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腕時計史 · MILESTONE — 第2章 腕時計の誕生
1910

ロレックス 腕時計のクロノメーター認定

腕時計は不正確という通念に、ロレックスは公的な精度認定という反証で応えた——道具としての腕時計への一歩である。

§ 00 Overview

1910年、ロレックスの腕時計が、ビエンヌの公式検定機関からスイスのクロノメーター精度証明書を取得したと伝わる。当時、腕時計は小ぶりで不正確な装身具とみなされ、精密な計時は懐中時計や海洋クロノメーターの役割とされていた。ハンス・ウィルスドルフは、この通念を覆そうと自社の時計を公的検定にかけた。ムーブメントはビエンヌのエグラー社が手がけた小型の精密機で、精度が認定につながった。1914年には英国キュー天文台のクラスA認定を、腕時計として初めて得たとされる。『腕時計で初』との主張には検証の余地が残るが、一連の認定は腕時計が精密な計時を担えると公に示した出来事である。

§ 01 Background

20世紀初頭、腕時計はまだ確固たる地位を得ていなかった。英語では『リストレット』と呼ばれ、小ぶりで数も少なく、主に女性が身につける装身具とされた。男性の正式な携帯時計は懐中時計であり、腕時計は精度の劣る流行品という見方が根強かった。テンプもヒゲゼンマイも小さくなれば、わずかな外乱が精度に響きやすい。腕の動きや温度変化にさらされる腕時計が、懐中時計や海洋クロノメーターに精度で並ぶとは、当時ほとんど信じられていなかった。

ハンス・ウィルスドルフは、この通念に逆らった人物である。1905年、アルフレッド・デイビスとともにロンドンでウィルスドルフ&デイビス商会を起こし、スイス製の小型ムーブメントを英国製ケースに収めて売った。供給元は、ビエンヌのエグラー社だった。同社はレバー脱進機の小型ムーブメントを精度高く量産でき、互換部品の供給にも長けていた。ウィルスドルフは1908年に『ロレックス』の名を商標登録し、腕時計でも精密な計時が可能だと証明することを目標に据えた。

一方、計時の精度を公に保証する仕組みは、すでに存在していた。各地の天文台や検定機関が海洋クロノメーターや懐中時計を試験し、姿勢や温度を変えながら日差を測って格付けしていた。とりわけ海上の航法は精密な計時に依存し、誤差は航行の安全に直結する。こうした認定は確立した精密時計のためのもので、腕時計がその土俵に上がるという発想自体が新しかった。

§ 02 The Event

1910年、ロレックスの腕時計が、ビエンヌの公式検定機関からスイスのクロノメーター精度証明書を取得した。クロノメーターとは、所定の試験で高い精度を満たした時計に与えられる呼称である。試験では、時計を複数の姿勢に置き、温度を変えながら数日にわたり日差を測り、定められた許容範囲に収まるかを判定した。懐中時計ではなく、腕に着ける小型の時計がこの基準を満たしたことが、当時としては異例だった。

ロレックスはこの認定を、腕時計として世界で初めての取得と位置づけている。ただし『腕時計で初』という主張は主にブランド自身の記録に基づき、独立した一次資料による裏づけは乏しい。同時期に他社の腕時計が認定を受けていた可能性も否定できない。商標ロレックスの登録が1908年、認定が1910年という近さもあり、認定品がロレックス銘の腕時計であった可能性は高いとされるが、なお検証の余地が残る。

精度の証明を一段進めたのが、1914年のキュー天文台である。ロンドン近郊のこの天文台は、時計の精度を格付けする厳格な検定で知られていた。その『クラスA』認定は、スイスの15日に対し45日の試験を課し、5姿勢・3温度で日差を測り、数秒ほどの許容しか認めない。こうした上位の格付けは海洋クロノメーターや精密な懐中時計の領分とされてきたが、ロレックスの小型の腕時計が同年7月、腕時計として初めてこれを得たと伝わる。腕に着ける時計が、精密な計時の担い手として公に認められた瞬間である。

§ 03 Significance

一連の認定の意義は、まず精度をめぐる通念を技術で覆した点にある。腕時計は不正確だという前提が、根拠のある計測によって反証された。精度は時計の大きさではなく、ムーブメントの設計と仕立てに依存する——この当たり前が、公的な証明書という形で示された。腕時計を装身具から精密な道具へと押し上げる、技術的な裏づけとなった。

この出来事は、精度と認定をめぐる長い系譜の一里塚でもある。天文台コンクールや検定機関による格付けの文化は、やがてスイス公式クロノメーター検定(COSC)の規格へと整理され、各社は独自の上位規格を設けていく。腕時計の精度を第三者が保証するという発想は、ここから現代まで連なっている。ロレックスはこの路線を押し進め、1930年代には文字盤に『公認クロノメーター』の表示を刻むようになった。

精度を証明できても、それを保てなければ意味がない。腕時計が日々の使用で精度を保つには、水や塵から機構を守る必要がある。1926年の防水ケース『オイスター』、1931年の自動巻『パーペチュアル』は、この延長線上にある。精度の証明から堅牢性の確立へと続く流れは、腕時計が実用品として定着する過程そのものだった。

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