設計思想
蛇の異名を持つ男のために
2013年1月、ウブロはNBAのロサンゼルス・レイカーズの公式タイムキーパーに就任した。同年3月19日、ブランドはこの関係を一歩進め、レイカーズの主力ガードであったコービー・ブライアントをアンバサダーに迎えると発表する。発表は西ハリウッドのホテル屋上で行われ、その場でお披露目されたのが本機、キング・パワー ブラックマンバである。「ブラックマンバ」はブライアントの異名であり、アフリカに生息する俊敏な毒蛇に由来する。ウブロはこの名を冠した一本を、彼の加入を記念する形で世に出した。
ブライアントは、ウサイン・ボルトやドウェイン・ウェイドらが名を連ねるウブロのスポーツ・アンバサダー陣に加わった。スポーツ界の象徴的人物と長期的に結ぶこの手法は、当時のウブロが急速に知名度を広げた原動力でもあった。本機は単なる広告塔の道具ではなく、特定の個人の物語を時計に翻訳する試みとして企画された。
なぜキング・パワーだったか
器に選ばれたキング・パワーは、2009年にビッグ・バンの上位派生として導入されたラインである。ケース径を48mmへ拡大し、素材と造形をより大胆にした、ウブロの「フュージョン(異素材融合)」思想を最も誇張した形で体現する系列だった。黒セラミック、チタン、コンポジットレジン、ゴム、そして金を一つのケースに同居させる構成は、量産時計の常識から距離を置く。
この大ぶりで素材主義的な器は、スポーツ選手の存在感を載せる土台として理にかなっていた。控えめな普段使いの時計ではなく、着け手の個性を主張する一本——その性格が、コービーという人物像と重ねられた。本機は、キング・パワーという既存の器に、一人の選手への敬意を刻み込んだ特別版である。
記念碑としての一本
ブラックマンバには、本機の黒セラミック版を起点に複数の派生が生まれた。2013年11月には、より貴金属的なキングゴールド×黒セラミックの15本限定版が西ハリウッドで披露され、ダイヤモンドをあしらった同系の仕様も用意された。さらにごく少数のローズゴールド製トゥールビヨンも作られたと伝わる。本機はその系譜の出発点であり、最も量産数の多い基幹仕様にあたる。
ブライアントは2020年に世を去った。彼の名と署名を刻んだ本機は、いまでは一人の選手と一ブランドが交わした関係を留める記録として読まれている。
意匠分析
本機の設計は、量産モデルの器に一人の人物の物語を上書きする作業として読める。
ケースは48mm径のマイクロブラスト仕上げ黒セラミックで、キング・パワー特有の大径を踏襲する。ベゼルは黒セラミックとチタンの二層で構成され、H字型に成型された6本の黒PVDチタンビスが固定する。ラグや側面のインサートには黒のコンポジットレジンが用いられ、金属とは異なる艶の質感が差し込まれる。リューズとプッシュボタンは黒PVDのチタン製で、ボタンにはそれぞれ「START」「RESET」が刻まれる。リューズのウブロ・ロゴには18Kの3Nゴールドが配され、全身黒の構成にわずかな金の点が灯る。
文字盤はオープンワーク化され、サファイアの盤面越しに機構が覗く。最大の見どころは、9時位置のカウンターに巻き付く立体的な蛇である。これはブライアントの異名「ブラックマンバ」を直接形にしたもので、黒く仕上げられ、光の角度で鈍く浮かび上がる。6時位置には彼の背番号「24」が据えられ、針とインデックスは3Nゴールドめっきに黒のスーパールミノバを充填する。金と黒を基調としながら、限定番号を紫で記す点が効いている。金と紫はいずれもレイカーズを象徴する色であり、意匠の隅々に出自が織り込まれている。
ケースバックはサファイアを通して機構を見せ、そこにブライアントの署名が刻まれる。ストラップは黒のパイソン革をラバーに縫い付けたもので、滑らかな鱗の表情が時計用ベルトとしては異例の存在感を放つ。留め具は黒PVDチタンとセラミックのフォールディングクラスプである。
機構には自動巻クロノグラフのCal.HUB4248が収まる。27石・252部品で構成され、グリュシデュル製テンプとタングステン製ローターを備え、約42時間のパワーリザーブを持つ。100m防水は、48mmの巨体に実用域の堅牢性を与えている。
系譜と歴史
ウブロは2013年1月にロサンゼルス・レイカーズの公式タイムキーパーとなり、同年3月19日、西ハリウッドのホテルで開かれたイベントでコービー・ブライアントをアンバサダーに迎えると発表した。本機、キング・パワー ブラックマンバの黒セラミック版は、この席で初めて披露されている。生産は世界250本の個別ナンバー入りに限られた。各個体にはエディション番号が紫で記され、ケースバックのサファイアにはブライアントの署名が入る。
同年11月、ウブロは西ハリウッドのレストランで、より貴金属的な派生を公開した。キングゴールド×黒セラミックの15本限定版(Ref. 748.OM.1118.PR.KOB13)と、これにダイヤモンドを留めた仕様である。いずれも黒セラミック版を起点とした上位バリエーションにあたる。さらに、ごく少数のローズゴールド製トゥールビヨンも作られたと伝わるが、本機の標準仕様は自動巻クロノグラフのCal.HUB4248である。
黒セラミックの本機は発表後にデリバリーが進み、多くの個体が2014年製として知られる。付属品には、コービー・ブライアントが署名したNikeのスニーカーと専用ケースが含まれた。250本の限定数が満ちた後、本機の生産は完結し、母体となったキング・パワーも後年に整理された。現在は新品供給のない、完結した限定エディションである。