設計思想
自社製ムーブメント元年のバーゼルワールド
25600TB-0001が発表された2015年のバーゼルワールドは、チューダーにとって転換点となった。この年、同ブランドは初の自社製ムーブメントを携えて登場した。新作ノースフラッグにCal.MT5621、そしてペラゴスにCal.MT5612である。背景には、スウォッチグループがETA製ムーブメントの外部供給を段階的に絞る方針を打ち出し、各ブランドが調達体制の見直しを迫られていた業界事情がある。ロレックス傘下でありながらムーブメントを外部調達してきたチューダーが、自前の機械を持つことは規定路線だった。その第一陣に、ブランドで最も本格的なダイバーズであるペラゴスが選ばれた。
25500TNから変わったもの、変わらなかったもの
新リファレンスは黒文字盤の25600TNと、シリーズ初のブルーである本機25600TBの2本立てで登場した。42mmのチタンケース、500m防水、自動式ヘリウムエスケープバルブという初代25500TN(2012年)の骨格は、ほぼそのまま継承されている。変わったのは中身である。Cal.MT5612はシリコン製ヒゲゼンマイとフリースプラング式テンプを備え、パワーリザーブは前任のETA 2824-2の約38時間から70時間へと大幅に延びた。COSC認定クロノメーターとなったことで、文字盤の表記も増え、「PELAGOS」の名とクロノメーター認定の文言が加わったと伝わる。厚みを増したムーブメントに合わせ、裏蓋形状も小変更されたとされる。
ブルーという第2の柱
本機の固有の意義は、ペラゴスに「ブルー」という第2の柱を立てたことにある。初代は黒のみの展開であり、マットブルーの文字盤とベゼルをまとった25600TBは、工具然とした黒に対して、より明るく現代的な選択肢を提示した。以後、左リューズのLHD(25610TNL、2016年)、軍用由来のFXD(2021年)、小径のペラゴス39(2022年)、1000m防水のペラゴス ウルトラ(2025年)とシリーズが多層化していく中でも、42mmの標準ペラゴスにおけるブルーは本機のみが担い続けている。発表から10年を超えて現行であり続ける事実が、この構成の完成度を物語っている。
意匠分析
ケースは42mm径・厚さ14.3mmのチタン製で、全面がサテン仕上げに統一される。ポリッシュ面を持たない処理は反射を抑える工具的合理性の表れであり、チタンの灰色がかった質感と相まって、同寸のスティール製ダイバーズより明確に軽く、控えめに見える。ベゼルはチタン製で、マットブルーのセラミックインサートを備える。目盛は夜光処理され、暗所では文字盤と一体で発光する設計である。
文字盤はベゼルと色調を揃えたマットブルー。光沢を排した青は光の角度で濃淡が変わり、屋外では明るく、室内では黒に近く沈む。角形のアプライドインデックスと、1969年以来のチューダー・ダイバーズを象徴するスノーフレーク針には夜光が厚く盛られ、3時位置の日付窓はサイクロップレンズを持たない。視認性を最優先した、装飾の少ない構成である。
ムーブメントのCal.MT5612は、シリコン製ヒゲゼンマイによる耐磁性と、微調整ネジ付きフリースプラング式テンプを特徴とする。両方向巻き上げローターを備え、週末をまたげる70時間のパワーリザーブは実用上の進化点である。
ブレスレットはチタン製で、クラスプはスティール製。特許取得のスプリング式自動調整機構を内蔵し、潜水時にウェットスーツが水圧で縮むと、それに追従してブレス長が伸縮する。付属のラバーストラップにもエクステンションが用意され、9時位置の自動式ヘリウムエスケープバルブと合わせて、飽和潜水まで想定した道具としての一貫性を保っている。
系譜と歴史
25600TB-0001は、2015年3月のバーゼルワールド2015で、黒文字盤の25600TN-0001と同時に発表された。前任の25500TN(2012年発表)はこの世代交代をもって生産終了となり、ペラゴスは発表からわずか3年でETA搭載世代から自社製Cal.MT5612搭載世代へと移行した。ブルーダイヤルはこの時がペラゴス初の採用である。発売は同2015年中に始まったとされる。
以後、本機自体の仕様は大きな変更なく維持されている。一方でシリーズは段階的に拡張され、2016年に左リューズ仕様のLHD(25610TNL)が、2021年にフランス海軍向け開発に由来するFXDが、2022年には39mm径のペラゴス39(25407N)が、2025年には1000m防水のペラゴス ウルトラが加わった。ただし42mmの標準ペラゴスにおける色展開は黒とブルーの2色のまま動いておらず、ブルーは一貫して本機が担っている。
2026年6月現在も本機はチューダー公式サイトに現行モデルとして掲載されており、発表から10年を超えるロングセラーとなっている。生産期間中の文字盤印字やブレスレットの小変更については公式に告知された記録がなく、初出時の仕様が概ね維持されていると見られる。