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腕時計史 · MILESTONE — 第3章 技術の確立
1932

オメガ マリーン

水を防ぐ時計から、水中で使う時計へ──オメガがマリーンで踏み込んだのは、防水の次にある潜水という用途だった。

§ 00 Overview

1932年、オメガは防水腕時計マリーンを発売した。機械と文字盤を収めた内ケースを、もう一つの外ケースへ滑り込ませ、コルクのガスケットで密閉する二重構造を採る。設計はジュネーブのルイ・アリックスの特許に基づき、ねじ込みリューズで防水を押さえたロレックスの特許を避ける狙いがあった。リューズは懐中時計のように上部へ置かれ、外ケースの内側で守られる。1936年にはジュネーブ湖の水深73メートルで試され、翌年にはスイスの研究所が135メートル相当の耐圧を認めた。防水にとどまらず、潜水という用途を想定して試験された初期の腕時計の一例であり、オメガは世界初の市販ダイバーズと称している。

§ 01 Background

1920年代、腕時計は男性の標準装備として定着しつつあった。だが小さな機械は水や塵に弱く、ケースの隙間から侵入する水分が動作を狂わせた。ロレックスは1926年のオイスターで、ねじ込み式のリューズと裏蓋により水の侵入を抑える方法を確立していた。

もっとも、防水と潜水への対応は同じではない。オイスターは日常の水濡れに耐えるよう作られ、特定の深度での試験や認定を前提にしてはいなかった。一方この時期、ヘルメット式潜水や簡易な潜水器具が広まり、水中での活動が一部の専門職や探検の領域を超えて広がり始める。潜水器具の改良で知られるル・プリウールのように、水中に長くとどまる者が現れた。腕の時計を水中でも読みたいという要求が、具体的な形を取り始めた。

ただし設計者の前には壁があった。リューズの貫通部をどう塞ぐかが防水ケースの最大の難所であり、その有力な解であるねじ込みリューズはロレックスが特許で押さえていた。同じ方法を採れない以上、別の発想で水を遮る必要があった。

§ 02 The Event

1932年、オメガはマリーンを世に出した。リファレンスは679。設計はジュネーブのルイ・アリックスが取得したスイス特許CH146310に基づく。アリックスの解は単純かつ大胆だった。リューズの貫通部を直接塞ぐのではなく、時計全体をもう一つのケースで包む。機械・文字盤・針を収めた長方形の内ケースの肩に溝を設け、そこへコルクのガスケットを納める。この内ケースを外ケースへ滑り込ませると、外ケースの縁がガスケットを押さえつけ、密閉される。背面のスプリングクリップが二つのケースを留めた。リューズは内ケースの上部に懐中時計のように置かれ、外ケースの内側で守られる。水深が増すほど水圧がガスケットを押し、密閉が強まる点に構造の妙があった。特許は仏・英・米・独でも取得された。

深度の証明は数年をかけて行われた。1936年、マリーンはジュネーブ湖の水深73メートルに30分沈められ、機能を保った。翌1937年5月、ヌーシャテルのスイス時計研究所が、13.5気圧──水深135メートルに相当する圧力に耐えると認定した。腕時計の耐圧を実地と試験室の双方で確かめ、潜水への適性を公に裏づけた、初期の例である。

マリーンは実際に水中へ持ち込まれた。潜水器具の改良で知られるイヴ・ル・プリウールが、潜水に携行したと伝わる。米国の探検家チャールズ・ウィリアム・ビービは、1936年に太平洋の水深14メートルでマリーンを使い、水や塵を防ぎ腐食にも耐えた点を時計づくりの前進と評したと伝えられる。ケースや文字盤、ラグの意匠はアールデコ様式の長方形で、当時の流行を映していた。

§ 03 Significance

マリーンの意義は、まず防水から潜水対応への移行を技術として示した点にある。水の侵入を防ぐだけでなく、特定の深度に耐えるかを試験し、第三者の機関に認定させる。深度という数値で性能を語り、それを証明するこの手続きが、後のダイバーズウォッチが共有する作法の原型となった。

二重ケースという解は、ロレックスのねじ込みリューズ特許を避ける工夫から生まれた。だが内ケースを取り出さねば操作できない構造は扱いにくく、量産にも向かなかった。オメガ自身、1939年には外ケースを廃し、リューズを外へ出したマリーン スタンダードへ転じる。二重ケースの系譜は長く続かなかった。

それでも、潜水を想定して作られ試験された腕時計という位置づけは残った。オメガ自身は世界初の市販ダイバーズと称するが、何をもって最初とするかは定義により分かれる。防水・ダイバーズの系譜で見れば、1926年のオイスターが日常の防水を確立したのに対し、マリーンは水中での使用へ歩を進めた。その先で、1953年前後の回転ベゼルを備えたダイバーズが深度管理という機能を加え、潮流を決定づける。マリーンはその間をつなぐ初期の試みであり、潜水という用途の萌芽だった。

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