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腕時計史 · MILESTONE — 第6章 機械式の復権と独立時計師
1990s末

ブランドのグループ化

個々に独立していた時計ブランドが、1990年代末に少数の巨大グループへ束ねられ、産業を誰が握るのかという構図が塗り替わった。

§ 00 Overview

1990年代末、スイスを中心とする時計ブランドは少数の巨大資本へ急速に集約された。1983年に発足したSMHは1998年にスウォッチ・グループへ改称し、翌1999年にブレゲを傘下へ収めた。宝飾とファッションを束ねていたリシュモンは、ヴァシュロン・コンスタンタンやパネライを擁し、高級時計の主要勢力となる。1999年にはLVMHがタグ・ホイヤーやゼニスを買収して時計事業へ参入した。クォーツショックを生き延びた歴史あるブランドの多くは、資本と販売網を持つグループの一員となることで存続と再興の道を得る。この集約が、21世紀の業界構造の骨格を形づくった。

§ 01 Background

クォーツショックがスイスの機械式時計産業へ与えた打撃は、1980年代前半に底を打つ。ASUAGとSSIHの統合とスウォッチの成功により、業界は最悪期を脱しつつあった。しかし生き延びた歴史あるブランドの多くは、なお脆弱な立場にあった。設備や人材は保てても、世界規模の販売網や広告に投じる資本を欠いていたためである。

一方で、機械式時計の価値を見直す機運が高まっていた。職人の手仕事や複雑機構への関心が戻り、高級機の市場が再び動き始める。だが、その需要を取り込むには各社単独の力では足りなかった。

この時期、別の産業から接近する資本があった。LVMHは1987年、リシュモンは1988年に成立し、いずれも宝飾やファッションの複数ブランドを束ねる経営手法を確立していた。利益率の高い高級時計は、その版図を広げる有望な領域と映る。SMHが1983年に示した、価格帯の異なるブランドを一つの資本の下へ並べ、ムーブメント生産を共有する方式も、集約が機能することを裏づけていた。歴史あるブランドが単独で生き残る時代は、静かに終わろうとしていた。

§ 02 The Event

集約は三つの資本を軸に進んだ。

第一はスウォッチ・グループである。1983年発足のSMHは、1992年にブランパンとムーブメント製造のフレデリック・ピゲを取得していた。1998年、SMHはスウォッチ・グループへ社名を変え、翌1999年にはブレゲを傘下へ加える。低価格のスウォッチから高級機までを一つの資本に並べ、ETA等の部品供給を内部へ抱える体制が整った。

第二はリシュモンである。同グループは、宝飾とファッションの部門をヴァンドーム・ラグジュアリー・グループとして1993年に分けていた。その傘下で1996年にヴァシュロン・コンスタンタン、1997年にオフィチーネ・パネライを取得する。1998年にはリシュモンがヴァンドームを完全に取り込み、高級時計分野で大きな位置を占めた。到達点は2000年で、マンネスマンからLMHを約28億スイスフランで買収し、IWC、ジャガー・ルクルト、A.ランゲ&ゾーネを一挙に獲得する。あわせてオーデマ・ピゲが保有していたジャガー・ルクルトの株式40%も取得し、完全な傘下とした。この買収では、LVMHやスウォッチ・グループ、グッチ・グループとの競合を制した。

第三はLVMHである。フランスの巨大資本は、時計事業への参入が最も遅かった。1999年に動きが集中し、タグ・ホイヤーを約7億4,000万ドルで、さらにゼニス、エベル、ショーメを相次いで買収する。こうして宝飾と時計の部門が形づくられた。

2000年までに、業界はこの三極を中心に再編された。

§ 03 Significance

集約が生んだのは、少数の巨大グループと、その外に立つ独立系という二層の構造である。スウォッチ・グループ、リシュモン、LVMHの三極を骨格とするこの形は、21世紀の時計産業の枠組みとなった。

グループ化は各ブランドへ資本と世界規模の販売網をもたらした。クォーツショックを生き延びた歴史あるブランドは、その後ろ盾を得て生産と展開を広げられた。同時に、ムーブメントや部品の生産を内部へ統合する垂直統合が進む。とりわけスウォッチ・グループ傘下のETAは業界全体へ部品を供給しており、その依存と供給制限が後年の論点となった。この制約は、各社が自前のムーブメント開発を迫られる一因にもなる。

一方、巨大資本への集約は、これに与しない作り手の存在を際立たせた。少量生産の独立時計師が掲げる『独立』という価値は、グループ化という対極があってこそ意味を帯びる。1985年のAHCI設立に始まる動きは、この構造の裏側で輪郭を得ていった。

三極と独立系という関係は、流通や中古市場をめぐる近年の動きに至るまで、スイスを中心とする産業の通史を貫く軸となっている。

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