本文へ
MüHLE GLASHüTTE · SERIES

Teutonia

トイトニア

航海計器の血を引く、機能を第一とするドレスウォッチ。ミューレの看板を担う家族の系譜。

01 — 概要 / SUMMARY

トイトニアは、2002年にミューレ・グラスヒュッテが発表した同社を代表するドレスウォッチである。船舶用クロノメーターと航海計器を出自とする計器メーカーが、視認性と頑健さを土台に仕立てた一族で、銀色のギヨシェ文字盤と大型日付を原点とする。現行は、ギヨシェと段付きベゼルの古典的な Teutonia II、面取りベゼルと簡素な文字盤の Teutonia IV、月相を備える Moonphase、そして硬派な Teutonia Sport へと枝分かれする。ミューレが「機能の中の贅沢」と呼ぶ思想を、最も素直に体現する系譜である。

02 — STORY · 物語

Teutonia(トイトニア)、これまでの軌跡

The story of this series
01

計器の血を引くドレスウォッチ

ミューレ・グラスヒュッテは、1869年にロベルト・ミューレが計測器メーカーとして創業した家業に始まる。東西ドイツ統一後の1994年、4代目ハンス=ユルゲン・ミューレが船舶用クロノメーターと航海計器の製造会社として再興した。腕時計の生産が始まるのは1996年。造船所からの「頑丈で防水性の高い実用時計が欲しい」という求めが出発点であった。ミューレの時計は、装飾品ではなく計器として生まれている。

その出自を背負いながら、初めて美しさを正面に据えた一本がトイトニアである。2002年初頭、当時製品開発を担っていた5代目ティロ・ミューレの手で発表された。銀色のギヨシェ文字盤に、視認性の高い大型日付。実用一辺倒だったミューレの製品群に、初めて明確なドレスの顔が加わった。

この初代は発表年のうちに約2,500本を販売し、同年秋には早々に市場から退いた。短命だったが、銀ギヨシェ文字盤という後の系譜を貫く意匠は、ここで定まっている。

02

「顔」の確立 — Teutonia II

2005年、トイトニアは一族へと枝分かれする。大型日付の初代は Teutonia II Großdatum として再登場し、同時にクロノグラフ、クロノメーター、そして径を抑えた Medium が加わった。一本の時計が、コレクションになった瞬間である。

このとき、後年まで変わらぬトイトニアの「顔」が固まる。ケース中央には、ラグが渦を巻くように丸められた「ヴォルート・ホーン」。その側面には、手作業でしか施せない縦の筋目が走る。文字盤には研磨したインデックスを一つずつ手で植える。装飾は華美のためではなく、文字盤を構造化し、読みやすくするためにある。

クロノメーター系には、グラスヒュッテ天文台で6姿勢の検定を受けた個体もある。大型日付は当時、ETA 2892 に Jaquet 製モジュールを組み合わせて実現していた。計器メーカーらしく、精度の裏づけを外部の認定に求めた点は見落とせない。

03

自社キャリバーという回答

トイトニアの技術的な背骨は、文字盤の裏で育った。2003年、ミューレはグラスヒュッテ伝統の白鳥首微調整を発展させた「啄木鳥首微調整(シュペヒツハルス)」を開発する。鳥の首を思わせる形状は、調整を容易にすると同時に、衝撃への強さをもたらした。計器の血を引く会社が、ドレスウォッチにも頑健さを求めた証である。

2008年には自社設計のグラスヒュッテ三分の四プレートを擁する改良機が完成し、ミューレ初の自社呼称キャリバー MU 9408 を得た。2011年には、完全自社設計の手巻 MU 9411 が登場する。これを初めて搭載したのが Teutonia III Handaufzug であった。調達ムーブメントを磨いて使う会社が、自前の機械でドレスの一本を仕立てる。その象徴がトイトニアに託された。

04

引き算の世代 — Teutonia IV

2019年、トイトニアは新たな設計言語を得る。Teutonia IV である。Teutonia II の段付き「Bベゼル」を面取りされたルーフベゼルに改め、ギヨシェや放射状の装飾を、細かな粒目だけの簡素な文字盤へ置き換えた。足し算で積み上げた II に対し、IV は引き算で輪郭を描く。

この簡素さは、複雑機構の受け皿にもなった。月相を6時位置に抱く Moonphase が加わり、月は59日で一巡する。ランセット型の針とともに、静かな表情をつくる。濃紺文字盤の BlueMoon も続いた。IV は、トイトニアの新しい実験場となっている。

05

原点回帰、そして30年

2024年、ミューレは再興30年を迎えた。記念モデル Teutonia IV Großdatum「Edition 1994」は、Sellita SW200-1 の上に自社開発の大型日付モジュールを載せ、金色の30周年ローターを備える。大型日付は、初代トイトニアが持っていた装備でもある。系譜は四半世紀を経て、出発点へ静かに戻った。

2026年には、リング状の目盛りに日付を表示する Teutonia II Ring date が加わった。同年の新作はいずれも、腕時計製造30年(1996年開始)を記す特別ローターを備える。

トイトニアは今、Teutonia II の華やかな古典と、Teutonia IV の簡潔な現代が併存する家族として、ミューレの看板を担っている。計器として生まれた血筋は、20年余を経てなお、文字盤の読みやすさという一点に表れている。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

トイトニアが20年以上にわたり一目でそれと分かるのは、ケースと文字盤に通底する設計言語が変わらないからである。

中核はケース中央部にある。ラグは先端で渦を巻くように丸められ、「ヴォルート・ホーン」と呼ばれる。その横面には縦方向の筋目が手作業で施され、ホーンの頂部は磨き上げられる。光を受けると、艶消しと鏡面が交互に明暗を生む。派手な装飾に頼らず、面の処理だけで陰影をつくる。この抑制が、トイトニアの品位を支えている。

文字盤も一貫している。研磨したインデックスを一つずつ手で植え、分目盛りを正確に刻む。Teutonia II では銀のギヨシェや放射状の切削が施されるが、それは豪奢のためだけではない。模様は文字盤を区画し、視線の置き場所を整え、結果として読みやすさを高める。装飾と機能が同じ方向を向いている点に、計器メーカーの思想が透ける。

世代間で唯一はっきり変わったのがベゼルである。Teutonia II は段差を重ねた「Bベゼル」で文字盤を額装する。Teutonia IV は面取りした一枚のルーフベゼルでそれを置き換え、文字盤からも装飾を削いだ。足し算と引き算、二つの美意識が同じケース構造の上で共存している。

トイトニアの思想は、ミューレが自らを「機能の中の贅沢」と呼ぶ言葉に集約される。航海計器に由来する視認性と頑健さを土台に置き、その上に節度ある装飾を載せる。グラスヒュッテの同郷にはより高級路線を採る作り手もいるが、トイトニアは日常の業務に堪える実用性を手放さない。啄木鳥首微調整による耐衝撃性も、その姿勢の延長線上にある。

変えたのはベゼルと文字盤の表情、変えなかったのはヴォルート・ホーンのケースと、読みやすさを最優先する文字盤。この取捨選択が、トイトニアを長く「トイトニアの顔」たらしめている。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2002-2010頃
ETA 2892 系(Mühle仕様)
Jaquet製の大型日付モジュールを併用した調達ムーブ期。
2008-2011
MU 9408 / MU 9411
自社呼称の改良機と完全自社設計の手巻を擁する独自系列。
2011頃-現在
Sellita SW200-1 / 280-1 系(Mühle仕様)
ETAからSellitaへ移行。啄木鳥首微調整を採用。
2024-
SW200-1 + 自社大型日付 MU 9424-GD
Sellita上に自社開発の大型日付モジュールを新規搭載。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2002

大型日付を備えた初代

Teutonia(初代)
銀ギヨシェ文字盤と大型日付。年内に約2,500本を販売し短命に終わる。
2005

二代目で一族化した世代

Teutonia II
クロノグラフ等を追加し一族化。ヴォルート・ホーンの顔が定着。
2011

自社手巻 MU 9411 世代

Teutonia III Handaufzug
完全自社設計の手巻ムーブを初搭載した、径42mmの新世代。
2019-

ルーフベゼル世代の到来

Teutonia IV
段付きBベゼルを面取りに改め、文字盤の装飾を簡素化した世代。
2024-

原点回帰と記念ローター期

Edition 1994 Ring date 他
自社大型日付モジュールを搭載。新作に30周年記念ローターを採用。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Teutonia II Chronograph - Mühle-Glashütte 公式 · Mühle-Glashütte · 2026.08.15 閲覧 Mühle-Glashütte · 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Muhle Glashutte Teutonia II Chronograph - WATCH REVIEW 専門メディア · Escapement Magazine · 2026.08.15 閲覧 Escapement Magazine · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 2 モデル

2 references in archive