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CARTIER · SERIES

Calibre de Cartier

カリブル ドゥ カルティエ

タンクでもサントスでもない丸型に挑み、カルティエ初の量産自社製ムーブメントを担ったシリーズ

01 — 概要 / SUMMARY

カリブル ドゥ カルティエは、2010年にカルティエが発表した丸型ケースの腕時計シリーズである。タンクやサントスといった造形の名門でありながら、ムーブメントを外部に頼ってきた同社が、量産を前提とする初の自社製自動巻きキャリバー1904 MCを核に据えた点に最大の意義がある。42mmの基幹モデルに加え、複数時間帯表示のマルチタイムゾーン、自社製クロノグラフ、ISO 6425規格に適合するダイバー、そして着けやすさを重視した38mmへと派生した。丸という記号にカルティエの顔を移した実験的なシリーズであり、需要の鈍化を経て生産は終えたものの、その心臓部はブランドの礎となった。

02 — STORY · 物語

Calibre de Cartier(カリブル ドゥ カルティエ)、これまでの軌跡

The story of this series
01

自社製ムーブメントへの渇望

カルティエは20世紀を通じて、タンクやサントスに代表される造形の力でその名を築いた。一方で、長らくムーブメントは外部から調達した汎用機や石英式に頼っていた。デザインの王国でありながら、機械を自ら作る家ではない——この見方は、高級時計の世界で繰り返し指摘された弱点であった。

カルティエはバロン ブルー トゥールビヨン(キャリバー9452 MC)でジュネーブ・シールを取得し、自社製ムーブメントを手がける意思を示していた。ただしそれは少数の愛好家へ向けた高級複雑時計であり、日常的に楽しめる一本ではない。より広い層が手にできる、自社製の実用機。その受け皿として構想されたのが、カリブル ドゥ カルティエである。

02

2010年、丸い「カルティエ」の登場

2010年に発表されたカリブル ドゥ カルティエは、ケース径42mmの大ぶりな丸型ケースをまとっていた。タンクの矩形でもサントスの八角でもない円形——カルティエが象徴的モデルとして用いてこなかった形である。そこにローマ数字、外周のレイルウェイ(線路状)分目盛り、剣型針、サファイア・カボションを戴く竜頭という意匠を移植し、ひと目でカルティエとわかる丸型を作り上げた。

搭載されたキャリバー1904 MCは、量産を前提としたカルティエ初の自社製自動巻きである。「1904」の名は、ルイ・カルティエが飛行家アルベルト・サントス=デュモンのために腕時計を手がけたとされる年にちなむ。

03

キャリバー1904という土台

1904 MCは毎時28,800振動 (4Hz)で時を刻み、二つの香箱によって約48時間にわたり安定したトルクを供給する。二つの香箱でこの駆動時間にとどめたのは、トルクの変動を抑えて歩度を安定させるための意図的な設計とされる。当初から派生を見越して設計された基幹キャリバーであり、複数の機構を載せ替えられる柔軟さを備えていた。

カルティエはこの系譜の上に、複数時間帯を表示するキャリバー9909 MCを載せたマルチタイムゾーンもファインウォッチメイキングとして投入したとされる。都市名をケース側面の拡大鏡で読ませる独自の機構を持ち、ホームタイムと旅先の時刻、さらに両者の時差までを示した。2013年のSIHHでは、コラムホイール、垂直クラッチ、単一のリセットハンマー、二つの香箱を備えた自社製クロノグラフ、キャリバー1904-CH MCを搭載するモデルが加わった。ETA系を用いたサントス100などと異なり、入門価格帯で初めての自社製クロノグラフであり、美観のため常時秒針は省かれた。

なお初期の1904 MCには、鋼およびスティール×ゴールドのモデルに用いられた第1版と、当初から金無垢モデルに搭載された第2版が存在したとされ、のちに全モデルが第2版へ統一されたと伝わる。

04

ダイバーという転回

最も意外な展開は、2014年のSIHHで訪れた。ドレスウォッチの家であるカルティエが、ISO 6425規格に適合する本格的なダイバーズウォッチ、カリブル ドゥ カルティエ ダイバーを発表したのである。300m防水、一方向回転ベゼル、視認性を確保した夜光、ねじ込み式の裏蓋とリューズ。375mでの防水試験や熱衝撃試験を含むISO 6425の各試験を通るよう設計された。ベゼルは内外にADLC(アモルファス・ダイヤモンドライク・カーボン)を施し、外は黒く、内側は摩擦がほとんどない自己潤滑の状態とした。

象徴的なのは、ダイバーであってもXIIの大きなローマ数字とスモールセコンド、スピネルを戴く竜頭を残した点である。道具に徹するのではなく、カルティエの顔のままで規格を満たす——その姿勢が、同時代のダイバーズとは異なる輪郭を与えた。のちには、ブルーの文字盤を備えた個体も加わったとされる。

05

38mmへの縮小と終焉

その後、ケース径を38mmに縮めたカリブル ドゥ カルティエ 38も市場へ送り出されたとされる。大径化が続いた時代の反動で、より着けやすい寸法を求める声に応えた形である。文字盤は42mmの「上半分ローマ数字・下半分バー」から、全数字をローマ数字とする簡潔な構成へ改められた。

しかし、丸型のカリブルはカルティエの象徴的造形ではなかった。2018年にサントス ドゥ カルティエが刷新されると、自社製キャリバーを核とする日常使いの実用時計という役割は、より知名度の高いアイコンへと移っていく。翌2019年のサントス クロノグラフには、カリブル譲りの1904-CH MCが姿を変えて搭載された。

カリブル ドゥ カルティエ自体は需要の鈍化を背景に整理が進み、2010年代の終わりから2020年ごろにかけてカタログから姿を消した。直接の後継機は用意されていない。それでもこのシリーズが残したものは小さくない。カルティエを量産マニュファクチュールへと押し上げた1904系キャリバーは、シリーズの終焉後もブランドの各所で時を刻み続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

カリブル ドゥ カルティエの設計を貫くのは、「丸という未踏の形に、カルティエの顔をどう移すか」という一点である。タンクの矩形、サントスの八角という確立された記号を持つこの家にとって、円形はむしろ手薄な領域だった。シリーズはその空白を、意匠の記号によって埋めた。

変えなかったものは明快である。ローマ数字、外周のレイルウェイ分目盛り、剣型針、そしてファセットを施した竜頭に載るサファイアまたはスピネルのカボション。これらは形が丸であろうと、ひと目でカルティエと知れる「顔」を構成する。基幹モデルの文字盤は、上半分にローマ数字、下半分にバーインデックスを置く非対称の構成を採り、視認性と意匠性のあいだに独特の緊張を生んだ。一方38mmは全数字をローマ数字へ統一し、より穏当な表情へと整えている。

変えたのはプロポーションである。張り出した竜頭ガードと幅広のラグが、42mmという実寸以上の存在感を腕の上に与える。厚みと径のバランスは、薄さよりも塊としての強さを優先した。仕上げは、サテン(梨地)とポリッシュ(鏡面)の対比を面ごとに描き分けることで、装飾に頼らず立体感を立ち上げる。色や宝飾で主張するのではなく、構造と陰影で語る——この自制が、ドレスとスポーツのあいだに居場所を作った。

輪郭は、同時代の競合と並べるといっそう明確になる。ロレックス デイトジャストIIやオメガ シーマスター アクアテラが担った「丸型のドレス・スポーツ」という土俵に、カルティエは自社の造形言語で参入した。ダイバーにおいてもその姿勢は変わらない。サブマリーナーやフィフティ ファゾムスが道具としての機能美を突き詰めたのに対し、カリブル ドゥ カルティエ ダイバーは大きなXIIとスモールセコンド、カボション竜頭という「ドレスの記憶」を残したまま規格を満たした。機能の上にカルティエの顔を重ねる——10年あまりの短い歴史でありながら、その設計言語は一貫していた。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2010-
Cal. 1904-PS MC
自社製初の量産自動巻。ツインバレル、毎時28,800振動。
2010年代
Cal. 9909 MC
複数時間帯を表示。ファインウォッチメイキングの複雑機構。
2013-
Cal. 1904-CH MC
コラムホイールと垂直クラッチの自社製クロノグラフ。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2010-

初代カリブル42

Calibre de Cartier 42
42mmの丸型に1904 MCを搭載、自社製量産機の起点。
2010年代

マルチタイムゾーン

Multiple Time Zone
9909 MCによる複数時間帯表示、複雑機構への拡張。
2013-

クロノグラフ世代

Calibre de Cartier Chronograph
1904-CH MC搭載、コラムホイール式の自社製計時機。
2014-

ダイバー登場

Calibre de Cartier Diver
ISO 6425適合、300m防水と内外ADLCのベゼルを備える。
2010年代後半

38mm版の追加

Calibre de Cartier 38
ケース径を38mmへ縮小、全ローマ数字の文字盤に。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Watches - Cartier 公式 · Cartier · 2026.08.15 閲覧 Cartier · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Introducing the Calibre de Cartier Diver with Manufacture Caliber 1904MC - Monochrome Watches 専門メディア · Monochrome Watches · 2026.10.12 閲覧 Monochrome Watches · 2026.10.12
  3. 03 専門メディア Pre-SIHH 2014: Introducing the Calibre de Cartier Diver, the first true dive watch from Cartier (with live photos and pricing) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
  4. 04 専門メディア SIHH 2013: Introducing the Calibre de Cartier Chronograph, equipped with Cartier’s new in-house chronograph movement (live pics and pricing) 専門メディア · SJX Watches · 2026.10.12 閲覧 SJX Watches · 2026.10.12
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive