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NIVADA GRENCHEN · SERIES

Chronomaster Aviator Sea Diver

クロノマスター・アビエイター・シーダイバー

空・陸・海を一本に束ねた多機能クロノグラフ。専用化に抗い、汎用の道具を貫いた系譜。

01 — 概要 / SUMMARY

Chronomaster Aviator Sea Diver(クロノマスター・アビエイター・シーダイバー)は、Nivada Grenchen が1960年代初頭に送り出した多機能クロノグラフである。クロノグラフ、回転ベゼル、200m防水を一本に束ね、空・陸・海のいずれでも使える道具を目指した。ブロードアロー針と黒文字盤の組み合わせが視覚的な核を成す。2020年に復刻され、現行はPanda、Reverse Panda、Broad Arrow など多様な文字盤構成で展開する。

02 — STORY · 物語

Chronomaster Aviator Sea Diver(クロノマスター・アビエイター・シーダイバー)、これまでの軌跡

The story of this series
01

空・陸・海を一本に — 「Super-Chronograph」の発想

1960年代初頭、移動と探検の速度が一段と上がった。ジェット旅客機が大陸を半日で結び、スキューバダイビングが趣味として広がっていた。各社は用途ごとに専用時計を投じたが、Nivada Grenchen は逆の発想を採った。一本で空・陸・海のすべてに応える、汎用の道具という構想である。

その答えが Chronomaster Aviator Sea Diver であった。文字盤には三つの語が並ぶ。Chronomaster(あるいは Chronograph)、Aviator、Sea Diver。クロノグラフであり、飛行の計時に使え、潜水にも耐える。当時の広告はこれを「Super-Chronograph」と呼び、「世界で最も忙しい時計」と称した。一本で何役もこなす道具という売り込みである。

発表年については資料に幅がある。1961年とする記録と、1963年とする記録が併存する。少なくとも1961年12月のダイバーズ向け広告に登場が確認できるため、本稿では1960年代初頭の登場として扱う。

02

[コラムホイール](/glossary/column-wheel)期 — ブロードアロー針と200m

初期の Chronomaster は、手巻のコラムホイール式クロノグラフを積んだ。なかでも Valjoux 92 は、当時 Nivada が用いた機械のなかで最も評価が高い。並行して、コラムホイールの名機 Valjoux 23 を載せた個体も知られる。直径は38mm前後。ケースは200m防水をうたい、回転ベゼルにはカウントアップの潜水目盛に加え、12時間の第二時間帯目盛を備えた。30分積算計の赤い三角は、ヨットレースのスタート計時に使うものである。

針はブロードアロー。矢羽根状の太い針は、同時代の初期 Omega Speedmaster とも通じる意匠で、暗所での視認性を確保した。黒文字盤に黒のサブダイヤルを重ねる構成は、計器としての潔さを示す。

米国市場では事情が異なった。Nivada の名は Movado と音が近いとされ、商標上の調整から「Nivada Grenchen」表記が求められた。流通を担った Croton 社の名と合わせ、文字盤には Croton、Nivada、あるいは Croton Nivada Grenchen と複数の署名が現れる。同じ Chronomaster でも、署名が一様でないのはこのためである。

03

カムレバー期 — 1970年代の量産機へ

1970年代に入ると、ムーブメントの選択が変わる。コラムホイール機に代えて、カムレバー式の Valjoux 7733 や Landeron 248 が用いられるようになった。生産性に優れた量産機への移行である。針もブロードアローから細いスティック針へと改められ、日付窓を備えた仕様も加わった。

しかし時代の潮目は厳しかった。クォーツの台頭と1973年の石油危機が重なり、機械式の需要は細る。Nivada Grenchen のスイス国内の生産拠点は1970年代後半に閉じられ、Chronomaster の生産もこの頃に幕を引いたとされる。一本で何でもこなす道具という発想は、いったん歴史の側へ退いた。

04

2020年の復活 — 「再発明しない」という方針

休眠していた名は、2010年代末に再び動き出す。William L. 1985 を手がけた Guillaume Laidet と、部品・製造を担う Montrichard Group の Remi Chabrat が、2018年に復活を構想した。きっかけは一冊の本だったと伝わる。Grégoire Rossier と Anthony Marquié による Chronomaster の研究書である。メキシコで商標を保有していた企業からライセンスを得て、2020年に Antarctic、Depthmaster とともに Chronomaster を復刻した。

方針は明快であった。再発明はしない。寸法、形状、文字盤構成を当時に寄せ、必要なところだけ現代化する。ムーブメントには Sellita SW510 を採用し、自動巻と手巻の双方を用意した。直径は38mmを踏襲。風防はドーム型サファイアに置き換えた。文字盤と針の構成は豊富で、Panda、Reverse Panda、Broad Arrow、Orange Boy などから選べる。

一点、留意すべき差異がある。現行の防水性能は100mで、ヴィンテージがうたった200mとは異なる。道具としての出自を継ぎつつ、過剰な数値を主張しない設計判断と読める。

05

旧キャリバーの再生 — Valjoux 23 VZ への回帰

復刻の延長線上で、ひとつの出来事があった。1974年に製造を終えた Valjoux 23 VZ の未使用在庫が見つかったのである。Nivada Grenchen はこれを現代基準で整備し直し、2025年に2種の限定モデルへ仕立てた。Broad Arrow と Aventurine Blue で、各25本。コラムホイール機の動きは、裏蓋のシースルーから見える。

Laidet 自身、ブロードアロー針の手巻 Chronomaster をブランドの旗艦と位置づける。多機能を一本に束ねるという1960年代の発想は、機械の世代を越えて受け継がれた。創業から100年の節目を2026年に控え、Chronomaster は Nivada Grenchen の現在地を映す一本であり続けている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

Chronomaster Aviator Sea Diver の設計を貫くのは、専用化への抵抗である。同時代のダイバーズは潜水へ、パイロットウォッチは飛行へと機能を絞り込んだ。Blancpain Fifty Fathoms が潜水という単一目的に最適化したのとは対照的に、Chronomaster は用途を絞らない。クロノグラフ、回転ベゼル、防水を一本に積み、空・陸・海のいずれにも応える。情報量の多さを、計器としての潔さで御するのがこのシリーズの流儀である。

機能設計の核は、二つの計時手段の同居にある。中央のクロノグラフが経過時間を測り、回転ベゼルが別の基準を刻む。ベゼルにはカウントアップの潜水目盛と12時間目盛が同居し、潜水時間と第二時間帯の双方に対応した。30分積算計の赤い三角はヨットレースのスタート計時に充てられる。一つの文字盤に複数の役割を重ねながら、黒文字盤に黒サブダイヤルというモノトーンの構成で、視覚的な混乱を抑えている。

意匠の象徴はブロードアロー針である。矢羽根状の太い針は、暗所でも姿を見失わせない。初期 Omega Speedmaster と通じるこの針は、計器としての出自を端的に語る要素であり、復刻でも中心的な選択肢として残された。1970年代にスティック針へ移った時期もあるが、シリーズの「顔」として記憶されているのはブロードアロー期の表情である。

寸法の自制も見落とせない。直径38mmは、多機能を主張する道具としてはむしろ控えめである。機能を盛り込みながらケースを肥大させず、装飾色を抑える。派手にしないという判断が、70年近い時を経ても認識可能な輪郭を保たせている。

復刻が示したのは、この設計言語の強度である。寸法と文字盤構成を当時へ寄せ、風防のサファイア化とムーブメントの更新という最小限の現代化にとどめる。変えるべきものと変えてはならないものを切り分けた結果、ヴィンテージとの連続性が保たれた。Chronomaster の同一性は、特定の素材や数値ではなく、「一本で複数の役割を負う」という思想そのものに宿る。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
1961-1960年代後半
Valjoux 92 / 23 系
手巻コラムホイールの2レジスター期。
1970年代
Valjoux 7733 / Landeron 248
カムレバー式量産機への転換期。
2020-現在
Sellita SW510
現代供給機、自動巻・手巻の両仕様。
2025
Valjoux 23 VZ(復元NOS)
未使用在庫を整備した旧機の再生。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
1961-1969

コラムホイール初期型

85001 ほか
Valjoux 92/23系、ブロードアロー針、200m防水の原型。
1970-1978

1970年代カムレバー期

カムレバー期各Ref
Valjoux 7733等へ移行、スティック針と日付仕様を追加。
2020-現在

2020年の現代復刻

86010 86004
Sellita SW510、38mm、サファイア、100m防水で再構成。
2025

旧キャリバー再生の限定

Valjoux 23 限定2種
整備済NOSのValjoux 23 VZを搭載、各25本の限定。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 F77 - Nivada Grenchen 公式 · Nivada Grenchen · 2026.08.15 閲覧 Nivada Grenchen · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Sellita Caliber SW510 専門メディア · Caliber Corner · 2026.08.15 閲覧 Caliber Corner · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive