設計思想
「鍵」を掲げた新シリーズ
2015年1月のSIHHで、カルティエは久々の新しいケース・コレクションとしてClé de Cartierを発表した。ブランドはこれをSantosやTankと並ぶ柱に育てる構えを見せ、円を出発点にした新たな造形言語を打ち出した。「Clé」はフランス語で鍵を意味し、19世紀の時計を巻くための鍵に着想したクラウンがその名の根拠である。ドレスウォッチでありながら日常にも溶け込む——そうした立ち位置が、当時のコレクションには託されていた。
自社ムーブメントへの入口として
Clé de Cartierが背負ったもう一つの役割は、新型の自社製自動巻Cal.1847 MCのお披露目であった。これはカルティエがエントリー級の実用機として開発したムーブメントで、本コレクションで初めて搭載された。それまで量産モデルに用いられてきた調達ベースのムーブメントに代わり、自社製キャリバーへの入口を担う存在だったと言える。ケースの新味とムーブメントの刷新が、一つのコレクションに同居していた。
ホワイトゴールド・ブレスレットという選択
WGCL0006は、この40mmモデルのうち、ホワイトゴールドのケースに同素材のブレスレットを合わせた一本である。ピンクゴールドにブラウンのアリゲーターを組めば古典的な装いになるのに対し、ホワイトゴールドのブレス仕様は、貴金属でありながらどこかスポーティな印象を帯びる。ドレスとカジュアルのあいだで揺れるClé de Cartierの性格を、最も中立的に体現したRefと言ってよい。なお同じ40mmホワイトゴールドでも、ストラップ仕様には別のRef (WGCL0005など) が割り当てられている。
静かな幕引きのなかで
Clé de Cartierは、カルティエが期待したほどの定番にはならず、やがて現行ラインから姿を消した。その意味でWGCL0006は、ブランドが「次のアイコン」を模索した2010年代半ばの一断面を映す一本でもある。鍵をかたどったクラウンと、初採用の自社ムーブメント——その二つを最も素直なかたちで備えた個体として、いまも静かに残る。
意匠分析
WGCL0006の造形は、円を基調としながらケース外形を楕円 (オヴォイド) へ引き伸ばした点に核がある。丸いダイヤルと丸いベゼルを、上下になだらかに落ちるケースが包み込み、横から見れば薄く弓なりに反る。ケース径は40mmだが、ラグ間は44.4mmに収まり、手首の上では実寸より小ぶりに感じられる。素材は18Kホワイトゴールドで、ケースはポリッシュ仕上げとされる。
最大の見どころは、その名の由来であるクラウンである。一般的な円形ではなく、時計用の巻き鍵を思わせる横長の形状をとり、頂部にはブルーの宝石 (合成サファイアと伝わる) を伏せ込む。引き出すと鍵を回すような操作感が生まれ、押し戻すとケース側面とほぼ面一に収まる。スプリング機構により、戻したクラウンは常に正位置へ起き上がる仕組みである。
ダイヤルはシルバーのフリンケ仕上げで、中央にはサンレイ・ギヨシェが刻まれる。ローマ数字はカルティエ伝統の黒ではなくブルーで刷られ、クラウンの石とブルースティール製の剣型針に呼応して、全体を現代的な表情へまとめる。6時位置には日付窓が置かれ、数字のVIに代わって収まる。中央の同心円と日付の張り出しは、見ようによっては鍵穴の輪郭を描く。ローマ数字のいずれかには、カルティエのシークレット・サインが潜むと伝わる。
ブレスレットは同じホワイトゴールドで、サテンとポリッシュを切り替えた仕上げを持つ。クラスプ脇にハーフリンクを備えて微調整が利き、中空構造ゆえ見た目より軽い。裏ぶたはサファイアの透視式で、初採用となったCal.1847 MCの動きをのぞかせる。
系譜と歴史
Clé de Cartierは2015年1月、ジュネーブで開催されたSIHH (Salon International de la Haute Horlogerie) で発表された。新設計のオヴォイド型ケースと、自社製の新型自動巻Cal.1847 MCを同時に世へ問うたコレクションである。市販は同年4月に始まっている。
WGCL0006は、この発表時ラインのうち、40mmのホワイトゴールドケースに同素材のブレスレットを組み合わせた一本である。同じ40mmホワイトゴールドでも、アリゲーターストラップ仕様には別のRef (WGCL0005など) が用意された。
発表時のコレクションは18Kゴールド (ホワイト、ピンク、および米国市場向けのイエロー) に限られ、ケース径は40・35・31mmの3種が並んだ。翌2016年にはスティールとピンクゴールドのツートーン、続いてフルスティール版が加わり、価格帯の裾野が広げられている。ただしWGCL0006はゴールド仕様の基幹Refとして、こうした素材展開のなかでも目立った仕様変更は伝わっていない。
その後Clé de Cartierは段階的に縮小し、現在は現行カタログから外れている。生産を終えた正確な年は公表されていない。