1300.3 NOL
2007年に単方向巻きへ進化した、F.P.Journe自社製オクタ自動巻キャリバー1300.3
キャリバー1300.3は、独立時計師François-Paul Journe率いるF.P.Journeの自社製自動巻きである。2001年に登場したオクタの基盤を継ぎ、2007年に単方向巻き上げへ進化した第3世代にあたる。地板と受けは18K(5N)ローズゴールド、巻き上げは片側に寄せた22K金製ローターが担う。単一香箱に収めた全長約1mのゼンマイが、公称120時間(実効160時間)を駆動する。テンプは直径10.1mm、振動数21,600vph (3Hz)。WatchBaseの「1300.3 NOL」はムーンフェイズを備えたNouvelle Octa Lune構成を指し、オクタ・リュヌ等に搭載される。
| Maker | FP Journe |
|---|---|
| Reference | 1300.3 NOL |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 21,600 bph (3 Hz) |
| Jewels | 37 石 |
| Power reserve | 160 h |
| Movement ⌀ | 30.8 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Small Seconds |
| Date | Big Date |
| Astronomical | Moonphase |
| Additional | Power Reserve Indicator |
系譜と歴史
オクタの誕生 — 自社初の自動巻
F.P.Journeが自動巻きのオクタを発表したのは2001年である。それまで同社は手巻きの精密時計を手がけており、オクタは自社初の自動巻きキャリバーであった。基盤となったキャリバー1300は、13リーニュ(約29mm)の直径と、設計が固まった2000年に由来して命名されたと伝わる。
François-Paul Journeが掲げた狙いは二つあった。一つは長い動力持続である。当初は8日間を構想したが、精度と巻き上げ速度との両立を試す中で、実用域として5日間に落ち着いた。もう一つは、同一寸法のキャリバーへ多様な複雑機構を載せることであった。日付付きパワーリザーブ、フライバック・クロノグラフ、年次カレンダーなどを、ケース径を変えずに展開する構想である。完成までに3年を要したとされる。
ローズゴールド地板への移行(1300.2)
2004年、F.P.Journeは地板と受けの素材を真鍮から18K(5N)ローズゴールドへ改めた。これに伴いキャリバーは1300.2と改称された。両者の違いは基本的に素材にあるとされる。
金は真鍮より軟らかく、加工には専用の刃物と異なる熱処理を要する。地板の内製化も同時期に進められた。全ムーブメントを金製とした例は当時の業界で稀であり、同社をその先駆とする評価もある。1300.2は移行期の短期間に作られ、現存数は限られると伝わる。
単方向巻きへの進化(1300.3)
2007年、巻き上げ機構が双方向から単方向へ改められ、キャリバーは1300.3となった。きっかけは、座って過ごす時間の長い顧客のオクタが十分に巻き上がらないという観察であったと、François-Paul Journe自身が語っている。単方向ローターは自動係止ボールベアリングと組み合わされ、僅かな動きでもゼンマイを張る。意匠面では受けの一部が肉抜きされた。1300.3は2011年以降、Octa Sport向けにアルミニウム合金でも作られている。
NOL — Nouvelle Octa Lune
WatchBaseが「1300.3 NOL」と記すこの呼称は、Nouvelle Octa Lune(新オクタ・リュヌ)、すなわちムーンフェイズを備えた構成を指す。オクタ・リュヌ自体は2003年に登場し、生産数は限られたと伝わる。同じ1300.3を基盤に、月相に加え、ディヴィーヌ(NOD)、永久カレンダー(QP)など複数の複雑機構が派生した。同一の基盤へ機構を載せ替えるという当初の構想は、ここに結実している。
技術解説
構造の核 — 単一香箱と大型テンプ
キャリバー1300.3は、直径34.6mmの大型自動巻きである。動力源は単一の香箱に収めた全長約1mのゼンマイで、香箱内で13.5回巻かれる。低トルク設計により巻き上げは速やかに進み、満巻時のトルクは平均850g前後とされる。これにより5日間にわたり比較的安定したエネルギーを供給し、この間の振幅低下は20〜25%にとどまる。
長いゼンマイが生む余裕は、テンプ(調速を担う回転体)の大型化に活かされた。直径10.1mmのテンプは自動巻きとしては異例に大きい。テンプは慣性モーメントが大きいほど外乱に強く、調速の安定に寄与する。フリースプラング(緩急針を持たない方式)とし、テンワ外周の4つの慣性ウェイトで歩度を調整する。調整は5姿勢で行われる。脱進機は直線型のスイスアンクル脱進機で、ガンギ車は15歯。振動数は21,600vph (3Hz)である。
ヒゲゼンマイには平ヒゲのAnachron(アナクロン)を用い、テンワへはレーザー溶接で固定する。可動式のひげ持ちとピン留めスタッドにより、組み立て後の微調整を可能とする。
ローズゴールド地板と巻き上げ機構
地板と受けは18K(5N)ローズゴールドで作られる。金は軟らかく加工が難しい一方、化学的に安定しメッキを要さない。メッキの剥離を避けられる点は、長期の保守にも資する。受けには円形のコートドジュネーブ、地板には円形目(ペルラージュ)が施され、ネジ頭は面取りされる。1300.3では受けの一部が肉抜きされ、内部が見通せる。
巻き上げは、片側に寄せた22K金製のギヨシェ・ローターが担う。1300.3では双方向から単方向巻きへ改められ、自動係止ボールベアリングと組み合わされた。ローターは僅かな手首の動きにも反応し、ゼンマイを素早く張る。ゼンマイには滑り機構(スリッピング)があり、過度の巻き上げを逃がす。
大型日付とムーンフェイズ(NOL構成)
文字盤側では、F.P.Journe特許の大型日付が目を引く。多くの大型日付が2枚のディスクを並列に配するのに対し、本機構は2枚の同心円ディスクに数字を刻む。開口は4.7×2.6mmへ拡大された。
NOL、すなわちNouvelle Octa Lune構成では、これにムーンフェイズが加わる。専用の輪列が月相を表示し、日付とともにクラウン操作で調整できる。動力持続は別途、逆行(レトログラード)式の指針で示される。