設計思想
1. 28年目の全面改訂
De Ville Prestigeは、1994年に始まったオメガのドレスウォッチの定番である。SeamasterやSpeedmasterの陰に隠れがちと評されることもあるが、コレクションの一角を長く担ってきた。2022年10月、オメガはこのPrestigeを第3世代へと全面的に改めた。
背景にはムーブメントの世代交代がある。2015年にMaster Chronometer認定が始まって以降、オメガは主要コレクションの機械式モデルを順次この基準へ移してきた。一方、第2世代Prestigeの39.5mm 3針モデルはCal.2500を積み続けていた。ETA 2892を基に、コーアクシャル脱進機を組み込んだキャリバーである。第3世代で自社製の8800系へ切り替わった。Prestigeは主要系列として最後にMaster Chronometerの基準へ加わったとされる。
2. 変えたもの、変えなかったもの
1960年代、De Villeは「手首に寄り添うほど薄い」と広告で謳われたとされる。オメガは第3世代でもこの薄さを設計の中心に据えたと説明する。課題は、Cal.2500より厚い8800系を収めながら、その印象を損なわないことにあった。
そのため第3世代は、Prestigeを見分ける記号を意図的に残している。丸みを帯びたケース、三段のベゼル、ローマ数字とカボションの交互配置、7列のブレスレットである。一方で、文字盤の形状、針、ケースの輪郭、留め具、裏蓋はほぼすべて描き直された。遠目にはPrestigeのままで、手に取ると細部が一新されている。Prestigeの顔を守ったまま、機械と細部の世代を進める判断だったと読める。
3. 40mm・黒文字盤という位置
第3世代の男性用機械式は、3つの系統で構成された。40mmの3針デイト(Cal.8800)と、41mmのスモールセコンド(Cal.8802)である。これに41mmのパワーリザーブ付きスモールセコンドが加わる。本機が属する40mmは、このうち機能を時刻と日付に絞った基本形にあたる。径も41mmの2系統より一回り小さく、Prestigeの端正さを素直に表す位置にある。
40mmの文字盤はシルバーやブルー、グリーン、シャンパンと多色で展開された。そのなかで黒は、グレーと並ぶ数少ない無彩色の選択肢である。シルバー系が多いPrestigeの文字盤にあって、本機はステンレスの外装に黒を合わせ、暖色の針を添える。装飾を足さずに、コントラストで輪郭を立たせる一本である。
同じ黒文字盤をレザーストラップに合わせた434.13.40.20.01.001が、最も近い兄弟機にあたる。ブレス仕様には、シルバーの434.10.40.20.02.001やブルーの434.10.40.20.03.001がある。グレーの434.10.40.20.10.001なども並ぶ。第3世代はその後も機能と径の幅を広げたが、本機は発表時の構成を代表する、最も簡潔な男性用モデルの一つであり続けている。
意匠分析
ケースは直径40mmで、同じ黒文字盤・ブレス仕様だった前世代の424.10.40.20.01.001から0.5mm広がった。側面を丸く膨らませたバッサン形状と、三段の丸みを重ねたベゼルは継承されている。このベゼルは「トリプルアップル」とも呼ばれる。変わったのはラグで、先端へ向けて細く絞られた。ラグ幅は20mmから19mmへ狭まり、ラグからラグまでの全長は44.80mmから46.26mmへ伸びたとされる。径の拡大以上に、縦に伸びやかな輪郭となっている。
厚さは9.93mmで、前世代の値とされる9.75mmとの差は0.18mmにとどまる。厚みを増したCal.8800を収めるため、文字盤の裏側をくり抜いて空間を稼いだとされる。表側の文字盤はゆるやかなドーム状に湾曲し、同じくドーム型のサファイア風防がこれを覆う。
文字盤の黒はPVD(物理蒸着)による着色で、下地にサンブラッシュ仕上げが施される。光を受けると、中心から放射状の筋が浮かぶ。アプライドのローマ数字は曲面に沿って丸みを帯び、カボションのインデックスと交互に並ぶ。外周にはレイルウェイ式のミニッツトラックが巡る。日付窓は6時位置にある。前世代の同仕様は3時位置に窓を置いていた。
針は木の葉形で、分針と秒針の先端は文字盤の湾曲に合わせてわずかに曲げられる。色はセドナゴールドの色調をPVDで与えたもので、銀色の外装のなかで針だけが暖色を帯びる。金を使わずにセドナゴールドの色調を示す選択と読める。
ブレスレットは7列リンクの構成を守りつつ、リンク幅の比率が見直された。留め具はスライド式から、カバーにプッシャーを備えたバタフライクラスプへ替わり、男性用のカバーは長方形である。
裏蓋はサファイアのシースルーとなった。前世代にはクロノス神のメダリオンを浮き彫りにした裏蓋があり、第3世代ではその意匠がクォーツモデルに引き継がれたとされる。見えるのは自社製自動巻のCal.8800である。コーアクシャル脱進機は、ジョージ・ダニエルズが考案しオメガが量産化した、摩擦の少ない機構である。テンプはSi14シリコン製ヒゲゼンマイを用いたフリースプラング式で、緩急針を持たない。COSC認定のCal.2500からの移行で、耐磁性は15,000ガウスに達し、パワーリザーブは48時間から55時間に延びた。
系譜と歴史
De Ville Prestigeは1994年に始まったコレクションで、本機はその第3世代に属する。第3世代は2022年10月下旬に発表された。構成は6つのモデル系統と5つのケース径にわたる。男性向けは40mmと41mm、女性向けは34mm、30mm、27.5mmで展開された。
40mmの3針デイトはCal.8800を搭載し、文字盤と素材の組み合わせで多数のバリエーションが用意された。黒文字盤は発表当初からその一つに含まれている。本機は、ステンレススティールのケースとブレスレットに黒文字盤を合わせた仕様である。厚さは9.93mmで、クロノス日本版はこの40mmを、男性用で初めて厚さ10mmを切ったモデルとして紹介している。
この刷新で、コレクションの機械式モデルはすべてMaster Chronometer認定へ切り替えられた。本機の製造も発表と同じ2022年に始まったとされるが、出荷開始の正確な月は確認できていない。
本機については、2026年9月時点で文字盤、ブレスレット、ムーブメントに関する仕様変更の公表は確認できない。前世代にあたる39.5mmの424.10.40.20.01.001は、Cal.2500を積む旧仕様として本機の前に位置づけられる。
出典
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