設計思想
二つの周年が重なった2012年
ウィリー・クロノスコープ 027/4260は、2012年2月にミュンヘンの見本市インホルゲンタで披露された協業ライン「ボグナー・バイ・ユンハンス」の旗艦モデルである。相手方のボグナーは、ミュンヘンに本拠を置くスポーツファッションの名門で、1936年以来ドイツ冬季五輪代表の公式ウェアを手がけてきた。2012年は同社の創業80周年にあたり、夏のロンドン五輪では初めて夏季代表にもウェアを供給した年だった。一方のユンハンスにとっても、1972年ミュンヘン五輪で公式計時を務めてから40年の節目である。スポーツと縁の深い二つのドイツ企業が、周年の重なるタイミングで機械式時計のコレクションを立ち上げた。
ウィリー・ボグナーの名を冠したリーダーモデル
ライン名が示す通り、企画の中心にいたのはボグナー社を率いるウィリー・ボグナー・ジュニアである。スキー選手として五輪に出場し、映画監督やデザイナーとしても活動した人物で、最初の製品ブリーフィングから各モデルの命名まで自ら関与したと伝わる。コレクションは三針の「ウィリー・オートマチック」と、クロノグラフの「ウィリー・クロノスコープ」で構成され、027/4260は後者の基準仕様にあたるステンレス/白文字盤モデルである。ユンハンスはこのクロノスコープをラインのリーダーモデルと位置づけ、ウィリー・ボグナー本人が着用する一本として打ち出した。両社の提携を視覚化するため、文字盤にはユンハンスのロゴとボグナーの「B」が併記された。
ユンハンスの中での役割と短い生涯
2009年の経営再建を経たユンハンスは、マックス・ビルとマイスターという二つの柱を再構築する途上にあった。いずれも端正でドレス寄りのデザインであり、スポーツ性を担う柱は手薄だった。ボグナー・バイ・ユンハンスは、同じ2012年に登場した五輪計時の記憶を引く「1972」ラインとともに、その空白を埋める試みである。当時のユンハンスでは突出した44.5mmという大型ケースも、この役割の表れといえる。ただし協業ラインとしての展開は長く続かず、生産終了の時期は公表されていないものの、2010年代半ばには新作の発表が途絶えた。直接の後継Refは設定されず、大型スポーツクロノグラフという役割は、その後マイスターS クロノスコープなど本流コレクションの側へ戻っていった。
意匠分析
ケースはステンレススチール製で、直径44.5mm、厚さ15mm、ラグ幅22mm。マイスター系の多くが38mm前後で展開されていた当時のユンハンスにおいて、このボリュームは明確なスポーツウォッチ宣言だった。防水はマイスター・クロノスコープの30〜50mに対し100mを確保し、風防にはサファイアクリスタルを採用。裏蓋は中央をねじ込み式で固定するスクリューバック構造で、ミネラルガラスの窓からムーブメントを見せる。
白のマット文字盤には植字インデックスが置かれ、針は青焼き処理の剣型で夜光を備える。雪原を思わせる白と青の対比は、ウィンタースポーツを出自とするボグナーの色彩として読める。12時位置に30分積算計、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドという配置はベースキャリバーの定石に従い、カレンダー表示を組み合わせる。12時下にユンハンスのロゴ、文字盤上にボグナーの「B」が併記されるダブルネーム仕様は、このラインだけの意匠である。
搭載されるCal.J880.1は、ETA/ヴァルジュー7750をベースにした自動巻きクロノグラフムーブメントである。毎時28,800振動 (4Hz)、パワーリザーブ約48時間、25石。手巻きと秒針停止に対応し、ロジウム仕上げの地板に青焼きネジを合わせた装飾が施されるとされる。同系キャリバーはマイスター・クロノスコープにも使われており、本機は中身を共有しつつ外装でスポーツ性を表現した構成といえる。
ストラップはアリゲーターレザーにバタフライ式バックルの組み合わせで、ブレスレット仕様は末尾「.44」を付した別Refとして区別された。
系譜と歴史
協業の合意は2011年に結ばれたとされる。コレクションの公開は2012年2月、ミュンヘンで開催された宝飾・時計見本市インホルゲンタが最初で、ウィリー・クロノスコープは当初から旗艦として発表された。同年夏のロンドン五輪でボグナーがドイツ代表の公式ウェアを夏季大会として初めて手がけたこともあり、ラインは両社とスポーツの縁を前面に押し出して展開された。
027/4260はステンレスケースに白文字盤を組み合わせた基準仕様で、レザーストラップを示す末尾「.00」を付した027/4260.00として流通した。クロノスコープには黒文字盤をブレスレットに載せた027/4266.44や、ゴールドPVD仕上げの027/7263といった兄弟仕様が存在する。三針のウィリー・オートマチックは42mmと38mm(37mmと記す資料もある)の2サイズで展開され、のちにブルー文字盤の「ウィリー・ブルー」も加わった。
ライン全体の生産終了時期は公表されていない。ただし2010年代半ば以降は新作の発表が途絶え、現在のユンハンス公式カタログにボグナー・バイ・ユンハンスは含まれていない。展開期間はおおむね数年と短く、027/4260に直接の後継Refは設定されないまま、このダブルネームは一代限りで幕を閉じた。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。
- 01 専門メディア Junghans Max Bill Guide
- 02 専門メディア Junghans Max Bill Chronoscope