設計思想
144系における位置づけ
Model 144 は、ジンが1970年代から続けてきた自動巻クロノグラフの系譜である。当初からヴァルジュー7750を軸に設計され、計器(インストゥルメント)としての実用を旨としてきた。1972年に登場した7750と同時期に生まれたとされ、ジン自身は導入を1974年と位置づけている(2014年に40周年記念モデルを発表)。初期の意匠は同時期のオルフィナ製ポルシェ・デザインのクロノグラフと酷似しており、ケース供給元を共有したと伝わる。
144 St DIAPAL (Ref. 144.068) は、この長寿系列の中で、ジンの保守低減技術を最も多く積んだ位置にある。標準の144 St Sa (Ref. 144.066) が素直な3カウンターのクロノグラフであるのに対し、本機は無給油脱進機と第2時間帯を加えた、装備の厚い兄弟機として併存する。
DIAPALという選択
144系にDIAPALが入ったのは2010年で、まずチタン製の144 Ti DIAPAL (Ref. 144.078) として登場した。スチール製の本機はその翌年、2011年頃に続いたとされる。チタンの各派生がほどなく整理されたため、現在ではこのRef. 144.068が、144系で唯一DIAPALを積むクロノグラフとなっている。
DIAPALとは、脱進機(アンクルと脱進車)に潤滑油を用いないジン独自の技術である。通常この部分の油は経年で劣化して精度に影響するが、特殊な素材の組み合わせで摩擦を抑え、油なしでも長く安定した精度を保つ。整備周期を延ばす狙いがある。
ムーブメントの静かな世代交代
このRefの近年で最も大きな出来事は、ベースムーブメントの入れ替えである。ETAが第三者への7750供給を絞った流れを受け、ジンは2020年から2021年頃にかけて、本機のベースを従来のETA7750系から、ラ・ジュー・ペレ製のLJP 8000へ移したとされる。Ref番号は144.068のまま据え置かれたが、中身はカム式から、コラムホイール式の自動巻クロノグラフへと変わった。7750系で親しまれた瞬間送りの30分積算計は、新しいベースにも受け継がれている。
現行144系での併存
現在のカタログでは、144のクロノグラフは標準の144 St Saと本機の2本に整理されている。記念モデル(2014年の144 St S Jubiläum、2021年の144 St S Anniversary IIなど)はいずれも144 St Sa系を土台とするため、DIAPALと第2時間帯を併せ持つ本機は、装備の面で系列内に独自の居場所を保っている。
意匠分析
ケースはステンレススチールをビーズブラスト仕上げとした、光を抑えた梨地が基調である。研磨で光らせるのではなく、計器らしい無反射の表情を選んでいる。直径41mm、厚さ14.5mm、ラグ幅20mm、ヘッド単体で約90g。リューズはねじ込み式、裏蓋はサファイアクリスタルの透視仕様で、前面の風防と裏蓋のいずれにも無反射コーティングが施される。200m防水。
文字盤はアンスラサイト(濃いチャコールグレー)の電気メッキで、光や角度によって黒に近く沈む。時刻は大きめの夜光アラビア数字で示し、標準の144 St Saとは異なる計器的な視認性を与えている。内周には速度計(タキメーター)と脈拍計(パルスメーター)を併記したスケールが回り、3つのサブダイヤルと3時位置の日付窓が並ぶ。
針の構成にこのRefの個性が出る。時・分針に加え、中央には第2時間帯(12時間方式)を示す追加の針が載る。クロノグラフ秒針も中央を共有するため、ジンは針の形状と色を分け、計時用と時刻用を瞬時に見分けられるようにしている。時・分・第2時間帯の各針には夜光が塗られる。
機構面では、コラムホイール式のLJP 8000を採用する。28石、毎時28,800振動 (4Hz)、秒停止機能を備え、透視裏蓋からジンのローターと共に観察できる。前述のDIAPAL無給油脱進機に加え、ケース内を不活性なアルゴンガスで満たし、乾燥剤カプセルで湿気を抑えるAr除湿技術を組み合わせる。これにより急な冷えでの風防の曇りを防ぎ、内部の経年劣化を遅らせる。-45℃から+80℃までの動作を保証する温度耐性も併せ持つ。
ブレスレットは本体と同じビーズブラスト仕上げのスチール製で、延長機構付きのフォールディングクラスプが付く。レザーやシリコンのストラップも選べる。
系譜と歴史
144系にDIAPALが導入されたのは2010年で、バーゼルワールドでチタン製の144 Ti DIAPAL (Ref. 144.078) が披露された。スチールケースの144 St DIAPAL (Ref. 144.068) はその翌年、2011年頃に加わったとされる。同じ時期に標準の144 St Sa (Ref. 144.066) も大型プッシャー化などの小改良を受けており、144系全体が刷新された節目にあたる。
その後、チタン系の各派生は2011年から2012年にかけて整理され、スチールの144 St Saと144 St DIAPALの2本がクロノグラフの中心として残った。
このRefにとって近年最大の変更は、ベースムーブメントの入れ替えである。ETAによる7750供給の制限を背景に、2020年から2021年頃、本機はETA7750系のDIAPAL仕様から、コラムホイール式のラ・ジュー・ペレLJP 8000へ移行したとされる。Ref番号は144.068のまま変わらなかったが、石数は25から28へ、駆動方式はカム式からコラムホイール式へと改まった。
2026年時点でも本機は現行品としてカタログに残り、144系で唯一、DIAPALと第2時間帯を併せ持つクロノグラフとして、ブレスレットまたはストラップで供給されている。