認定中古(CPO)の制度化
ブランドが距離を置いてきた中古取引に、メーカー自らが保証を与える——2022年前後の認定中古制度は、流通の主導権をめぐる転換であった。
概要
Overview2022年12月1日、ロレックスは認定中古(CPO)プログラムを始めた。長く拡大してきた中古市場に、ブランドが踏み込んでこなかった構図への転換である。対象は製造から3年以上を経た個体に限られ、正規販売店が真贋を確かめ、2年間の国際保証を付して売る。2024年にはヴァシュロン・コンスタンタンが続き、他のブランドも同種の制度を整え始めた。それまで非公式の領域とされた二次流通を、メーカーが保証の枠組みへ取り込む動きであり、新品から中古までを正規網が扱う流通構造への転機となった。
背景
Background2010年代を通じて、高級腕時計の中古市場は急速に膨らんだ。人気モデルは正規店で入手しにくく、二次市場では定価を上回る価格で取引された。だが、この領域は長く独立系の業者やオンラインの売買仲介に委ねられ、メーカーは関与を避けてきた。中古の真贋や状態をブランドが保証することはなく、精巧な模造品も出回るなかで、買い手は業者の信用や自らの目利きに頼るほかなかった。
変化の予兆は2010年代後半にあった。2002年に英国で創業したウォッチファインダーは、中古売買の大手プラットフォームへと成長していた。2018年、リシュモンがこれを買収し、グループの正規流通の枠内に中古事業を取り込む。2021年には傘下の複数ブランドが、新品購入時に手持ちの時計を下取りに出す仕組みへ加わった。オーデマ ピゲもこのころ、ジュネーブの店舗で認定中古の試みを始めていたと伝えられる。ブランドが中古に向き合う動きは、すでに各所で始まっていた。
出来事
The Event2022年12月1日、ロレックスは認定中古プログラムを導入した。製造から3年以上を経た自社製品を対象に、正規販売店が真贋を確かめたうえで中古として売る制度である。認定された個体には、転売日から2年間有効な国際保証が付く。専用の封印と保証カードが添えられ、カードは真正であることの証明書として機能する。販売は正規網に限られ、第三者の売買仲介サイトへの出品は認められない。
開始時の取り扱いは、ビュッヘラーの店舗に限られた。対象国はスイス・オーストリア・ドイツ・フランス・デンマーク・英国の6か国で、2023年春から他の正規販売店へ広げる計画が示された。米国など他地域への展開はその後に続く。在庫は販売店が下取りなどで自ら調達し、点検や整備を施したうえで認定に回す。価格は各販売店が定め、ロレックスは関与しないとされた。新品の供給が需要に追いつかない状況のなかで、既存の個体を正規の販路に呼び戻す仕組みでもあった。
この動きは他社へ波及した。オーデマ ピゲは2023年に自社制度の導入を表明した。2024年11月には、ヴァシュロン・コンスタンタンがウォッチファインダーと組んで認定中古を始め、2年保証に加えてブロックチェーンを用いた来歴記録を付した。一方で、スウォッチ・グループは中古事業への参入に否定的な姿勢を示した。
意義
Significance認定中古制度の意義は、まず二次市場の位置づけを変えた点にある。かつて非公式の領域、ときに並行経済の一部とすら見なされた中古取引が、メーカーの保証を伴う正規の流通へと組み込まれた。真贋をブランド自身が請け合うことで、模造品への不安や業者ごとの信用差という、中古特有の障壁が一定程度取り除かれた。
より大きな変化は、流通構造そのものに及んだ。製造者は新品を卸して終わりではなく、下取り・整備・再販という形で一つの個体の生涯に繰り返し関与するようになった。中古の値づけや在庫を正規網が押さえることは、ブランドが市場での主導権を取り戻す手立てでもある。この垂直統合の傾向は、2023年のロレックスによるビュッヘラー買収という、製造者が小売そのものを抱える動きへと連なっていく。
ブランドにとって中古は、かつて新品の販売と競合する厄介な存在だった。それを自らの販路として扱い直したところに、この制度の発想の転換がある。背後には、長く使える製品が幾度も持ち主を替えるという見方もあった。メーカーはこれを、使い捨てではない価値の継承として語る。中古を黙認から事業へと転じたこの動きは、スイス時計産業が長く他者に委ねてきた領域を、自らの内へ取り戻す過程の一つであった。