

Tankは早くから時計の枠を超えた存在となった。ジャズの作曲家デューク・エリントンはTank à Guichetsを愛用し、銀幕の俳優や芸術家の手元にも収まった。芸術家アンディ・ウォーホルは、時刻を知るためではなく「身につけるべき時計だから」Tankを巻くのだと語ったと伝わる。

とりわけ強く結びつくのが、ジャクリーン・ケネディである。1963年に贈られた彼女のTankは後年オークションに出され、Tankを象徴する一本として知られる。ミシェル・オバマは2009年のファーストレディ公式肖像でTankを着け、ダイアナ妃はTank Louis CartierとTank Françaiseを好んだ。性別や時代を超えて選ばれてきたことが、この系譜の性格をよく表している。

04

マスト・ド・カルティエと門戸開放

1977年、クォーツショックで業界が揺れるなか、カルティエはMust de Cartierを発表した。ケースに金張りの銀(ヴェルメイユ)を用い、ETAをベースとした機械式やクォーツを収めることで、貴金属を前提としてきたTankをより広い層へ開いた。無地の文字盤に赤や青を配した初期のMustは、宝飾の色彩を腕時計へ持ち込む試みでもあった。

この方針は賛否を呼んだが、結果としてTankの像を一段と広く浸透させた。実用と価格の両面で敷居を下げたこの世代は、後年の入門モデルへとつながっていく。

05

実用と現代化

1989年のTank Américaineは、Cintréeの細長い曲線を下敷きにしつつ、防水を備えた湾曲ケースとして設計された。1996年のTank Françaiseは、角型の力強い輪郭に金属ブレスを組み合わせ、より現代的な性格を与えた。両者は、装飾品としてのTankに日常使いの実用性を重ねる流れを決定づけた。

2004年のTank Soloは、Mustの精神を引き継ぐ入門モデルとして登場した。2012年のTank Anglaiseはリューズをケース側面に組み込み、ロンドン店に由来する名を冠した。2013年のTank MC(Manufacture Cartier)は、自社製ムーブメントを前面に出した世代を象徴する。

06

復刻とPrivéの現在

2018年以降、カルティエは年に一度、歴史的な造形をPrivéコレクションとして再解釈している。Cintrée(2018年)、Asymétrique(2020年)、Chinoise(2022年)、Normale(2023年)と続き、2025年には文字盤を持たないTank à Guichetsが、専用の手巻キャリバー9755 MCとともに復活した。

現行の柱も更新が続く。2021年に復活したTank Mustは、文字盤のローマ数字に微細な孔を開けて集光する光発電クォーツSolarBeatを採用し、同社初の太陽電池駆動となった。2023年のTank Américaineには薄型の自動巻1899 MCが収められ、2025年にはTank Louis Cartierが初めて自動巻を選べるようになった。造形を保ちながら機構を入れ替えるこの姿勢が、100年を超えた系譜の現在地である。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Tankの設計思想は、ケースの造形そのものを時計の主題に据える点にある。多くのスポーツウォッチが回転ベゼルや夜光といった機能部品に固有性を宿すのに対し、Tankの個性は比率と輪郭から生まれる。中心となるのがブランカール、すなわちケースの左右を縦に貫く二本の帯であり、これがそのままストラップへと連続する。戦車の履帯に由来するこの要素が、ケースとバンドを一体の構造として見せる。

変えなかったものは明快である。ローマ数字、鉄道線路を思わせる鉄道分目盛(シュマン・ド・フェール)、焼き入れした剣型針、リューズに据えたカボションのサファイア。これらの組み合わせは、Normaleから現行モデルまで一貫して受け継がれてきた。文字盤の情報を最小限に抑え、装飾よりも線の純度を優先する姿勢が、世代を超えて「Tankの顔」を保つ理由である。

一方で、変えてよい領域も明確に区切られている。ケースの比率は、正方形に近いNormale、細長いCintrée、角を丸めたLouis Cartier、ブレス一体のFrançaiseと、用途や時代に応じて自在に振れてきた。表示形式さえ、à Guichetsの窓表示やAsymétriqueの斜行配置のように大胆に解釈される。核となる意匠言語を固定したうえで輪郭を動かす。この二層構造が、多様な派生を一つの家系にまとめている。

同時代の角型・実用時計と比べると輪郭はさらに際立つ。1931年のジャガー・ルクルト レベルソが反転機構という可動の妙で個性を立てたのに対し、Tankは動かない正面の均整に賭けた。装飾を足すのではなく削ることで成立させる設計は、丸型でも装飾過多でもない第三の道を20世紀の腕時計に示した。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1917-1976
European Watch & Clock Co. / JLC 系
手巻の供給機械。Jaeger設計、LeCoultre製。
1977-1997
ETA 系 / クォーツ
マスト期。ETAベースの機械式とクォーツを併用。
1998-2008
Frédéric Piguet 系ほか
CPCP期。薄型手巻で貴金属の高級路線へ。
2009-2018
Cal. 1904 MC / 1847 MC
自社製造が本格化。1847 MCが汎用機の主力に。
2019-現在
Cal. 1899 MC / SolarBeat
薄型自動の1899 MCと光発電SolarBeatを展開。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1917-1919

原型とTank Normale

Tank Normale
ルノーの戦車に着想、角型ケースの起点。市販は1919年。
1921-1936

戦間期の造形バリエーション

Cintrée Louis Cartier Asymétrique
Cintrée・LC・à Guichets等、造形が最も多彩化。
1977

マスト・ド・カルティエ

Must de Cartier
ヴェルメイユとクォーツでTankを広い層へ開放。
1989-1996

防水とブレスの実用化

Tank Américaine Française
湾曲防水ケースと金属ブレスで日常実用へ。
2004-2013

入門機と自社ムーブ化

Tank Solo Anglaise MC
入門のSoloから自社ムーブのMC世代まで。
2021-現在

復刻とPrivéの時代

Tank Must(復刻) Privé
SolarBeat復活とPrivéによる歴史の再解釈。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive