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PERSON · 1970–

ロジャー・W・スミス

Roger W. Smith

ジョージ・ダニエルズの唯一の弟子にして、マン島で英国時計製造の伝統を継ぐ独立時計師

BORN
1970年
DIED
存命
人物一覧と共通の時間軸 1690–2026
01 — OVERVIEW

概要

ロジャー・W・スミス(Roger W. Smith、1970-)は英国マン島を拠点とする独立時計師である。20世紀英国を代表する時計師ジョージ・ダニエルズの唯一の弟子として、原材料からの一貫手作業による「ダニエルズ・メソッド」を継承する数少ない作り手とされる。2018年に大英帝国勲章OBEを、2025年にはスイス・ラ・ショー=ド=フォン国際時計博物館のガイア賞を受けた。現代英国時計製造復興の象徴的存在として、独立時計製造の最前線に立つ。

02 — LIFE

生涯

A life in time

01ボルトンの少年とダニエルズとの出会い

ロジャー・スミスは1970年、イングランド北西部のボルトンに生まれた。学業より手仕事に親しんだ少年は、父の勧めで16歳のとき学校を離れ、マンチェスター時計学校(Manchester School of Horology)の3年課程に入学する。1989年、最優秀生徒に贈られる英国時計学院(BHI)のブロンズメダルを獲得して卒業した。

転機は在学中に訪れた、ジョージ・ダニエルズ(George Daniels、1926-2011)の講演であった。一人の人間が一個の時計を完成させる「ダニエルズ・メソッド」に強い影響を受けたスミスは、卒業後に時計の仕事をしながら、最初の懐中時計を独学で組み上げた。

02二度の挑戦と弟子入り

22歳で最初の懐中時計を完成させたスミスはこれをダニエルズに見せたが、認められなかった。スミスは5年半をかけて二作目の懐中時計を作り直し、これを見たダニエルズは「君はもう時計師だ」と認めたと伝わる。

1998年、ダニエルズはオメガがコーアクシャル脱進機を採用したことを記念する腕時計「ダニエルズ・ミレニアム」の製作にスミスを招き、スミスはマン島に移る。ダニエルズが唯一受け入れた弟子である。計画の完了に合わせ、2001年にスミスは「Roger W. Smith Ltd」を設立し、独立工房としての歩みを始めた。

03ダニエルズ亡き後の継承

コーアクシャル脱進機の発明35周年を記念する「ダニエルズ・アニバーサリー」は、当初オメガのムーブメントを使う計画だったが、スミスがダニエルズを説得し、スミスの単輪式コーアクシャル脱進機を組み込んだ新しいキャリバーで作られることになった。2011年10月21日、ダニエルズは85歳で永眠し、工房をスミスに遺した。最後のアニバーサリーは2025年に完成している。

2018年、スミスは時計製造への貢献により女王誕生日叙勲でOBE(大英帝国勲章)を授与され、同年には名誉博士号も贈られた。同じ2018年に工房を移転している。2020年には「英国時計・時計師連合(Alliance of British Watch and Clock Makers)」を共同設立し、会長を務める。2025年9月18日、ラ・ショー=ド=フォン国際時計博物館(MIH)のガイア賞(Prix Gaïa)が授与された。

03 — WORK

業績・代表作

What this person built

01ダニエルズ・メソッドの完全継承

スミスの業績の中心にあるのは、一人の時計師が一個の時計を素材から完成まで仕上げるという「ダニエルズ・メソッド」の継承と発展である。スミスは、素材から手で時計を作るのに必要な32の職能をすべて身につけた数少ない時計師の一人とされる。2021年には通算100本目の時計を完成させた。

02単輪式コーアクシャル脱進機

技術的に最も重要な業績は、ダニエルズが発明したコーアクシャル脱進機の単輪化である。ダニエルズの原設計は二段の車を組み合わせる構造であったが、スミスは上段のインパルス車の歯を下段の車へ移すことで一枚に統合した。

この単輪式は2009年に始まった「ダニエルズ・アニバーサリー」の計画で、ダニエルズ本人の承諾を得て新キャリバーに組み込まれ、後の作品の標準となった。

03シリーズと作品群

独立後の作品群は「シリーズ」として体系化されてきた。2001年に初代シリーズ1が始まり、ダニエルズのコーアクシャル脱進機を用いたシリーズ2が続いた。2018年には新しいシリーズ1が登場し、その後シリーズ4などの複雑機構モデルも加わっている。

04後進育成と業界への寄与

スミスはダニエルズが一人で工房を構えた姿勢とは対照的に、若手時計師を積極的に育成する。工房には複数の弟子が在籍し、英国内に時計製造の技能を継承する流れを意図的に作り出している。2020年に共同設立した英国時計・時計師連合でも会長を務め、英国内の作り手を束ねる役割を担っている。

04 — LEGACY

評価・後世への影響

What remains

スミスの存在によって、英国の時計製造は系譜として途切れずに残った。ジョージ・ダニエルズが一代で築いた技法は、通常であれば個人とともに失われる性質のものである。工房と工具、そして手順が次の世代へ渡ったことで、素材から一人で仕上げるという制作単位が現在も実在する方法として確認できる。

技術面では、コーアクシャル脱進機の単輪化が最も直接的な寄与である。原設計の二枚構成を一体化した改良は、部品点数と摩擦を減らし、この脱進機を扱いやすい形へ整理した。発明者本人の承認を経て以後の標準となった経緯は、継承が模倣ではなく更新であったことを示している。師の設計を触れずに守るのではなく、必要な箇所を作り替えたうえで引き継ぐという判断である。

少量生産の工房でありながら、業界団体の設立を主導した点も特異である。自身の工房の外へ働きかけ、英国内の作り手を束ねる枠組みを作ったことで、個人の技能の継承にとどまらない産業としての再興が視野に入った。

弟子を積極的に受け入れる方針は、単独で工房を構えた師とは対照的である。一人で完成させるという理念を保ちながら、それを担える人間を複数育てるという設計は、技法を制度として残すための現実的な選択といえる。英国時計製造の復興という語りが個人の伝記に閉じないのは、この方針によるところが大きい。

— — SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Press kit Gaïa 2025 公式 · Musée international d'horlogerie (MIH) · 2026.10.10 閲覧 Musée international d'horlogerie (MIH) · 2026.10.10
  2. 02 公式 Roger W Smith | Evolution 公式 · Roger W. Smith Ltd · 2026.10.10 閲覧 Roger W. Smith Ltd · 2026.10.10
  3. 03 専門メディア From Invention to Evolution: The Story of the Co-Axial Escapement — Horological Society of New York 専門メディア · Horological Society of New York · 2026.10.10 閲覧 Horological Society of New York · 2026.10.10
  4. 04 オークション Roger Smith The 2021 New York Watch Auction オークション · Phillips · 2026.10.10 閲覧 Phillips · 2026.10.10
  5. 05 ブログ Roger Smith (1995 – ) – Bolton's Clock and Watch Makers ブログ · Bolton's Clock and Watch Makers · 2026.10.10 閲覧 Bolton's Clock and Watch Makers · 2026.10.10