設計思想
1. 自社クロノグラフ50年の節目に
2021年、チューダーは1970年のオイスターデイト・クロノグラフ7031/7032以来となる自社クロノグラフ製造の50周年を迎えた。その記念として発表されたのが、ブラック・ベイ・クロノの世代刷新版である。新型はリファレンスを79360Nに改め、79360N-0002はオパライン色の文字盤と黒のインダイヤルを組み合わせた、いわゆる「パンダ」配色をリベット・ブレスレットに載せた基準仕様として位置づけられた。
2. 79350からの再設計
前作79350-0004は2017年のバーゼルワールドで初代モデルとして登場し、ブラック・ベイの潜水時計としての出自と、1970年代のチューダー・クロノグラフの記憶を結び付ける一本だった。新型はその骨格を残しつつ、外装の細部を更新した。最も目を引く変更点は、刻印タキメーターを備えた一体型スチール・ベゼルが、黒のアルミ・インサートを嵌めたスチール・ベゼルへ置き換えられたことである。ダイヤルは凹型に切削された二つのインダイヤルを持ち、平面の文字盤に対して陰影を生む立体構造に改められた。
3. パンダという選択
オパライン色の文字盤に黒のインダイヤルを配する「パンダ」レイアウトは、1960〜70年代のレース用クロノグラフが好んだ表情である。チューダーは同じ79360Nの番号で黒文字盤・銀のインダイヤルを持つ「リバース・パンダ」(79360N-0001)も同時に発表しており、79360N-0002はその対となる白側の基準仕様にあたる。ロジウム鍍金のスノーフレーク針と、先端のみを赤く塗ったクロノグラフ秒針は、過剰な装飾を避けつつ視認性を確保する設計選択といえる。
4. 兄弟リファレンスと派生
発表時の79360Nは、文字盤違い(白/黒)とストラップ違い(リベット・ブレスレット、ブント型レザー、ジャカード生地)の組み合わせで計6本のリファレンスから構成された。79360N-0002はそのうちオパライン文字盤・リベット・ブレスレット仕様にあたり、ラインの基幹仕様を担う一本である。
意匠分析
ケースの直径は41mmを維持しつつ、厚みは前作の約14.9mmから約14.4mmへと抑えられている。ラグの輪郭はブラック・ベイ系のずんぐりとしたシルエットを引き継ぐが、上面のサテン仕上げと側面のポリッシュ仕上げの切り分けはシャープな稜線を描く。ねじ込み式のクラウンに加え、2時と4時に配されたねじ込み式のクロノグラフ・プッシャーは、1970年代の初期チューダー・クロノグラフへの参照として角張った形状を採用している。
ベゼルはスチール製の固定式で、上面に黒のアノダイズ・アルミ・インサートが嵌め込まれる。シルバーで印字されたタキメーター・スケールは低い角度で見ると黒地に浮き上がり、前作79350の刻印一体型ベゼルと比べると平面的でレース・クロノグラフの古典的な表情に寄せた印象を与える。
ダイヤルはドーム型に成形されたオパライン地に、3時と9時のインダイヤルが凹型に切削された構造を持つ。45分積算計と小秒針が黒く沈み、白地との明暗が文字盤に奥行きを生む。6時には台形の日付窓が配される。ロジウム鍍金のスノーフレーク針はスーパールミノヴァを充填し、クロノグラフ秒針は先端のみが赤く塗られる。
ムーブメントには引き続きマニュファクチュール・キャリバーMT5813が搭載される。ブライトリングB01をベースに、チューダーが独自に調速機構とローターを仕上げた一体型クロノグラフで、コラムホイールと垂直クラッチを備え、毎時28,800振動(4Hz)で70時間のパワーリザーブを持つ。COSC公認クロノメーター。
ブレスレットは折りリベットを模した3列のスチール製で、1950〜60年代のチューダー製ブレスレットに着想を得た意匠を継承している。
系譜と歴史
79360N-0002は2021年4月7日、ウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーヴ2021にて発表された。同年のフェアはパンデミックの影響でオンライン形式の開催となり、チューダーは新作の映像と仕様を公式チャンネルで公開する形を取った。発表と同時に、2017年から続いた79350系の生産は段階的に終了し、79360N系がブラック・ベイ・クロノの基幹ラインを引き継いだ。発表時の構成はオパライン文字盤の-0002、-0006(レザー)、-0008(ジャカード)と、黒文字盤の-0001、-0005、-0007の計6本で、価格はリベット・ブレスレット仕様でCHF4,950とされた。
その後、79360Nの番号体系は色違いの派生を加えて拡張されていく。2024年にはピンク文字盤の79360N-0019、ターコイズ系の「フラミンゴ・ブルー」79360N-0024が登場した。2025年4月のウォッチズ&ワンダーズでは、パンダおよびリバース・パンダのダイヤルを継承しつつ、T-fit製ラピッド調整クラスプを備えた3列および5列ブレスレットを装着する4リファレンス(-0011〜-0014)が加わった。2026年5月時点で、79360N-0002はチューダー公式サイトに引き続き掲載されており、リベット・ブレスレット仕様の基準モデルとして現行ラインに留まっている。