MT5450-U
2024年、MT5400系を基盤にGMT機構とマスター・クロノメーター認定を統合した、ブラックベイ58 GMTの中核ムーブメント
MT5450-Uは、チューダーが2024年に発表した自動巻きGMTキャリバーである。製造は同社が主導して設立した専業メーカー、ケニッシ社が担う。現地時間を示す時針が単独で1時間ずつ動くフライヤー式GMTを採用し、ブラックベイ58 GMTに初搭載された。振動数は28,800vph (4Hz)、石数は34石、パワーリザーブは65時間。非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイを備え、COSCに加え公的機関METASのマスター・クロノメーター認定を取得する。GMT機構を別モジュールに頼らず基盤キャリバーへ統合し、薄型化と高い耐磁性能を両立させた点に特徴がある。
| Maker | Tudor |
|---|---|
| Reference | MT5450-U |
| Type | Automatic |
| Display | Analog |
| Frequency | 28,800 bph (4 Hz) |
| Jewels | 27 石 |
| Power reserve | 65 h |
| Movement ⌀ | 30.3 mm |
| Hands | Hours, Minutes, Seconds, Additional 24 Hour Hand (adjustable) |
| Additional | Chronometer |
系譜と歴史
1. 中判GMTという空白
チューダーは2015年以降、ケニッシ社製の自社開発キャリバー群を「マニュファクチュール・キャリバー」として展開してきた。GMT機構については、2018年のブラックベイGMTがCal.MT5652を搭載し、2022年のブラックベイ・プロへと受け継がれた。ただし両機はいずれもケース厚14.6mmと厚みがあり、39mmケースのブラックベイ・プロでも装着感に好みが分かれた。一方、3針モデルではブラックベイ54(2023年)が37mmの薄型ケースを実現し、小径・薄型路線への需要を裏づけていた。GMT機能を備えつつ、より中庸な寸法に収める――MT5450-Uはこの空白を埋めるために開発された。
2. 基盤への統合という設計思想
MT5450-Uは、3針のCal.MT5400(ブラックベイ54に搭載)と同じ約30.3mm径の設計枠を基盤とする。チューダーは、新機能を別個のモジュールとして上載せするのではなく、基盤キャリバーの構造そのものへ織り込む方針を採る。GMT表示の輪列も、この基盤アーキテクチャーの内部に統合された。結果として、先行するMT5652より機構の厚みを約1.4mm削ることに成功し、ケース厚は12.8mm、200m防水を保ったままブラックベイ58 GMTの寸法に収まった。加えて、本機はCOSC認定にとどまらず、公的計量機関METASによるマスター・クロノメーター認定を取得している。GMTという実用機構と最上位の認定を同時に満たす点が、MT5652世代との明確な差異となる。
3. GMT-Masterの系譜のなかで
MT5450-Uが採るのは、現地時間の時針が単独でジャンプするフライヤー式GMTである。この操作系は、1954年に登場したロレックスGMT-Masterが確立した旅行者向けの方式に連なる。ケニッシ社製のMT5652も同じ操作系を持ち、両機は振動数・シリコンヒゲ・3時位置の日付という共通基盤を分け合う。本機はそれを薄型・高認定の枠組みへ移し替えた世代といえる。汎用GMTモジュールを外部に求めず、自社の基盤設計を漸進的に拡張する――この積み上げの方法論こそ、MT5450-Uが体現するチューダーの開発姿勢である。
技術解説
調速機構
MT5450-Uは毎時28,800振動 (4Hz) で作動する。テンプ(往復運動で時を刻む輪)が1秒間に8回振れる計算で、4Hzは現代の実用機の標準値であり、衝撃に対する安定性と精度のバランスに優れる。テンプには慣性モーメントを調整できる可変慣性バランス(リムの調整錘で緩急を整える方式)を採用し、これを2点で固定する横断ブリッジが支える。ヒゲゼンマイ(テンプの往復を司る渦巻きバネ)には非磁性のシリコン製を用い、磁場の影響を受けにくいうえ、温度変化に対する形状安定性にも優れる。緩急の微調整は調整錘ねじによって行われ、量産機としては追い込みやすい構成を採る。
GMT機構と日付
本機のGMTは、現地時間を示す12時間制の時針を単独で1時間ずつ送れるフライヤー式である。リューズ1段引きで時針のみがジャンプし、日付もこれに同期して瞬時に切り替わる。三角形の尖端を持つ24時針はホーム(基準)時間を指し示し、双方向回転ベゼルと組み合わせれば第3タイムゾーンの読み取りも可能となる。これらGMT表示の輪列は独立モジュールではなく、基盤キャリバーの構造内に組み込まれている。ストップセコンド(秒針停止)機構も備え、秒単位での時刻合わせに対応する。
巻上げと仕上げ
自動巻きは双方向ローターによる。ローターはボールベアリングで支持され、両方向の手首の動きを巻上げに変換する。ローター本体はタングステン製のモノブロック構造で、肉抜きを施した形状に放射状のレーザー装飾とサンドブラスト仕上げを併せ持つ。受け板と地板はサンドブラスト、研磨、レーザー加工を組み合わせた質感に整えられる。単一の香箱(ゼンマイを収める部品)が65時間ぶんのエネルギーを蓄え、石数は34石を数える。週末に外しても止まりにくい実用域を、過度なゼンマイの長尺化に頼らず確保した点に設計の妙がある。
認定と精度
MT5450-UはまずCOSC(スイス公式クロノメーター検査機関)の認定を受ける。COSCが地板単体で日差-4/+6秒を許容するのに対し、チューダーは完成時計に-2/+4秒というより厳しい基準を課す。さらに本機は、スイス連邦計量・認定局METASによるマスター・クロノメーター認定を取得する。この認定は、ケースに収めた完成状態での日差0/+5秒、15,000ガウスまでの耐磁性、パワーリザーブと防水性能の実測検証までを独立機関が確認するものである。シリコンヒゲによる磁気耐性と、二段構えの精度検証が、本機の信頼性を裏づけている。