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MüHLE GLASHüTTE · SERIES

29er

少年向けヨットに名を借り、グラスヒュッテ製機械式時計への実用本位な入口として育ったシリーズ。

01 — 概要 / SUMMARY

29er は、ドイツ・グラスヒュッテのミューレ・グラスヒュッテが2006年に発表した実用三針時計のシリーズである。名称はドイツ・セーリング連盟の青少年クラスで用いられる小型ヨット「29er」に由来し、機械式時計への入口となる一本として構想された。100m防水のケース、ねじ込み式リューズ、視認性を重視した二層構造の文字盤を備える。基幹にはスイス製ムーブメントを採用し、2003年開発のウッドペッカーネック緩急調整を加える。現行は標準の29erと大径の29er Big を軸に、指針日付(Zeigerdatum)、曜日日付、クロノグラフ、薄型のCasual、2026年のBig GMT などへ展開している。

02 — STORY · 物語

29er、これまでの軌跡

The story of this series
01

49erの弟分として

ミューレ・グラスヒュッテは、もともと船舶用クロノメーターや航海計器を手がける計器メーカーである。1990年代半ばに腕時計へ本格復帰したのち、堅牢で読みやすい実用機を求める層に向けて、2006年に29erを発表した。名の由来は、ドイツ・セーリング連盟の青少年選手権クラスで使われる小型ヨット「29er」。この艇は、オリンピック種目である「49er」へ進むための入門艇として位置づけられる。ブランドはこの関係を時計に重ねた。29erは、グラスヒュッテ製機械式時計への入口となる一本として企画されたのである。俊敏さで知られる艇に対し、時計では「速さを抜き、精度に振り向けた」とブランドは説明する。

02

スポーティ路線への拡張 — クロノグラフ

発表当初の29erは、三針と日付を備えた簡潔な構成だった。やがてシリーズは、計時機能を持つモデルへと広がる。2009年から2010年にかけて登場した29er Chronographは、当時のミューレが「City Line」と位置づけたとされる、より現代的で日常的な層に向けた路線に属した。搭載されたのはValjoux 7750系の自動クロノグラフで、30分・12時間の積算計とスモールセコンドを持つ。角張った面取りと、つや消しと研磨を交互に配した仕上げは、ドレスウォッチよりやや厚く、量感のある姿を与えた。実用三針の枠を超え、シリーズが用途を広げた最初の節目である。

03

29er Big と機構の枝分かれ

シリーズはその後、ケースのバリエーションと複雑機構の両面で枝を伸ばす。直径42.4mmの29er Big は、標準モデルより大ぶりで、リューズを左右から囲うサイドプロテクションを備える。これは横方向の衝撃からリューズを守ると同時に、力強い外観をつくる要素でもある。文字盤側では、日付を針で指す指針日付(Zeigerdatum)や、曜日と日付を窓で示す曜日日付(Tag/Datum)が加わった。基幹の自動巻は、用途に応じてSellita SW 221-1 系やSW 220-1 系へと使い分けられる。一つの設計言語を保ちながら、家族のように派生が増えていった時期である。

04

スイス供給網の転換 — ETAからSellitaへ

2010年代初頭、スイスのムーブメント供給は大きく変わる。最大手ETAが外部ブランドへの供給を絞ったため、多くのメーカーがSellita製の互換キャリバーへ移った。ミューレも例外ではなく、29erの基幹はETA 2824-2 系からSellita SW 200-1 系へと置き換わっていった。両者は毎時28,800振動 (4Hz)で、構造もほぼ等しい。供給元が替わっても、ミューレは独自のローター、グラスヒュッテ式の3/4プレート、そして2003年に開発したウッドペッカーネック緩急調整を載せ替えた。緩急針が衝撃で跳ね上がるのを防ぐこの機構は、伝統的なスワンネック緩急装置を発展させたものである。変わらぬ核として、シリーズの精度を支え続けた。

05

薄さへの探求と記念モデル

2020年、シリーズはこれまでと異なる方向を示した。29er Casual はケース厚を9.35mmに抑え、コレクション中で最も薄いケースを実現した。航海計器の系譜を保ちつつ、日常やジャケットに合わせやすい、ドレス寄りの落ち着いた表情を持つ。2024年には、創業から数えて155年の節目を迎えた。これを記念する「Edition 1994」の一本として、ブロンズケースの29er Big Bronze が各155本限定で発表された。直径42.4mm、文字盤にはブランドの青で記念の数字を配した。実用一辺倒だったシリーズに、素材と祝祭性という新たな表情が加わった。

06

現在地 — 29er Big GMT

2026年、シリーズに初めて第2時間帯表示が加わる。29er Big GMT は、Sellita SW 330-2 を基にしたミューレ版を搭載し、約56時間の巻上げを持つ。より薄いこのキャリバーに合わせて中ケースを新設計し、厚さは9.8mmと、シリーズの中でも薄い部類に収まった。第2時間帯は、文字盤外周のリング(レオー)上の目盛で読む。発表から20年を経て、29erは三針・クロノグラフ・曜日日付・指針日付・薄型・GMT までを擁する家族へと育った。一方で、視認性を最優先する文字盤と、入口としての性格は今も変わらない。

03 — DESIGN · 設計思想

意匠を貫く設計言語

What this series guards, and what it lets change

29erの設計を貫くのは、「機能が装飾に先立つ」という考え方である。ブランドはこのシリーズに「Luxury follows function」という言葉を与えてきた。まず徹底されるのは視認性である。文字盤は二層に分けられ、内側に立体的な植字インデックス、外側に細い分目盛を置く。この分割によって針と目盛が干渉せず、時刻を一目で読み取れる。針とインデックスにはスーパールミノバを施し、暗所でも輪郭が崩れない。航海計器を出自とするブランドにとって、読み取りやすさは装飾以前の前提である。

ケースの設計言語も一貫している。表面はつや消しと研磨を交互に配し、光の当たり方で陰影が変わる。ねじ込み式リューズの左右にはサイドプロテクションを置き、横からの衝撃を受け止めると同時に、輪郭に力強さを与える。標準の29erと大径の29er Big は寸法こそ異なるが、同じ造形の文法を共有する。これは、艇体から帆までほぼ同一規格で造られる「ワンデザイン」艇としての29erと重なる発想である。家族の中で形を散らさず、認識可能な一つの顔を保つ。

同時代の実用時計と並べると、輪郭はより明確になる。回転ベゼルを備えるS.A.R. Rescue-Timer のようなダイバーズでもなく、ドレス寄りのTeutonia でもない。29erは、その中間にある「スポーティ・インストゥルメント」として位置づけられる。色や寸法を抑え、過度に主張しない姿勢が、20年を経ても古びない理由でもある。裏蓋のサファイアガラス越しには、グラスヒュッテ式の3/4プレートとウッドペッカーネック緩急調整が見える。外観の簡潔さと内部の作り込みの対比こそ、このシリーズの設計思想を示している。

04 — MOVEMENT EVOLUTION

ムーブメントの変遷

Calibers across the decades
2006-2011頃
ETA 2824-2 / Valjoux 7750(Mühle版)
ETA基幹にウッドペッカーネック緩急調整を付加。
2011頃-現在
Sellita SW 200-1 / SW 500(MU 9413)系
供給転換でSellita基幹へ。毎時28,800振動。
2010年代後半-現在
Sellita SW 220-1 / SW 221-1(Mühle版)
曜日日付・指針日付の派生機構を拡充。
2026-
Sellita SW 330-2(Mühle版)
GMT機構を搭載し、約56時間巻に拡張。
05 — REFERENCE EVOLUTION

Ref. 変遷

Reference generations
2006-

初代29er(三針デイト)

M1-25-23 系
グラスヒュッテ製機械式への入口として誕生。100m防水。
2009頃-

29er Chronograph

M1-25-41 43
計時機能を備え、スポーティ路線へ用途を広げた一本。
2010年代-

29er Big と派生展開

29er Big Zeigerdatum 他
直径42.4mmの大径ケースと、指針日付など機構の枝分かれ。
2020-

29er Casual(薄型化)

29er Casual
ケース厚9.35mm、ドレス寄りの薄型再解釈を提示。
2024

創業155周年ブロンズ記念

29er Big Bronze Edition 1994
155年を記念したブロンズ限定、各155本で発表。
2026-

29er Big GMT

29er Big GMT
中ケース新設計とSW 330-2で初のGMT、薄型9.8mm。
Sources

出典

本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。

  1. 01 公式 Mühle-Glashütte 公式 · 2026.08.15 閲覧 2026.08.15
  2. 02 専門メディア Sellita Caliber SW200-1 専門メディア · Caliber Corner · 2026.08.15 閲覧 Caliber Corner · 2026.08.15
06 — ALL REFERENCES

このシリーズの全 1 モデル

1 references in archive