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CALIBER · SEIKO

4R36

自動巻 Automatic Analog

2011年に登場し、ハック秒と手巻を獲得、NH36の名で業界にも広く供給されるセイコー基幹の自動巻

OVERVIEW · 概要

セイコー4R36は、2011年に登場した24石の自動巻キャリバーである。Seiko Instruments Inc.(SII)が製造し、7S26系の設計思想を継承しつつ、ハック秒と手巻機能を新たに備える。振動数は21,600vph(3Hz)、パワーリザーブは約41時間、精度は-35〜+45秒/日。3時位置に曜日と日付を表示し、日付のみの4R35と区別される。同設計はTMIから「NH36」の名で外部供給され、セイコー5スポーツ、プロスペックスのタートル系、モンスター第二世代など、現行エントリー自動巻の中核を担う基幹ムーブメントである。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerSeiko
Reference4R36
TypeAutomatic
DisplayAnalog
Frequency21,600 bph (3 Hz)
Jewels24 石
Power reserve41 h
HandsHours, Minutes, Seconds
DateDate, Day
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

7Sからの正統な発展

セイコー機械式時計の入口は、長らく1996年登場のCal. 7S26が担ってきた。21石、独自の双方向自動巻機構「マジックレバー」、頑健な耐震機構「ダイヤショック」 — エントリー機が機械式の魅力を世界に届けるための、最小限にして十分な構成である。しかし2010年前後、その完成度の高さと裏腹に、二つの制約が時代との齟齬を見せ始める。ハック秒(時刻合わせ時の秒針停止)機能を持たず、リューズによる手巻もできない。スポーツ機では正確な時刻同期が求められ、長期間使わない個体の始動には自動巻に依らない補助手段が望まれる。市場の成熟は、エントリー機にもこの二つの利便を求めるようになっていた。

2011年、セイコーは4R3xシリーズという形で回答する。4R35(日付のみ)、4R36(曜日+日付)、4R37・4R38・4R39といった機能違いの兄弟キャリバーが、ほぼ同時に発表された。本記事の対象である4R36は、3時位置に曜日と日付を併置するモデルで、初代の世代符号は「4R36A」と表記される。これらは7S系の輪列・耐震・自動巻機構を骨格として継承しつつ、ハック秒と手巻を加えた拡張版として設計された。

ファミリーの分岐とコスト思想

4R3xシリーズは、上位機6Rシリーズとはマインスプリング素材で明確に線引きされる。6R15(2006年)以降の6R系は、セイコー独自の高弾性合金「Spron 510」製ゼンマイを採用し、より長いパワーリザーブと安定したトルクを実現する。対する4R3x系は、伝統的なマインスプリング材を継承する選択をとった。このコスト配分の判断により、4R36はエントリー機の価格帯に踏みとどまっている。約41時間というパワーリザーブの控えめな数値は、その選択の帰結と見るのが妥当である。

NH36と業界基盤としての顔

4R36のもう一つの顔は、製造元Seiko Instruments Inc.(SII)から、子会社Time Module Inc.(TMI)を通じて「NH36」の名で外部供給される、汎用ムーブメントとしての姿である。両者は同じ製造ラインで、同じ部品から組み立てられる事実上同一の機械であり、刻印と販売チャネルの違いに過ぎない。NH36はクロノメーター級ではないが、堅牢で部品流通も良好なため、ダイバー機・フィールド機を中心に、世界中の独立系ブランドやマイクロブランドのエントリーモデルで広く採用されてきた。スイス勢にとってのETA 2824-2やSellita SW200に近い位置を、日本側で担う存在と言える。

なお、外部供給のNH36Aは精度を -20〜+40秒/日 と表記し、セイコー機内の4R36Aの -35〜+45秒/日 よりやや厳しい数値となる。実用上の差はわずかだが、出荷検査基準の違いが反映された表記差と伝わる。

セイコー機内での位置

セイコー機内では、4R36は2019年にリニューアルされたセイコー5スポーツの全モデルに搭載され、視認性の高いカラフルなダイバースタイルとともに、新世代の入口として広く流通している。プロスペックス系では、SRP系タートルや2020年発表のSRPE系キングタートルに搭載され、200m防水のダイバー機に求められる要件を満たす。さらに、より長いパワーリザーブを備えた上位機6R35(2019年登場、約70時間)へとステップアップする際の「最初の一本」を担う役割も期待されている。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

振動数と精度規格

4R36の振動数は21,600vph、すなわち1秒間に6振動(3Hz)である。28,800vph(4Hz)が現代の標準的な高振動帯とされる中で、21,600vphは比較的低めの設定だが、これは耐久性と部品摩耗の低減を優先した結果とされる。低振動数は秒針の歩進がやや荒く見える反面、テンプ・脱進機への負担が小さく、長期間の安定動作とサービス間隔の延長に寄与する。精度規格は -35〜+45秒/日 と公称され、エントリー機として保守的な数値だが、実機では緩急調整によりこの幅から大きく改善する個体も少なくない。

マジックレバー — 双方向自動巻の独自解

自動巻の中核となるのは、セイコーが1959年に特許化した独自機構「マジックレバー(Magic Lever)」である。ローター軸からオフセットされた位置にレバーピボットを置き、ローターが時計回り・反時計回りいずれに振れても、レバー先端の二本の爪が交互に伝達車を一方向へ送る。構成部品が極端に少なく、双方向巻上げを最小の機構で実現するのが特徴である。スイス系に多い切換車式と比較すると、効率面で僅かに譲るとされる一方、製造容易性と長期信頼性で優位とされる。マジックレバーは7S系、4R系、6R系、さらに上位の8L系まで、現代セイコー自動巻の事実上の共通基盤を成す。

エタクロン式緩急装置

緩急装置(レギュレーター)には、ヒゲゼンマイを二本の突起で挟むことで歩度を調整する「エタクロン式(Etachron Regulator)」が採用される。これは7S26B(2006年)以降のセイコー機械式に広まった改良で、調整作業の容易性と微調整の精度を高めた。エタクロン規格は元来スイスETA社が開発した方式だが、現在ではセイコー機にも一般化している。

ダイヤショック耐震機構

テンプ受石は、セイコー独自の耐震機構「ダイヤショック(Diashock)」で支持される。1956年のCal. Marvelで初導入された機構で、受石をばねで弾性支持することで、衝撃エネルギーをテンプ軸からそらす設計である。スイスのIncabloc(インカブロック)に対応するセイコー版で、4R36では普及型のダイヤショックが採用される。

輪列・脱進機・自動巻の構成

4R36の輪列は7S系から継承された伝統的な構造で、中央秒針を駆動するため二番車から直接秒車を伸ばす。脱進機は標準的なクラブツース型のスイスレバー脱進機で、リフトアングル(ガンギ車がテンプを駆動する有効角度)は53度。テンプはGlucydur(グルシダー、ベリリウム銅合金)製の輪状型とされ、温度補償特性に優れる。

ここに、4R36固有の追加要素として、ハック秒機構と手巻機構が組み込まれた。ハック秒は、リューズを二段引きした際に二番車に作用するレバーを介してテンプを停止させる仕組み。手巻は、リューズの回転を切換歯車経由でマインスプリング香箱に伝達する経路を新設することで実現する。いずれも7S26には存在せず、4R3xシリーズで初めて加えられた変更点である。

寸法・石数・互換性

ムーブメント外径は27.4mm、厚さは5.32mm。これは7S系から継承された伝統的寸法で、4R系・NH系のケース設計はこの規格に最適化されている。NH36(TMI供給版)は同一寸法で、ダイヤル取付足の位置・針サイズ・巻真規格も共通であるため、独立系ブランドのケースワークとも高い親和性を保つ。

24石の構成は、テンプ受石・脱進機・輪列の主要軸受に加え、3番車および脱進歯車の下側にもキャップジュエルが追加される設計で、これが先代7S26(21石)からの主な石数差となり、回転抵抗の低減と長期安定性の向上に寄与する。マインスプリングは伝統的合金材を採用し、Spron 510を使う上位6R系とは原価設計上で明確に分岐する。仕上げは基本的に実用本位で、装飾的なコートドジュネーブやペルラージュ加工は施されない — このムーブメントの存在意義は意匠ではなく、堅牢かつ調整可能な機構を世界市場の最廉価帯に届けることに置かれている。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 2 本のリファレンス

This caliber appears in 2 references