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腕時計史 · MILESTONE — 第1章 起点とフォーマットの探索
1864

エルジン創業

東部のウォルサムに続いて中西部に生まれた量産時計会社は、米国時計産業の興隆と斜陽をそのまま映していく。

§ 00 Overview

1864年8月、シカゴの実業家たちがナショナル・ウォッチ・カンパニーを設立した。ウォルサムが切り開いた互換部品による量産方式を、中西部で再現する試みである。創業陣は東部の熟練工を引き抜き、シカゴ近郊のエルジンに工場を構えた。1867年に最初のムーブメントを完成させ、1874年にエルジン・ナショナル・ウォッチ・カンパニーへ改称する。やがてウォルサムと並ぶ米国量産時計の一翼を担い、鉄道時計時代の主役の一つに数えられた。約100年で約6,000万個を生産したが、戦後のスイス・日本勢との競争とクォーツ化に抗しきれず、1968年に米国での製造を終えた。

§ 01 Background

19世紀半ば、時計の多くはなお熟練職人が一つずつ仕立てる高価な品だった。スイスや英国からの輸入品が市場を握り、米国でこれに挑んだのがマサチューセッツのウォルサムである。1850年に始まったその試みは、機械で削り出した互換部品を組み合わせ、時計を量産する道を開く。ウォルサムやハワードといった東部のメーカーは、1850年代を通じて、職人の手仕事に頼らずとも精度のそろった時計を数多く作れることを示していった。

南北戦争(1861-1865年)は、安価で信頼できる時計への需要を押し上げた。戦地でも市井でも、正確な時刻を携える必要が広がっていく。先行する東部の成功を見て、中西部にも同じ発想が芽生えた。マサチューセッツにできるなら、イリノイにもできるはずだ、と。

当時のシカゴは鉄道網の結節点として急成長し、野心ある実業家と資本が集まっていた。先行メーカーに挑む量産時計会社が、この地から興る素地は整いつつあった。

§ 02 The Event

1864年8月27日、シカゴで「ナショナル・ウォッチ・カンパニー」が資本金10万ドルで法人化された。発起人には、フィロ・カーペンター、ハワード・Z・カルバー、元シカゴ市長のベンジャミン・W・レイモンドら7名が名を連ねる。きっかけを作ったのは、地元の時計師ジョン・C・アダムズと、ウォルサムから訪れた技術者たちだったと伝わる。翌1865年には州の特別認可を受けて再編され、資本金を大きく増やしている。

設立陣は、量産の要が人にあることを理解していた。同年9月、マサチューセッツのウォルサムを訪ね、熟練の時計師たちを引き抜く。提示したのは、数年にわたる高給と一時金、社有地の一区画という破格の条件だった。後に「セブン・スターズ」と呼ばれたこの技術者集団が、新会社の中核を担った。

工場用地に選ばれたのは、シカゴの北西約48kmにあるエルジンである。フォックス川沿いのこの町は、35エーカーの土地を提供して工場を誘致した。工場は1866年に稼働を始める。翌1867年4月、最初のムーブメントが世に出た。18サイズの鉄道グレード懐中時計で、当時の社長と同名の「B.W.レイモンド」と名づけられた。価格は115ドルと、当時としては高価だった。

当初の社名は定着しなかった。製品が広く「エルジンの時計」と呼ばれたため、1874年5月の株主総会で、社名をエルジン・ナショナル・ウォッチ・カンパニーへ改めた。工場の置かれた地名が、そのままブランドとなった。

§ 03 Significance

エルジンの歩みは、ウォルサムと並ぶ米国量産時計の双璧という言葉に集約される。両社は7〜15石ほどの中級機を主戦場とし、米国の中級機市場を牽引した。エルジン単体でも、最盛期には年100万個を超える時計を作っている。約100年の操業で生み出した時計は約6,000万個に上り、米国メーカーが作った宝石軸受付きの時計の、ほぼ半分に当たるとされる。

鉄道時計の時代にも、エルジンは主役の一つだった。最初のB.W.レイモンドからして鉄道グレードであり、1960年には米国製で初とされる鉄道公認の腕時計(グレード730A)を送り出している。腕時計の出荷自体は1910年に始めていた。

エルジン市の工場群は、当時世界最大級の時計製造拠点と称された。最盛期には4,500人ほどが働き、その過半は女性だったと伝わる。自社の天文台で星を観測し、出荷する時計の精度を管理した。

しかし戦後、状況は変わる。スイス・日本勢との競争が激しさを増し、クォーツへの転換にも乗り遅れた。1964年には旧本社工場が閉じ、製造拠点は南部へ移る。1968年、米国での時計製造は終わりを告げ、エルジンの名は権利の転売を重ねていった。ウォルサムとともに米量産時計の最盛期を体現したその盛衰は、米国時計産業そのものの軌跡を映している。

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