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CALIBER · SPEAKE-MARIN

Eros

Eros
自動巻 Automatic

テクノタイムの5日巻を仕上げ直し、Cabinet des Mystèresの物語を駆動した自動巻

OVERVIEW · 概要

Erosは、スピーク・マリンがテクノタイム社のTT738を基礎に仕上げ直した自動巻きキャリバーである。毎時28,800振動 (4Hz)、約5日間のパワーリザーブを備え、二つの香箱を直列に連結して長時間の駆動を得る。2013年から2014年にかけてのCabinet des Mystèresに用いられ、髑髏を主題とするFace to Faceなど、文字盤を物語の舞台とする作品群を裏側から支えた。地板と受けには同社の意匠に沿う仕上げが施される。

SPECIFICATIONS · 仕様
MakerSpeake-Marin
TypeAutomatic
Frequency28,800 bph (4 Hz)
Jewels28 石
Power reserve120 h
EDITORIAL · 編纂

系譜と歴史

Genealogy & history

英国人時計師の独立

ピーター・スピーク=マリンは1968年に英国で生まれ、ハックニーの時計学校で学んだのちスイスへ渡った。ル・ロックルのWOSTEP課程を経てジュネーブの修復工房で古典時計の修理に携わり、2000年代初頭にはルノー・エ・パピが手がける複雑機構の開発にも加わっている。2002年、自身の名を冠したブランドを立ち上げた。

素体を選ぶという方法

独立系の時計づくりには二つの道がある。一から機械を起こす道と、既存の素体を選んで自らの水準まで仕上げ直す道である。スピーク・マリンは創業から長く後者を採ってきた。

創業者ピーター・スピーク=マリンが独立時計師として歩み始めた2002年から、自社工房でムーブメントを組む体制が整う2015年頃までのあいだ、同社の時計はヴォーシェやテクノタイムといったスイスの供給者から素体を得ている。設計を借りることは、意匠と仕上げに資源を集められることを意味した。

テクノタイムTT738という選択

Erosの母体となったテクノタイム社のTT738は、二つの香箱を直列に連結して長いパワーリザーブを得る自動巻である。5日間という持続時間は、日常の着用で週末に外しても止まらない長さにあたる。

スピーク・マリンはこの素体に自社の仕上げを施し、Erosの名を与えた。ギリシャ神話の愛の神を指す名は、Cabinet des Mystèresが主題とする生と死の対比を意識したものとみられる。

物語を支える裏方

Erosが担ったのは、複雑機構ではなく持続だった。Face to Faceの文字盤は化学エッチングで向かい合う二つの骸骨を描き、Dong Sonは古代銅鼓を彫刻する。いずれも文字盤の表側が主題であり、機械はその背後で静かに時を刻む。

5日間という余裕は、こうした作品が飾り棚に置かれる時間の長さにも見合っていた。

名の由来

Erosという名は、同社が用いた他のキャリバー名と同じく神話に由来する。スピーク・マリンは自社の機械にEros、Dong Son、Velshedaといった名を与えてきたが、いずれも数字による型番とは別の記憶を呼び起こす意図が働いている。数字が仕様を示すのに対し、名は作品の性格を示す。

創業者が2017年に同社を離れた後も、ブランドは彼が定めた意匠の語彙を引き継いでいる。ピカデリー・ケース、5時位置のトピング・ツール型リューズ、ハート型の針。Erosを積む作品群は、その語彙が最も自由に展開された時期の産物である。

MECHANISM · 機構と仕様

技術解説

Technical breakdown

構成と主要諸元

Erosは自動巻きのキャリバーである。振動数は28,800vph (4Hz)、パワーリザーブは約120時間。時・分・秒を表示する。二つの香箱を直列に連結し、一方が解けきる前にもう一方が動力を供給する構成を採る。

直列二香箱という設計

長いパワーリザーブを得る方法はいくつかある。ぜんまいを長くする、香箱を大きくする、そして複数の香箱を連ねる。直列連結は三つ目にあたり、二つの香箱が順に動力を放出することで持続時間を倍近くまで伸ばす。

ただし持続時間の全体でトルクが一定になるわけではない。終盤に向けて放出圧は下がり、テンプの振り角も落ちる。5日巻と称する機械の多くが、実用上の精度を保てる範囲をそれより短く見積もるのはこのためである。

仕上げという付加価値

スピーク・マリンがErosに加えたのは、機構ではなく仕上げである。地板と受けには同社の意匠に沿う装飾が施され、ローターにも独自の加工が入る。素体としてのTT738と完成品としてのErosを分けるのはこの層にあたる。

同社が2015年以降に自社工房での組立体制へ移り、SMA系列のキャリバーを展開するようになると、外部素体に依存する構成は次第に後退した。Erosは、その転換期の手前に位置する機械である。

素体の系譜

テクノタイムは2000年代にヌーシャテルで長時間駆動の自動巻を供給した会社である。TT738のほかTT718など複数の型番を持ち、独立系ブランドの選択肢として一定の位置を占めた。ETAの外部供給が絞られていく時期にあたり、素体の調達先を確保することは独立系にとって死活の問題であった。

スピーク・マリンがこの素体を選んだ背景にも同じ事情がある。自社で機械を起こす資源が整うまでのあいだ、信頼できる供給者から素体を得て仕上げに注力するという判断であった。

表示の構成

Erosは時・分・秒という基本的な表示にとどまる。Cabinet des Mystèresの各作は文字盤の側で複雑な物語を語るが、その裏側で動く機械は簡潔である。装飾と機構の役割を分けるこの構成は、意匠を主題とするコレクションに適していた。

巻き上げ

中央ローターによる自動巻きで、腕の動きを二つの香箱へ配分する。手巻きにも対応し、長期間外していた個体を素早く立ち上げられる。5日という持続時間は、複数本を持ち回る所有者にとって実用上の余裕を与える設定である。

04 — CARRIERS · 搭載モデル一覧

このキャリバーを搭載する 1 本のリファレンス

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