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PERSON

アンリ・ドリニー

Henri d'Origny

エルメスのアルソーとケープコッドを描いた図案家。鐙や錨の鎖といった馬具と船具の形を、時計のケースに移した

人物一覧と共通の時間軸 1690–2026
01 — OVERVIEW

概要

アンリ・ドリニー(Henri d'Origny)は、エルメス(Hermès)のデザイナーである。1958年にパリの本店で働き始め、ネクタイとカレ(シルクスカーフ)の図案を数多く描いてきた。1978年、時計子会社 La Montre Hermès の発足に合わせて最初の腕時計「Arceau(アルソー)」を設計した。鐙をかたどった非対称のラグが、その特徴である。1991年には錨の鎖をケースの輪郭にした「Cape Cod(ケープコッド)」を発表する。馬具と船具の形を時計の輪郭に置き換えた彼の仕事は、現在のエルメスの時計にも受け継がれている。

02 — LIFE

生涯

A life in time

01馬具に囲まれた少年時代

アンリ・ドリニー(Henri d'Origny)は、パリのエルメス本店を拠点に仕事を続けてきたデザイナーである。本人の回想によれば、少年時代の大半を祖父の領地で過ごした。祖父は熱心な乗り手で、所有する馬具はすべてエルメス製だったという。

ドリニー家は古くからエルメスの顧客だった。1950年代の前半、若いドリニーはデザインや素描を楽しむ日々を送っていたとされる。

02本店の机から生まれたネクタイ(1958〜1970年代)

1958年、ドリニーはフォーブール・サントノレ24番地のエルメス本店で働き始めた。本人は、古い鞍の香りを自分にとっての「マドレーヌ」と呼んでいる。

当時の店は客が少なく、ドリニーは半年ほど机で落書きをして過ごしたと語っている。それを見たパトリック・ゲラン(Patrick Guerrand)が、ネクタイの柄に使えると提案したという。点や縞の定番柄に、鐙やハミ、帆、蹄鉄を織り込んだ柄は、すぐに受け入れられたと伝わる。

以後、ドリニーはネクタイとカレの図案を描き続けた。1978年の時点で、手がけたネクタイとカレはすでに数百点に達していたとされる。生涯の図案は1,000点を超えると報じられている。

03時計への展開(1978〜1991)

1978年、エルメスはスイスのビエンヌに時計子会社 La Montre Hermès を設立した。クォーツショックのただ中で、量産のクォーツ式が業界を塗り替えていた時期にあたる。

この年、ドリニーはジャン=ルイ・デュマ(Jean-Louis Dumas)の依頼を受け、初めて腕時計を設計した。ネクタイとカレの図案家が、時計の形を一から考える立場に置かれたことになる。

13年後の1991年には、ケープコッドを描いた。時計の仕事は図案の本業と並行して続き、手がけた時計は20点を超えるとされる。目覚まし時計や浴室用マット、ハンドバッグの設計にも及んだと伝わる。

04外部の作家として(2010年代〜)

2016年の時点で、ドリニーは各地の工房を回っていたと報じられた。カレの部門 La Maison des Carrés の製作も見守っていたという。2021年には英誌 Spear's が、80代のドリニーが外部の創作者としてエルメスと仕事を続けていると伝えている。

2025年には、ギヨーム・ド・セーヌ(Guillaume de Seynes)が専門誌のインタビューに答えている。1990年代末から時計子会社を率いてきた人物で、90歳を超えたドリニーとの協働が今も続いていると述べた。1958年の入社から数えて、メゾンとの関係は60年を超える。

03 — WORK

業績・代表作

What this person built

01アルソー(1978):鐙を時計の形にする

最初の腕時計「Arceau(アルソー)」は、円形のケースに鐙(あぶみ)の形をしたラグを付けた。ラグは左右非対称で、エルメスが馬具工房から出発したことを示す。文字盤には傾いたアラビア数字が並ぶ。エルメス公式はこの傾きを駆ける馬の動きと説明し、専門誌 WorldTempus は風にあおられた姿にたとえている。

ギヨーム・ド・セーヌ(Guillaume de Seynes)は2025年のインタビューで当時を振り返っている。ドリニーは先入観を持たず、数百枚のスケッチを描いたという。時計ブランドであれば「時計らしくない」と退けていたはずだ、とも述べている。

アルソーはその後、ケースの基本形を保ったまま多くの派生作の器になった。自社ムーブメントを積む複雑機構から、工芸技法を尽くした文字盤までを受け止めている。

02クリッパー(1981):舷窓のベゼル

1981年の「Clipper(クリッパー)」も、ドリニーの設計である。名は3本マストの快速帆船に由来し、ベゼルは船の舷窓を思わせる丸い輪郭をとる。鐙に続いて、今度は帆船の部品が時計の外形に移された。

03ケープコッド(1991):命令に従わなかった正方形

「Cape Cod(ケープコッド)」は、デュマが求めた正方形の時計から生まれた。ドリニーは、命令に従うのが好きではないので、正方形を内に抱く長方形を描いたと語っている。エルメスの説明でも、正方形の予定が「長方形の中の正方形」になったとされる。

ケースの輪郭は、錨の鎖をかたどった「シェーヌ・ダンクル」のコマを半分ずつ2つ組み合わせたものである。この鎖の図案はロベール・デュマ(Robert Dumas)の考案で、1938年に銀のブレスレットとして世に出た。名は米マサチューセッツ州の避暑地に由来し、本人は一度訪れたその土地の空気が錨鎖の発想につながったと語っている。

1998年には、手首に2周巻くダブルトゥール・ストラップが加わった。考案したのは、当時の婦人既製服アーティスティック・ディレクター、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)である。ケースはドリニー、ストラップはマルジェラの考案であり、両者の役割は分かれている。

04物の形を輪郭に置き換える

鐙、舷窓、錨の鎖。ドリニーの時計は、馬具と船具というエルメスの物の語彙を、文字盤の図柄ではなくケースの輪郭そのものに置き換えている。ネクタイやカレの図案で馬具を図形として扱ってきた手つきが、立体の時計にも通じている。

本人はケープコッドを身に着けることについて、型にはまらず大胆でありながら、厳格で時を超えた様式に忠実であることだと語った。遊びと規律を同じ形に収めるという考え方は、アルソーの傾いた数字にも表れている。

2015年の Apple Watch Hermès には、クリッパー、ケープコッド、エスパスに由来する3種の文字盤が用意された。ケープコッドの文字盤は、ドリニー自身が描いたと報じられている。腕時計で育った意匠が、電子時計の画面にも持ち込まれたことになる。

— — SOURCES

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

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  2. 02 公式 Arceau Le Temps Voyageur watch, 41 mm 公式 · Hermès · 2026.10.17 閲覧 Hermès · 2026.10.17
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