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腕時計史 · MILESTONE — 第7章 現代
2015

アップル ウォッチ発売

腕に着ける情報端末が、機械式とは異なる論理で時計市場を再編し始めた——その本格的な始点となった製品である。

§ 00 Overview

2015年4月24日、アップルはApple Watchを発売した。前年9月に予告された製品で、4月10日に予約を受け付け、24日に正式発売した。アルミのスポーツ、ステンレス、18金のエディションという三つの素材違いが用意され、価格は349ドルから1万ドル超まで幅があった。時刻表示・通信・健康管理を担う腕の上の端末として位置づけられ、初期の出荷台数は推計で数百万台に達したとされる。スマートウォッチはそれ以前にも試みられていたが、この発売を境に量産市場として本格化した。ぜんまいではなく電池とソフトウェアで動くこの製品は、腕時計という言葉の指す範囲そのものを問い直すことになる。

§ 01 Background

腕に着ける小型コンピューターという構想は、Apple Watch以前から存在した。2000年代のマイクロソフトから2010年代初頭のサムスンやペブルまで、複数の企業が試作や製品を世に送り出していたが、多くはかさばり、機能も限られ、広い支持を得るには至らなかった。一方で2007年の初代iPhone以降、人々は時刻の確認を腕時計ではなく携帯端末で行うようになっていた。腕時計の存在理由そのものが揺らぐなかで、腕に着ける機器に新たな価値をどう持たせるかが問われていた。

アップルは2014年9月、iPhone 6と同じ場でApple Watchを予告した。だが製品はすぐには市場に出ず、発売までには間があった。この間、伝統的な時計界の反応は割れていた。一部の作り手は静観を選び、別の者はスマートウォッチへの参入を探った。タグ・ホイヤーを率いていたジャン=クロード・ビバーが製品の意匠を公然と低く評価したように、スイス業界には懐疑も根強かった。

§ 02 The Event

2015年4月10日、アップルはApple Watchの予約受付を始めた。対象は米国・英国・日本・中国など複数の国で、同日から店頭での実機展示も始まった。正式な発売は4月24日。前年9月の予告から約7か月を経ての登場だった。

製品は三つの系列で構成された。アルミニウムケースのApple Watch Sportは349ドルから、ステンレススチールのApple Watchは549ドルから、18金ケースのApple Watch Editionは1万ドルからという価格だった。ケースは38mmと42mmの二種類で、バンドや文字盤を替えて個人化できる点が前面に押し出された。

アップルはこの製品の役割を三つに整理した。正確な時計、身近で即時の通信機器、そして健康とフィットネスの相棒である。心拍センサーを内蔵し、iPhoneと連携して通知や運動量を扱った。発売当初は店頭の在庫販売を採らず、オンライン予約と取り寄せを基本とし、その後に店頭在庫を段階的に整えた。

予約は初日から集中し、米国では受付開始から数時間で用意した初回分が尽きたと伝わる。供給が需要に追いつかず、予約分の出荷にも遅れが生じた。出荷台数をアップルは公表していない。調査会社の推計では、2015会計年度第2四半期に数百万台規模が販売されたとされる。賛否は分かれたものの、ウェアラブル端末としては大きな販売規模となり、発売初年に100億ドル規模の事業になったとする分析もあった。

§ 03 Significance

Apple Watchの発売後、腕時計市場の構図は大きく変わった。まず台数の面で、スマートウォッチが既存の時計を急速に上回っていく。調査会社の推計では、2017年ごろにApple Watchの出荷台数がスイス時計産業全体の輸出本数を超え、その差は以後広がった。2019年にはアップルが約3,000万台を出荷し、スイス側の約2,100万本を引き離したとされる。

もっとも、台数と金額は別の話だった。スイス業界は安価な量産帯を譲り、高価格帯に軸足を移していく。出荷台数で逆転された後も、金額ではスイス側が上回る年が続いたとされる。1台あたりの平均価格はApple Watchが数百ドル規模にとどまり、高価格帯に寄ったスイス時計とは購買層も用途も重ならなくなった。

棲み分けだけが反応だったわけではない。発売と同じ2015年の終わりには、当初は否定的だったタグ・ホイヤーが自らスマートウォッチを発売している。伝統的な作り手も、この製品を無視できなくなっていた。

こうした分化は、腕時計という言葉が指すものを変えた。時刻を知る道具としての役割は携帯端末とスマートウォッチが引き受け、機械式時計は実用品から文化・趣味の対象へと位置づけを移していく。その問い直しの行方は本史の結びで改めてたどる。

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