設計思想
小売店との協業が生んだ一本
701.S3の起点は、2016年のBaselworldにあるとされる。アムステルダムの時計商Ace JewelersのチームがNomosのブースを訪れたことから両者の関係が始まり、以後ほぼ毎年、共同の限定モデルが作られてきた。2019年のチューリッヒ ヴェルトツァイト「Amsterdam」、2020年のクラブ キャンパス38「#NomiesForLife」がその例である。701.S3を含むクラブ 36 ブルーは6作目の協業機にあたり、提携5周年を記念して企画された。
なぜクラブ 36だったのか
ベースに選ばれたのは、Nomosで最も手に取りやすいクラブ 36である。手巻きの自社製ムーブメントを積みながら価格を抑えた同機は、2007年の登場以来ブランドの入口であり続けた。ただしダークダイヤルの702/704が2015年頃に姿を消して以降、通常コレクションの文字盤は銀白のみとなっていた。クラブ 36をベースとする限定は約10年ぶりとされ、本作は色の選択肢を欠いていた定番に青という新しい顔を与える試みでもあった。Aceの限定はベースモデルと同価格で販売する方針を貫いており、本作も発表時価格はEUR 1,080に据え置かれた。
兄弟機703.S3との分業
限定は計150本で、密閉裏蓋の701.S3が50本、サファイアバックの703.S3が100本という配分である。通常の701と703が裏蓋の違いで分かれるのと同じ関係を、そのまま限定にも持ち込んだ構成といえる。ムーブメントの眺めを取るか、簡潔な密閉裏蓋と価格を取るかという選択は購入者に委ねられた。本数の少ない701.S3は、結果として150本の中でも特に個体数の限られた存在となっている。両者に共通するのは、23.3×2.6mmの手巻きAlphaである。プズー7001の設計を土台にNomosが自社で仕上げる機械で、毎時21,600振動 (3Hz)、パワーリザーブは43時間。付属品も共通で、黒のホーウィン社シェルコードバンに、青とオレンジのNATOストラップ2本が添えられた。
意匠分析
ケースはベースの701と共通で、36mm径のステンレススティールを全面ポリッシュで仕上げる。本作固有の要素は、ほぼすべて文字盤に注ぎ込まれている。地色はAce Jewelersのハウスカラーに由来する深い紺青で、わずかに粒状感のあるマットな質感を持つ。インデックスと5分刻みの2桁アラビア数字はオレンジで刷られ、白の輪郭線が暗い地色との間でコントラストを補う。オランダを想起させる橙の採用は、アムステルダムの店との協業であることを静かに示す意匠でもある。
針はロジウムプレートの剣型で、中央にスーパールミノバ(蓄光塗料)の白いラインを通し、長めの分針が文字盤外縁近くまで届く。6時位置に一段沈み込むスモールセコンドは、白のスケールにオレンジの秒針を載せ、小径ながら判読性を確保した。風防はドーム型サファイアで、角度によって柔らかな映り込みを生む。
701.S3を兄弟機の703.S3から分けるのは密閉式の裏蓋である。スティールバックには「ACE Jewelers」「Five years ACE x NOMOS」の刻印と50本中の個体番号が刻まれ、限定の素性が裏面に集約されている。内部は毎時21,600振動 (3Hz)、約43時間のパワーリザーブを持つ手巻きのAlphaで、機構面はベースモデルから変更がない。付属品は黒のホーウィン シェルコードバンストラップに加え、紺と橙のNATOストラップ2本。文字盤の配色を腕元で展開できる構成とした。
系譜と歴史
Ace JewelersとNomos Glashütteの関係は、2016年のBaselworldでAceのチームがNomosのブースを訪れたことに始まると伝わる。以降ほぼ毎年、共同の限定モデルが発表され、701.S3はその協業5周年を記念する2021年の企画として生まれた。
発表は2021年9月下旬。Ace Jewelersを通じた予約受付と同時に公開され、同年9月末から販売が開始された。発表時価格は密閉裏蓋の701.S3が税込EUR 1,080、シースルーバックの703.S3が同EUR 1,340で、いずれもベースモデルから据え置かれた。付属のNATOストラップ2本を含む仕様は当初から固定で、生産期間中の変更は確認されていない。
50本のみの701.S3は早期に売り切れ、発表から半年ほど経た2022年春の時点で完売が報じられている。100本の703.S3はその後もしばらく販売が続いた。一度の生産で完結する限定であるため701.S3に後継や派生は存在しない。なお、ベースとなった通常型の701/703はその後ラインアップから姿を消し、2023年に改良版の701.1/703.1として復活している。初代クラブの設計を基にした限定として、本作は最後期の一本となった。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 公式 Ace x Nomos Club 36 Blue Limited Edition (Closed Caseback, Ref. 701.S3)
- 02 公式 NOMOS Glashütte
- 03 専門メディア Hands-On With The ACE × NOMOS Glashütte Club 36 Blue Limited Edition
- 04 専門メディア Ace x NOMOS Club 36 Blue
- 05 専門メディア Ace x NOMOS Club 36 Blue Limited Edition - Specs & Price
- 06 専門メディア Nomos Introduces the Club 36 Blue for Ace Jewelers
- 07 専門メディア Nomos DUW 6101 Calibre