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腕時計史 · MILESTONE — 第7章 現代
2014

アップル ウォッチ発表

腕という時計の定位置に、携帯端末と結ばれた機器が名乗りを上げた——時計業界はそこに好機と脅威の両方を見た。

§ 00 Overview

2014年9月9日、アップルはカリフォルニア州クパチーノのイベントでアップルウォッチを発表した。iPhone 6および決済機能Apple Payと同じ場で披露された、同社初のウェアラブル端末である。ティム・クックがステージで装着して見せ、操作にはリューズを模したデジタルクラウンを据えた。本体はアルミ、ステンレス、18金の3系統で、価格は349ドルからとされた。発売は翌2015年初頭と告げられた。動作にはiPhoneとの連携が前提で、時刻表示にとどまらない新たな機器の登場を市場に印象づけた。

§ 01 Background

携帯電話が時刻を知る道具を兼ねるようになり、腕時計を持たない人も目立ち始めていた。そうした流れの中で、腕に着ける電子機器という構想は2010年代前半に現実味を帯びる。複数のメーカーが小型の情報端末を腕向けに投じていたが、広い支持を得るには至っていなかった。

アップルが腕装着型の機器を準備しているという観測は、数年にわたり繰り返されていた。報道では仮称として『iWatch』の名が飛び交い、形状や機能をめぐる臆測が絶えなかった。アップル製品としては、今世紀でも長く噂が続いた部類だったとされる。同社は開発を秘密裏に進め、外部の元技術者を含む陣容で設計を固めていったとされる。

腕という場所は、長く機械式・クォーツの時計が占めてきた領域である。そこへ携帯端末と連携する電子機器が入り込めば、時刻を知る道具としての腕時計の意味は揺らぎかねない。発表の数日前には、アップルのデザイン部門の責任者がスイス時計産業は苦境に立たされると語ったと伝えられ、業界に波紋を広げていた。

§ 02 The Event

2014年9月9日、アップルはクパチーノのフリント・センターでイベントを開いた。この日に披露されたのはiPhone 6とiPhone 6 Plus、近距離通信を用いる決済機能Apple Pay、そして同社初のウェアラブル端末アップルウォッチである。発表の終盤、ティム・クックは『もう一つ』と切り出し、自らの腕に着けた現物を示してみせた。アップルにとっては2010年のiPad以来となる、新たな製品分野への参入だった。

操作の中心には、機械式時計のリューズを思わせるデジタルクラウンを据えた。これを回して画面を拡大・移動し、押し込んで操作する仕組みで、アップルはこれを過去の主要な操作系に並ぶ新たな入力手段と位置づけた。本体は2つのサイズで用意され、ケース素材によって3系統に分けられた。アルミのアップルウォッチ・スポーツ、ステンレスの標準モデル、そして18金のアップルウォッチ・エディションである。価格は349ドルからと示されたが、上位モデルの具体的な価格や電池の持続時間など、詳細の多くはこの日には明かされなかった。

文字盤は複数の意匠から選べ、ベルトも交換できる構成とされた。メッセージや通話への応答、健康・運動の記録といった機能が紹介された。クックは『これは縮小したiPhoneではない』と述べ、独立した新しい機器であることを強調したが、単体では完結せず、動作にはiPhoneとの連携が前提とされた。発売時期は翌2015年初頭と告げられ、実際の出荷は翌年春となった。

§ 03 Significance

発表で、競合の輪郭がはっきりした。携帯電話やパソコンと違い、アップルウォッチは腕時計と正面から重なる製品だった。

もっとも、既存の時計業界の反応は一様ではなかった。スウォッチ・グループのニック・ハイエックは、これを脅威ではなく時計を着ける人を増やす好機と捉えた。LVMHで時計部門を率いたジャン=クロード・ビバーも、当初は直接の競合とは見なさない姿勢を示した。一方でスウォッチ開発に関わったエルマー・モックは、かつてのクォーツ危機を引き合いに、業界の楽観を戒めた。発表に先立ち、アップルがTAGホイヤーの販売責任者を引き抜いていたことも、両者の距離の近さを物語っていた。

技術の面では、デジタルクラウンという操作系の意味が大きい。小さな画面を指だけで扱う難しさに対し、回転と押下という機械式時計由来の身ぶりを応用した点に、時計の伝統を踏まえた設計思想がうかがえる。ただしこの日はあくまで予告であり、出荷規模や機械式時計との関係といった現実の問いは、翌2015年の発売(#118)以降に持ち越された。iPhone(#114)に続いてシリコンバレーが腕の上の時間を問い直したこの一歩は、アメリカ時計史(R5)が異業種からの再定義へ向かう転換点となる。

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