本文へ
← 腕時計史 · 第3章 技術の確立
腕時計史 · MILESTONE — 第3章 技術の確立
1931

ロレックス パーペチュアル(360度ローター)

跳ね返るバンパーではなく、重りを円のまま回し続ける——ロレックスが1931年に示した全周回転ローターは、自動巻を実用の段階へ進めた。

§ 00 Overview

1931年、ロレックスは自動巻機構パーペチュアルを発表した。創業者ハンス・ウィルスドルフは、防水ケースのオイスター(1926年)に見合う自動巻を求め、ムーブメント製造のエグラー社に開発を委ねた。技術者エミール・ボレールが手がけたキャリバー620は、半円形の重りが中心軸の周りを全周にわたり自由に回る方式をとる。揺動して跳ね返るハーウッドのバンパー式と異なり、抵抗なく回り続ける点で巻上げの効率が高かった。ただし巻き上げの向きは一方向に限られた。最初の自動巻腕時計はハーウッドらが先行しており、本機の新しさは、全周回転する中心ローターを商品として確立した点にある。

§ 01 Background

1931年に先立つ数年、ロレックスは防水という課題に一つの答えを出していた。1926年のオイスターは、ねじ込み式のケースで水や塵の侵入を防ぐ構造だった。しかし弱点が残る。時刻合わせと巻き上げのたびにリューズを引き出せば、その隙からわずかに水が入りうる。日々の手巻きは、せっかくの密閉を繰り返し緩める行為でもあった。

もし時計が腕の動きだけで自動的に巻き上がれば、リューズに触れる回数は減り、防水ケースの価値はいっそう生きる。ウィルスドルフはそう考えた。自動巻という発想自体は古い。18世紀には歩行で巻き上がる懐中時計が作られ、1920年代にはイギリスのジョン・ハーウッドが、揺動する重りで巻き上げる腕時計を実用化していた。

もっとも、ハーウッドの方式には限界があった。重りは両端のばねの間を往復するバンパー式で、可動範囲が狭く、跳ね返るたびに動きが止まる。腕の動きを十分に拾えず、装着者には独特の打音も伝わった。改良の余地は大きかった。

§ 02 The Event

1931年、ウィルスドルフはムーブメント製造を担うエグラー社に、新しい自動巻機構の開発を求めた。注文は明快である。緩衝ばねを使わず、静かに滑らかに回り続ける巻上げ機構をつくること。エグラーの技術責任者エミール・ボレールがこれに応えた。

生まれたのがキャリバー620である。中心軸に取り付けた半円形の重り(ローター)が、両端で跳ね返ることなく全周にわたって自由に回転する。腕が動けば重りは円を描いて回り続け、その回転を歯車で主ゼンマイに伝える。ハーウッドのバンパー式が狭い弧を往復したのに対し、この方式は動きを途切れさせずに拾った。

ただし巻き上がるのは回転の一方向のみで、両方向で巻く仕組みではなかった。重りが回りすぎても主ゼンマイが巻き締まりすぎないよう、ボレールは滑りクラッチを組み込んだ。ゼンマイは一定の張力で頭打ちになり、過巻きを防ぐ。自動巻とは別に、リューズでの手巻きも残された。巻上げ機構は独立した受け板にまとめられ、既存の手巻きムーブメントに組み付ける形をとった。整備の際には、この部分だけを外せる。

この機構を、ロレックスはパーペチュアルと名づけた。装着している限り永久に動き続ける、という含意である。防水のオイスターケースと組み合わされ、文字盤にはオイスター パーペチュアルの名が記された。モジュールを加えた初期ムーブメントは厚みを増し、裏蓋が丸く膨らむ。1933年以降のこの形は、後にバブルバックと通称される。

§ 03 Significance

パーペチュアルの意義は、まず効率にある。全周を自由に回る重りは、腕のわずかな動きも途切れず回転に変える。跳ね返りで止まるバンパー式より多くの動きを拾い、主ゼンマイを安定して巻き上げた。一方向巻きの制約は残ったが、巻上げ効率では一段進んでいた。

ロレックスはこの方式を特許で囲い込んだ。中心ローターを自由に回す設計は1948年の特許失効まで他社が使えず、オメガやジャガー・ルクルトは、その間バンパー式に頼らざるを得なかった。両方向で巻くローターが現れるのは、1942年のフェルサ ビダイネーターを待つ。

特許が切れると、全周回転のローターは自動巻の標準形となり、跳ね返るバンパーは姿を消していった。今日の自動巻腕時計の多くも、この延長線上にある。ハーウッドのバンパーに始まり、それを経て、後のマイクロローターやマジックレバーへ——自動巻の系譜の中で、本機は転換点に立つ。

なお、ロレックスは長く最初の自動巻機構を称したが、自動巻腕時計そのものはハーウッドらが先んじていた。1950年代半ばには、ロレックス自身が新聞紙上でハーウッドの先行を認めている。本機の功績は、自動巻の発明ではなく、全周回転する中心ローターを実用解として定着させた点にある。

← 年表へ戻る