設計思想
1. 「縮小」を名に掲げた1988年
スピードマスター リデュースドは1988年に登場した。42mmの手巻きプロフェッショナルを小ぶりにし、自動巻きとし、より手の届く価格にまとめる。名が示す通りの狙いを持つモデルである。3510.50.00は、その中核となった鋼製ケース・黒文字盤・ブレスレット仕様の製品番号である。ケース内側に刻まれるST 175.0032と対をなすとされる。発売時の名称は「スピードマスター リデュースド」だったとされる。1990年代後半には「オートマティック」の名でも販売されたと伝わる。
オメガはこのモデルのために自動巻きクロノグラフを新規開発しなかった。汎用のETA製自動巻きを土台に、専業メーカーのデュボア・デプラが手がけるクロノグラフモジュールを重ねる方式を採った。モジュール式とは、基本となる時計ムーブメントに計時機構を積層して組み上げる構成を指す。開発の負担を抑えつつ、自動巻きのスピードマスターを市場に送り出すための実利的な選択だったと読める。
2. プロフェッショナルとの連続と断絶
本機に同系統の前任Refはない。比較の基準となるのは、同じ名を冠するプロフェッショナルである。ねじれを帯びたラグ、三つのインダイヤルを持つ黒文字盤、タキメーターベゼル、プラスチック風防。こうした「顔」は、ほぼそのまま受け継がれた。
一方で、機械の選択は顔の設計にまで及んだ。モジュールを文字盤側に積む構造上、インダイヤルの配置もリューズとプッシャーの並びも、プロフェッショナルとは一致しない。月面に赴いた計器の縮小再現ではなく、日常の自動巻きクロノグラフとして組み直されたスピードマスターと見るべきだろう。
3. 番号を変えずに走り続けた基準点
3510.50.00の特異な点は、およそ20年に及ぶ生産期間を同じ製品番号のまま通したことにある。その間に内部のキャリバー呼称は3度変わったが、外から識別できる番号は一貫していた。この事情は、後年のコレクターがムーブメント世代を整理する際の混乱の一因にもなっている。
この黒文字盤を定点として、リデュースドには多彩な派生が生まれた。原色文字盤をまとったレーシング仕様、サッカークラブの記念モデル、日本市場向けの別注などである。いずれも3510.50.00という「素の一本」が存在したからこそ成立したバリエーションだった。
4. 後継、そして2026年の再解釈
2000年代後半、本機はサファイアクリスタル風防を得た3539.50.00に役目を引き継いだ。リデュースドの系譜そのものも、2009年から2010年頃に幕を閉じる。晩年は42mmのプロフェッショナルへの需要が勝っていたとの見方もある。
オメガは2017年に38mmのスピードマスター 38を投入した。ただし楕円形のインダイヤルやデイト表示を備え、リデュースドとは異なる方向を向いた時計だった。2026年8月にこのコレクションが刷新され、デイトを持たない黒文字盤の324.30.38.50.01.002が加わった。専門誌の多くはこれを、本機の系譜を現代に引き継ぐ一本として受け止めている。
意匠分析
ケースは39mmのステンレススティール製で、プロフェッショナルと同じく、ねじれを帯びたリラ(竪琴)型のラグを持つ。ラグ幅は18mmで、20mmのプロフェッショナルより一回り細い。ブレスレットはクラスプ側で16mmまで絞られるとされ、小径ケースとの均衡が図られている。裏蓋はプロフェッショナルのねじ込み式ではなく、はめ込み式とされる。
外観上の最も明確な差異は、リューズとプッシャーの位置関係に現れる。クロノグラフモジュールがムーブメントの文字盤側に積まれるため、プッシャーはリューズの軸線上に並ばない。ケース側面のこの非対称は、モジュール式ならではの痕跡である。
文字盤では、三つのインダイヤルが中心から大きく離れて配される。3時・6時・9時という位置はプロフェッショナルと同じだが、30分積算計とスモールセコンドの左右が入れ替わる。アワーマーカーと時分針には夜光が施され、外周には5分刻みのアラビア数字が添えられた。後継の3539.50.00ではこの数字が省かれるため、両者を見分ける手がかりにもなる。文字盤の表記も「PROFESSIONAL」ではなく「AUTOMATIC」となる。
風防はドーム状のヘサライト(アクリル系の強化プラスチック)で、ベゼルにはアルミニウム製のタキメーターインサートが収まる。ブレスレットのフォールディングクラスプは、板材をプレス成形した簡素な構造とされる。
ムーブメントのCal.3220は、ETA 2892-A2を土台にデュボア・デプラ製の2020モジュールを重ねたものである。オメガの自社開発機ではなく、汎用エボーシュと専業メーカーのモジュールを組み合わせた構成と位置づけられる。振動数は毎時28,800振動 (4Hz)で、時刻合わせの際に秒針が止まるハック機能を備える。手巻きのプロフェッショナルにはない機能である。モジュールを含めた厚みは約6.5mmとされ、積層構造としては薄く収まっている。
系譜と歴史
3510.50.00の歩みは、1988年のスピードマスター リデュースド発表に始まる。鋼製ケースに黒文字盤とブレスレットを組み合わせた仕様である。当初のケース番号はST 175.0032である。搭載機はCal.1140で、ETA 2890-2にデュボア・デプラ2020モジュールを重ね、金メッキで仕上げていたと伝わる。
1996年、ムーブメントの仕上げは金メッキからロジウムメッキへ改められた。この仕様をCal.1141と呼ぶ資料もある。同年にはミハエル・シューマッハにちなむ派生が登場した。黄の3510.12.00、青の3510.81.00、赤の3510.61.00が並んだとされる。北米のCARTシリーズに捧げた3510.80.00も加わったと伝わる。このシリーズは2000年頃までに姿を消したとされる。
翌1997年には土台がETA 2892-A2に替わり、Cal.1143となった。1999年には、ACミランの創立100周年を記念するモデルも登場した。夜光塗料は、初期のトリチウムから後年ルミノバへ移行したとされる。
2000年代初頭、ムーブメントの呼称はCal.3220に改められた。基本構成は変わらず、変更は主に外観上のものと伝わる。同じ頃、日本市場向けの派生も作られたとされる。白いインダイヤルを持つ3510.52.00や、丸井向けの別注とされる青文字盤の3510.82.00である。
2000年代後半、サファイアクリスタル風防を備え、文字盤の5分刻み数字を省いた3539.50.00が後継として登場した。3510.50.00はこれに道を譲り、リデュースドの系譜も2009年から2010年頃に生産を終えた。現在は生産終了モデルである。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア A Modest Moonwatch Alternative: Omega's Speedmaster Reduced
- 02 専門メディア Hands-On: The Redesigned Omega Speedmaster 38
- 03 専門メディア Omega's Beloved Entry-Level Speedmaster Finally Returns (Sort Of)
- 04 専門メディア First Look: Omega Refreshes the Speedmaster 38mm Collection
- 05 専門メディア New Omega Speedmaster 38: a Speedmaster Reduced successor
- 06 専門メディア Omega 3510.50.00 : Speedmaster Reduced Stainless Steel / Black / Bracelet
- 07 専門メディア Omega caliber 3220
- 08 ブログ Omega Speedmaster Reduced