03 — EDITORIAL
系譜と歴史
Genealogy & history
1. 3600系という世代交代
エル・プリメロは、1969年に複数の陣営が自動巻クロノグラフの実用化を競うなかで登場した、高振動の自動巻クロノグラフである。同年にはホイヤーらのクロノマチック陣営やセイコーも同種の機構を世に問うており、その先後はいまなお議論が残る。ゼニスはこの基幹キャリバーをCal.400系として長く生産し続けた。
その更新を担ったのが、エル・プリメロ3600系である。原型は2019年、エル・プリメロ誕生50周年の記念セットで限定的に披露された。通常生産に乗ったのは2021年のクロノマスター・スポートが最初で、パワーリザーブを50時間から60時間へ延ばし、秒針停止機構を新たに備えた。最大の眼目は、中央のクロノグラフ秒針が10秒で一周する設計により、1/10秒を文字盤上で直接読み取れるようにした点にある。Fratelloは、3600系が一体型の構成と自動巻、高振動という初代の要素を受け継ぐ、ゼニスのクロノグラフの正統な後継だと書いている。
2. 開放設計の派生、3604
3604は、この3600から日付表示を取り去り、地板と受けを開いた変種である。Monochromeは、地板と受けを開いて5Hzの脱進機を見せられるようにしたこと以外は3600とまったく同じだと説明する。文字盤の9時位置の小秒は半透明の樹脂の板の上に置かれ、脱進機とテンプの上には円い開口が設けられた。Fratelloは、その開口から紫色のシリコン製ガンギ車と5Hzのテンプが見えると書いている。
「オープン」という発想自体は新しくない。Fratelloによれば、ゼニスは2003年に初代のクロノマスター・オープンを発表し、文字盤を開いて機械の鼓動を見せるクロノグラフを最初に市場へ送り出したブランドとなった。2022年の新しいクロノマスター・オープンは、クロノマスター・スポートからセラミックのベゼルを外し、文字盤に開口を設けた構成で、直径はスポートより1.5mm小さい39.5mmとなる。ステンレススチールのマットシルバーとブラック、そしてゴールドの版で始まり、同じ年の9月には青文字盤のブティック・エディションが加わった。
3. 高振動クロノグラフの現在地
エル・プリメロは、その高い振動数ゆえに長く特異な地位を占めてきた。1988年から2000年にかけては、ロレックスがデイトナの自動巻機構の母体としてこの系統を採用したことでも知られる。3604は、5Hzの脱進機という見どころを、文字盤の側から眺められる形にまとめた派生キャリバーと位置づけられる。
05 — MECHANISM
技術解説
Technical breakdown
高振動が支える計測精度
エル・プリメロ3604は、毎時36,000振動 (5Hz) で作動する。テンプ(振り子に相当する調速機構)が1秒間に10回振れることを意味し、クロノグラフが刻める最小単位は1/10秒となる。振動数が高いほど一拍あたりの時間誤差が姿勢変化に左右されにくく、瞬間的な衝撃に対しても歩度が安定しやすい。反面、消費エネルギーは増すため、香箱の効率や潤滑に高い水準が求められる。Fratelloは、5Hzのテンプとアンクル、ガンギ車の速い動きを見せられることこそ、この機械を開いて見せる価値があると評している。
ガンギ車に連なるクロノグラフ
3604が属する3600系の核心は、10分の1秒を表示する輪列にある。中央のクロノグラフ秒針は、時計の輪列でもっとも速く回るガンギ車に連なる歯車列によって駆動され、通常の秒針の6倍の速さで回る。この針が10秒で一周し、その円周を細かく区切った目盛りで1/10秒を読む。これにより、高振動が本来もつ1/10秒の分解能を、針の位置として直接表示できる。積算計は6時位置が60分、3時位置が60秒で、9時位置に常時運針の小秒を置く。クロノグラフの制御にはコラムホイールを使い、動力の伝達は水平クラッチによる一体型の構成である。
シリコン脱進機と開いた地板
ガンギ車とアンクルはシリコンで作られる。シリコンは軽量かつ非磁性で、潤滑への依存も小さいため、油の経年劣化や磁気の影響を受けにくい。3604では地板と受けを開くことで、このガンギ車とテンプを文字盤の側から観察できるようにした。小秒の土台を半透明の樹脂の板とすることで、運針の機能を保ちながら脱進機への視界を確保している。
巻上げとパワーリザーブ
自動巻機構は星形のローターを備える。パワーリザーブはCal.400の約50時間から60時間へと延ばされ、秒針停止機構によって時刻を秒まで合わせられる。3604は日付を持たないぶん構成も簡潔で、地板と受けの開放設計は、装飾としてだけでなく、高振動の脱進機という機構の要点を見せる意図をもつ。
開口の意匠
開口は、脱進機とテンプの上に設けた円い窓の形をとる。Fratelloによれば、開口の形は先代のクロノマスター・オープンに近いものの、以前の縁取りの枠はなくなり、控えめな面取りに置き換えられた。積算計には二色のスネイル仕上げが施され、半透明の小秒の板と対比をなす。サファイアクリスタルが文字盤側と裏蓋側の両方を覆い、星形のローターと機械の動きを表裏から眺められる。