設計思想
1. 軍用クロノグラフの市販化として
タイプXXの源流は、1950年代にフランス国防省が定めた航空用クロノグラフの規格タイプ20にある。規格に沿った時計はフランス空軍、飛行試験センター、海軍航空隊(アエロナバル)へ供給された。短時間で計測を初期化できるフライバック機構を備え、操縦席での時間管理に用いられた実用工具であった。ブレゲは1995年、この系譜を市販モデルとして再構成し、軍用のタイプ20と区別するためローマ数字のタイプXXとして発表する。日付を持たない3800には「アエロナバル」の名が与えられた。3800系は、その世代の中核を成すリファレンスである。
2. 3800という基幹が担ったもの
3800は現代タイプXXの原型として、複数の派生を生んだ。同じケース・文字盤・ムーブメントに6時位置の日付を加えた姉妹機トランスアトランティック3820や、42mmのタイプXXIなどがこれに続く。一方で本機3800ST/92/SW9は、日付を持たないアエロナバル本来の構成を、スチールブレスレットで仕立てた仕様である。レザーストラップの3800ST/92/9W6とヘッドを共有し、装着の質感だけが異なる。いずれも軍用タイプ20の寸法感を尊重し、39mmという控えめなケース径を保った点に、原型への忠実さが表れている。無日付という選択もまた、計測に専念した工具としての性格を素直に映している。
3. 長い継続と世代交代
1999年、ブレゲはスウォッチグループの傘下に入り、ムーブメントを供給していたレマニアも同グループへ統合された。それでもタイプXXの意匠とCal.582は維持され、3800系は基本設計をほぼ変えないまま長く供給され続けた。後継筋のタイプXXI系が拡充されるなかで、3800はカタログに残りつつ段階的に姿を消し、2018年に生産を終えた。2023年、ブレゲは42mmの新型タイプ20(2057)とタイプXX(2067)を発表し、新しい自社製ムーブメントへ刷新した。20年あまり供給された3800は、無日付アエロナバルという役割を次代へ手渡す結節点でもあった。
意匠分析
3800ST/92/SW9をまず特徴づけるのは、39mmという控えめなケース径である。軍用タイプ20の寸法感を踏襲した結果であり、ラグ全長も44.5mmに収まる。一方でケース厚は14.8mmあり、直径の数値以上の存在感を腕上に残す。ケースとベゼルはポリッシュ仕上げで、工具時計でありながら光沢のある佇まいを併せ持つ。リューズはねじ込み式で、裏蓋はソリッド。工具時計として100m防水を確保する。
ベゼルは60分目盛りを刻んだ双方向回転式で、計測の起点を自在に合わせられる。ダイバーズウォッチの一方向ベゼルとは異なり、経過時間の管理に適した設計である。文字盤は黒で、大ぶりのアラビア数字と厚い夜光が視認性を最優先する。針はシリンジ形状を変形させた独特の意匠を採る。3つのサブダイヤルを持つクロノグラフはフライバック機構を備え、計測の初期化と再開を一動作で行える。
本リファレンス固有の要素が、組み合わされるスチールブレスレットである。レザー仕様の9W6に対し、SW9はヘッドと同じ鋼のブレスレットで構成される。ポリッシュを基調とした金属の連続がケースの光沢と呼応し、より一体的な金属塊としての印象を与える。ムーブメントはレマニア1350を基にした自動巻の一体型フライバッククロノグラフCal.582で、パワーリザーブは48時間。3時の積算計は30分計でありながら目盛りは15刻みで、1目盛りが2分に当たるという癖を持つ。
系譜と歴史
タイプXX アエロナバルにあたる3800系は、1995年に発表された。最初期の個体はリューズに金のキャップを備え、クロノグラフ秒針は直線形、ベゼルは一方向回転、防水表記は200mだった。のちに秒針はロリポップ形、ベゼルは両方向回転、防水は100mへ改められている。1999年にはブレゲがスウォッチグループ傘下に入り、レマニアも同グループへ統合されたが、意匠とCal.582は基本的に維持された。本機3800ST/92/SW9は、同じヘッドを共有する3800STのうちスチールブレスレットを組み合わせた構成で、レザー仕様の3800ST/92/9W6と併売され、末尾の符丁が装着方式の違いを示す。日付を加えた姉妹機トランスアトランティック3820も並行して展開されている。3800系は2018年に生産を終え、2023年には42mmの新型タイプXX(2057/2067)が登場して系譜が刷新された。発表から20年あまり、基本設計をほぼ変えずに供給され続けた、息の長いリファレンスであった。
出典
本文の執筆にあたって参照した資料。閲覧日は内容を確認した日を示す。