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A. LANGE & SöHNE · SERIES

Cabaret

カバレット

1997年、ラング再生期の角型コレクション。世界初のストップトゥールビヨンを宿した、シェイプドムーブメントの系譜。

36.3 mm
01 — 概要 / SUMMARY

カバレットは、A. Lange & Söhne がザクセン再生後の1997年に発表した、ブランド初の純粋な角型コレクションである。アール・デコを範とする三段ベゼル、文字盤中央のビッグデイト、長方形に専用設計されたシェイプドムーブメント Cal. L931 を備える。2005年にはムーンフェイズ仕様 (Ref. 118.032 ほか)、2008年には世界初のストップセコンド機構を備えた Cabaret Tourbillon (Cal. L042.1) が登場。標準ラインは2010年代初頭に終了したが、2021年の Handwerkskunst、2026年の Honeygold と、限定モデルとして独自性が継承されている。

02 — STORY · 物語

Cabaret(カバレット)、これまでの軌跡

The story of this series
01

1997年バーゼル、ラングが角に挑む

1990年代のA. Lange & Söhne は、再生したばかりの若い企業であった。1994年に発表された四つの初代モデル — Lange 1、Saxonia、Arkade、Tourbillon "Pour le Mérite" — のうち、Arkade はわずかに角張った長方形ケースを採用していたが、それは依然として柔らかな曲面を持つ「四角に近いケース」であった。

1997年、バーゼルワールド。ラングは、その先に進むひとつの答えを示した。Arkade より一回り大きく、完全に直線で構成された角型ケース — それがカバレットである。初代 Ref. 107.031 は18Kピンクゴールド製、黒文字盤に同色のローズゴールド針とインデックスを組み合わせた、二色仕上げの構成だった。寸法は36.3 × 25.9ミリ、厚さ9.1ミリ。

「Cabaret」という命名は、ザクセンの実直なブランドにとって異例の軽妙さを帯びていた。当時の公式資料は「fresh, impudent, imaginative」と謳い、アール・デコ期の都市文化を呼び起こす意図を明確にしていた。

02

シェイプドムーブメントという選択

カバレットを単なる角型ケースに留めなかったのは、その内側に収まる機械の在り方であった。Cal. L931.3 は、Arkadeの L911 を改修した完全な長方形のシェイプドムーブメントである。円形のキャリバーを長方形ケースに収めるという、当時もすでに業界で広く採られていた近道を、ラングは採らなかった。

長方形ケースの隅々まで地板と3/4プレートが行き渡り、サファイアシースルーバックから見える機械の「形」そのものが、ケース外形と一致する。30石(うち3石は金製シャトンで固定)、毎時21,600振動 (3Hz)、約42時間のパワーリザーブ。ハンドエングレーブされたバランスコック、ブルースクリュー、未処理のジャーマンシルバー製プレート。ラングが円形機で語ってきた仕上げの語彙が、そのまま角型の中で展開されている。

03

派生 — メタル展開とムーンフェイズ

初代の発表後、カバレットはピンクゴールドの 107.032、プラチナの 107.025・107.035、ホワイトゴールドの 107.027、稀少なイエローゴールドの 107.021 と、貴金属の選択肢を広げていった。ダイヤモンドセッティングを伴うレディース寄りの 808 系・827 系・868 系も派生する。

2005年前後には、ムーンフェイズ仕様の Ref. 118.021・Ref. 118.032 が加わる。搭載される Cal. L931.5 は L931.3 をベースに、6時位置のスモールセコンドの中に月相表示を組み込んだ31石の派生機である。コレクションは円形の Lange 1 や Saxonia ほどの商業的成功には届かなかったものの、ラングの中で確実に独自の場所を占めていた。

04

2008年、止まるトゥールビヨン

カバレットが時計史に刻まれる契機は、2008年に訪れた。Cabaret Tourbillon (Ref. 703.025 プラチナ、703.032 ピンクゴールド) は、世界で初めてトゥールビヨンに停止機構を備えた腕時計として登場した。

ブレゲがトゥールビヨンの特許を取得した1801年以来、回転するキャリッジ内のテンプを止めることは構造上不可能とされてきた。ラングのエンジニアが見いだしたのは、キャリッジの外側からテンプ本体に直接接触する、V字型の停止ばねである。リューズを引くと、ばねがテンプを瞬時に停止させ、押し戻すと再び振動を開始する。トゥールビヨン搭載機としては初めて、秒単位の時刻合わせが可能となった。

機械は専用設計の Cal. L042.1。長方形フォームムーブメントとしては大型の22.3 × 32.6ミリ、ツインバレルによる120時間 (5日間) のパワーリザーブ、370パーツ (うち84がトゥールビヨンキャリッジ)、47石。ケースはカバレットらしい角型ながら、39.2 × 29.5ミリ、厚さ10.3ミリと大型化していた。

05

標準ラインの終焉と、ハンドベルクスクンストへ

商業的に見れば、Cabaret Tourbillon は振るわなかった。発表からわずか1年後の2009年には早くもオークションに登場し、定価を大きく下回る落札も記録されている。標準のカバレット (107系・118系) も、2010年代初頭には段階的に縮小され、2013年頃までにカタログから姿を消した。製品開発責任者アンソニー・デ・ハースは後年、「2010年か2011年に廃止した」と振り返っている。

長い沈黙の後、2021年、カバレットは異例の形で再臨する。Handwerkskunst (職人技) シリーズの第7作として登場した Ref. 703.048 は、Cabaret Tourbillon のプラチナケースに、ホワイトゴールド3層構造の文字盤を組み合わせた30本限定モデルであった。文字盤中央のローゼンジ・パターンは手彫りで刻まれ、その上に半透明エナメルが被せられる。標準コレクションではなく、純粋な工芸品としての復活であった。

06

2026年、ハニーゴールドの中で

2026年、カバレットはふたたび限定の形で姿を現す。Cabaret Tourbillon Honeygold (Ref. 703.050) は、ラング独自の合金「ハニーゴールド」をケースと文字盤の双方に用いた、50本限定のモデルである。文字盤の立体的なインデックスはハニーゴールドから直接削り出され、表面に黒ロジウムを施したうえで頂点部分のみが研磨で再び露出する、という凝った工程を経ている。

搭載機は2008年のオリジナルと同じ Cal. L042.1。ハニーゴールドを採用するラング作品としては18番目にあたり、コモ湖畔で開催されるコンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステで初公開された。シェイプドムーブメントを抱えた角型ケースという、ラングの中でも稀有な系譜は、ブランド自身の手で静かに継承され続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

カバレットの設計を貫く第一の原理は、ケースの形状と内部機械の形状を一致させる、というシンプルな姿勢である。長方形のケースに円形のキャリバーを収め、余白を装飾で埋める手法は、20世紀以降の角型時計史で広く採られてきた近道だが、ラングはそれを採らなかった。L931.3、その派生のL931.5、そしてCabaret Tourbillon専用のL042.1は、いずれも長方形の地板と3/4プレートを持つシェイプドムーブメントである。サファイアシースルーバックから見える機械の輪郭が、そのままケースの内側に沿っている。

外装でカバレットの輪郭を決定づけるのは、三段構成のベゼルである。サテン仕上げのケースミドルから一度垂直に立ち上がり、続いて緩やかに傾斜する研磨面が現れ、最後にシャープに切り立った内縁が文字盤を縁取る。アール・デコ建築のセットバック(段状後退)を思わせる構成だが、ジャガー・ルクルトのレベルソやカルティエ・タンクの先例を直接的に模倣することなく、独自の解釈に落とし込んでいる。

ラグの処理にもラングらしさが宿る。ケース中央から外側に向かって明確に突出し、角に切り欠き (ノッチ) を入れた研磨面と、サテン仕上げのケース側面のコントラストで立体感を強調する。ラング自身がのちにオデュッセウスのインテグレーテッドブレスレットで再解釈することになる、ブランドのラグ言語の原型のひとつである。

文字盤側では、12時位置のビッグデイト窓が視覚的アンカーを担う。Lange 1で確立されたアウトサイズ・デイトの語彙を角型ケースに移植したものだが、二つの円形日付窓を角型の枠で囲った構成は、ラング全体の文字盤レイアウトの中でもひときわ強い幾何学性を持つ。針はランセット型 (槍状)、インデックスはローマ数字と菱形 (ローゼンジ) の組み合わせ。この菱形は2021年のHandwerkskunst文字盤で全面的な彫金パターンへと展開される、シリーズ固有の意匠言語である。

カバレットが70年の歴史を持つ他の長寿シリーズと違うのは、生産期間の短さゆえに「変えない」ことが先鋭化された設計になっている点である。ケース径も基本構造も、初代から現行のCabaret Tourbillonまでほぼ一貫している。派手な装飾や寸法の拡大を選ばず、シェイプドムーブメントという技術的選択と、三段ベゼル・突出ラグ・ビッグデイトという意匠的選択を、ただ静かに守り続けた。それがこのシリーズの設計思想の核である。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1997-2009
Cal. L931 / L931.3
シェイプド手巻、ビッグデイトと小秒針、3Hz、42時間PR。
2005-2013
Cal. L931.5
L931.3 にムーンフェイズ機構を加えた31石派生機。
2008-現在
Cal. L042.1
ストップトゥールビヨンとツインバレル120時間PR。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1997-2009

初代カバレット

107.031 107.032
ラング初の純角型ケースに Cal. L931.3 とビッグデイトを搭載。
2005-2013

ムーンフェイズ

118.021 118.032
Cal. L931.5、月相と小秒針を組み合わせた派生モデル。
2008-2013

カバレット・トゥールビヨン

703.025 703.032
世界初のストップセコンド機構をトゥールビヨンに搭載。
2021

ハンドベルクスクンスト

703.048
プラチナ30本限定、手彫り菱形と半透明エナメルの文字盤。
2026

ハニーゴールド

703.050
ハニーゴールド製のケースと文字盤を備えた50本限定モデル。
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

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