設計思想
計器の四角を、一つの色で塗り込める
ベル&ロスのBR 03は、航空計器を腕に移したBR 01(2005年、46mm)を、より扱いやすい42mmへ縮めたモデルとして2006年に登場した。丸を四角で囲み、四隅をビスで留める構図は、この四角いケースの共通言語となっている。この一目で識別できる輪郭が、ベル&ロスを短期間で世界に知らしめた。
そのBR 03が黒以外の色を持つセラミックへと表現を広げたとき、青を全身にまとった一本が現れた。それがBR 03-92 ブルーセラミックである。黒という無難な選択ではなく、青という主張のある色で計器の四角を塗り込める。その判断自体が、このモデルの出発点である。
ブルースティールとの距離
青いBR 03には、もう一つの選択肢がある。鋼ケースにサンバースト仕上げの青文字盤を組み合わせたBR 03-92 ブルースティールである。こちらは金属の光沢と青文字盤の対比で「青」を見せる。
これに対しブルーセラミックは、ケースもベゼルもダイヤルも、さらにラバーストラップまでを青でそろえる。光を反射する金属の鋭さはなく、マットなセラミック特有の沈んだ質感が全体を覆う。同じ「青いBR 03」でも、素材が生む表情はまったく異なる。色の差ではなく、素材と仕上げの差として両者は分かれている。全体を一つの青で覆うことで、計器としての形そのものが際立つ。
42mm世代の終盤に置かれた一本
BR 03-92 ブルーセラミックは、42mmで続いた「BR 03-92」世代の円熟期に置かれた一本である。黒セラミックの定番や数々の限定版が出そろったのち、標準カタログの色つきセラミックとして加わった。
2023年、BR 03は41mmへと作り直され、ムーブメントも刷新される。1mm小さくなった新世代は、装着感も成り立ちも別物の物語だ。その節目とともに、42mmのブルーセラミックは現行ラインを退いた。派手な限定でも記念モデルでもないこの一本は、42mm世代が色彩でどこまで遊べたかを示す、静かな到達点として残っている。
意匠分析
本機の設計は、四角いインストゥルメントを「青いセラミックの塊」として成立させた点に尽きる。
ケースは42mm角のマットなブルーセラミックである。黒のセラミックは広く使われるが、安定した発色の青を量産することは黒より難しいとされる。ベル&ロスはこの青を、ケース本体だけでなく、円形ダイヤルを囲む固定ベゼルにも用いた。丸を四角で囲む構図そのものが、単一の青で塗り込められている。
ダイヤルも青で、アラビア数字とインデックスは金属のアプリケーションとして立体的に配される。これらにはスーパールミノヴァが充填され、暗所での視認を確保する。日付窓は4時半の位置に小さく開く。針もまた青で整えられ、文字盤との一体感を優先した配色となっている。風防は無反射コーティングを施したサファイアである。
素材としてのセラミックは軽く、日常の擦り傷に強い。一方で硬い反面、強い衝撃では欠ける性質も持つ。金属ケースのように艶やかに摩耗するのではなく、剥げない均質な青が長く保たれる。そこにこの素材を選ぶ理由がある。
ムーブメントはBR-CAL.302。セリタのSW300系をベースとする自動巻きで、毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブは約40時間である。自社開発の機構ではなく、調達ベースを着実に用いる構成は、視認性と信頼性を優先するこのシリーズの姿勢に沿う。なお同じ名のムーブメントは、後の41mm世代でパワーリザーブを延ばしている。本機の世代は、その更新前の構成にあたる。ストラップは青のラバーで、四角いケースの色をそのまま手首へ延長している。
系譜と歴史
BR 03-92 ブルーセラミックは、42mmで展開された「BR 03-92」世代に属する一本である。この四角いケースは2006年のBR 03に始まり、当初、黒いケースはPVD塗装で表現されていた。ベル&ロスはやがて黒ケースをセラミックへ移し、さらに黒以外の色を持つセラミックへと展開を広げる。本機はその流れに連なる、青一色のセラミック・インストゥルメントである。型名の「92」は、ベル&ロスの命名で自動巻き3針モデルを指す。本機も時・分・秒と日付を備える、その系列に属する。
色つきセラミックのBR 03-92には、999本限定のレッドレーダー・セラミック(2021年)のように、限定で送り出されたものが少なくない。これに対し本機は、番号管理を伴わない標準カタログモデルとして供給された点に特徴がある。防水性能は100mで、同じ青いセラミックでも300m防水のダイバー系(2023年のダイバー・タラ、999本限定など)とは性格を異にする。
本機の登場は2020年代前半とされる。2023年にBR 03が41mmへ刷新され、文字盤の「92」表記が外れると、42mmのブルーセラミックは現行カタログから退いた。現在はアーカイブ扱いとなっている。生産期間を通じての大きな仕様変更は確認されていない。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア SW300-1 - Grail Watch Reference
- 02 専門メディア Sellita caliber SW300-1 a